2回目の世界大会・・・対談×山田選手

前回のHORUキャプテン増田選手との対談に続き、HORU不動の右漕ぎ山田選手にもお話を伺うことができました。

現在現役のレースラフターの多くは『HORU』というとキャプテンの増田選手や、元テイケイの辻田選手をイメージする方が多いとは思いますが実は本当に最初の頃の『HORU』立ち上げ期から現在まで活動しているのは山田選手のみなのです。

そんな山田選手ですが実は2010年の世界大会にユース枠として出場していた元祖ユースチームでもあります。そこで今回は学生と社会人2回の世界大会を乗り越え家庭も抱えるお父さんパドラーである山田選手について取り上げていきたいと思います。(※現在のジュニア枠とユース枠を合わせたようなものが当時の年齢制限で、現在は組み分けが増えた形になります。)

Profile 現役お父さんパドラー山田選手

記憶に新しいところだと、2023年春のみたけカップで親子ダッキーをしていたのが山田選手です。どうしてもHORUというと増田選手や辻田選手に目が行きがちですが、HORU歴自体は一番長く頼れる兄貴のようなHORU右ラインには欠かせない存在です。現役時代はユース枠(現在のジュニア枠)が初めて設けられた2010年オランダの「ダッチウォータードリームス」に代表選手として出場し日本で初めてラフティング世界大会に出た学生8人の1人になりました。現在は二人のお子さんの父親をしている傍らHORUとしても活動を続けています。

2010年オランダ大会の記憶

ユース枠(現在のジュニア枠)のラフティングレースがオープンカテゴリーと分けられて始まったのが2010年ダッチウォータードリームスのようですがその当時と現在では選考方法が少し異なったようです。

KEN
KEN

山田さんは2010年の世界大会(IRF大会)に現役時代出場し、今回はWRF世界大会となったわけですが当時は色々な大学の選手がごちゃ混ぜでやっていませんでしたっけ?

山田選手
山田選手

そうなんです!あの当時初めて世界大会に学生を派遣するにあたり選考会的なものがあったんですが、それがチーム単位じゃなくて個人の選手単位によるものだったんですよね。ただ、選考も8人の枠に対して結果的に8人しか受けなかったからほぼほぼ全員合格って感じでした。

KEN
KEN

でもメンバー見ると当時はほぼ学生最強かなってメンバーでしたよね。

山田選手
山田選手

そうだね。五十嵐コンバイン(当時の新潟大学エース艇)の二人とかも来てたし他のメンバーもそれぞれの大学でやる気のあるエース的なのが揃ってはいたね。

KEN
KEN

現在のチーム単位の選考だと埋もれてしまうような選手たちを寄せ集めて選抜メンバー的な感じでやってたのなんかいいですね!笑

山田選手
山田選手

よかったし面白かったけど、でも勝ちにはいけない感じはあったよね。結局みんな大学も違って練習時間確保できない上に背景が違うから当然漕ぎ方も違ってそんなの合わせる時間もないしね・・・。やっぱり本気で表彰台目指すならチーム単位で練習していかないと無理かなっては感じました。ただ、それだと結果的に各大学のやる気はあるけどチームが組めない選手が埋もれちゃうからってテイケイの小泉さんがアガラスとか作って拾っていってるって感じが現在ですよね。

2010年オランダ大会はテイケイが初めて世界1位を獲得した年でもあります。日本のレースラフティングシーンの歴史的瞬間にも立ち会った山田選手ですが、現在のレースラフティングを取り巻く環境には少々不満もあるようです。

山田選手
山田選手

正直アガラス作って埋もれそうな選手を拾うなんて小泉さんの考えることではない気がするんですよ。本当はもっとラフティング協会が機能してチームごとの選考と選抜選考分けるとか・・・。まだ、小泉さん選手だし本当はもっと自分の競技に集中させてあげたいじゃない!?僕とかももう40手前まで来てまだまだ選手は続けたいしマスターズも狙ってるけど、同時にラフティングに恩返ししたいって気持ちもあるんですよ。だから機会があるなら増田さんとかともっと機能するレースラフティング協会にしていきたいなとは思ってます。そして選手たちがある程度競技に集中していける環境整備ができればとは思っています。

増田選手の取材時にも言われたことですが、やはり協会として日本選手団を取りまとめて「チームジャパン」として臨みたいという思いがHORUメンバーの中では強いようです。もちろんHORUには若いメンバーもいて全員が全員そっちの方向を向いているわけではありませんしそういった選手にはまだまだ活躍してほしいと思う一方、後進の育成や支援にもかなり前向きなようです。

世界大会に向けて取り組んだこと

山田選手は家庭もあり子供もいてなかなか練習には参加できなかったそうです。HORUのインスタなどを見ている人は「結構な頻度で練習しているな」と思っている人も多いかもしれませんが、それは都心在住のごく一部で家庭もあり離れた場所に住むメンバーはその限りではありません。それでは山田選手は世界大会に向けてどんな練習をしていたんでしょうか?

KEN
KEN

家庭もあり子供もいてなかなか練習できませんよね?どんな感じで世界大会までの期間を過ごしたんですか?

山田選手
山田選手

本当に練習はできなかったね。実際漕いでたのは本当に月1とかの練習くらいかな。でもその分筋トレとかは結構な頻度でしてたかな。世界大会決まってチームの方針決まってやり方も変えたしね。

KEN
KEN

月一しか漕いでないんですか?!より筋トレや個人練習の頻度が重要になりますね。

山田選手
山田選手

漕ぎたくても漕げないよね、家庭もあるし・・・笑。奥さんとも話してて月一はまだ頑張りたいから行かせてって形で行かせてもらえるんですよ。でも、もちろん奥さんもやりたいことあるし、それ以上はやっぱりできないかな。筋トレは平日とかの夜行ってるかな。子供が9時とか10時に寝るから寝かしつけた後ジムに行ってって感じ。

KEN
KEN

10時以降また家出るんですか!?昼間普通に仕事してますよね!?

山田選手
山田選手

仕事してるよ!!笑 でも世界大会とか目標決まったらそんなもんでしょ!やっぱり漕げない分足引っ張らないように自分でできる体力だけは努力するよね。

増田選手の取材の時もそうでしたが、HORUは目標が決まると各自努力し始めるチームのようです!笑 しかも誰かに言われたからとではなくそれぞれが普段の練習で「自分にはこれが足りない!!」と感じ各々自分に合わせたメニューで練習しているようです。確かにコーチングの理論でも選手個人が抱える課題はそれぞれ違うので別メニューを組めるのならそれが理想という考え方もあります。それを選手個人個人が勝手に達成してくれるので非常に意識が高いチームと言えるでしょう。

KEN
KEN

先ほどやり方も変えたとおっしゃっていましたが、具体的にはどんな感じで変えたんですか?

山田選手
山田選手

基本的に今までは筋肥大を狙った重めのウェイトトレーニングをしていたんですが、選考会でも「ラフティングでは瞬間的なパワーはそこまで必要ない!」と感じ、7割から8割くらいのそこそこ大きなパワーを出し続ける練習に切り替えました。持続的に常に8割が出続けるようなイメージかな。今までは重いのを10回とかだったのが、軽くして20回を30回に、30回を40回にといった感じで力の発出時間を伸ばせるようなトレーニングに切り替えました。

KEN
KEN

うーん・・・。それって筋持久力ってことですか?

山田選手
山田選手

持久力・・・とはちょっと違う感じかな。うまく言語化できないけど、ある程度重いものをパッパッって感じで素早く動かす回数を増やしていくイメージが強いかな。

山田選手
山田選手

あと、主に鍛えているのは背中の筋肉でベンチプレスとかはやらなくはないけどあんまり取り入れてなかったかな。結局ラフティングで主に使う上半身の中で一番大きい筋肉は背中だし、大きな筋肉を使って漕いでいくっていう意識で背中も鍛えてました。

筋トレ一つとってもやり方を模索し変えているんですね。トレーニーの方に言わせれば「それは筋肥大しない。非効率だ!」と言われるようなものでもそれで実際にトップを取るようなアスリートがいるので奥が深いですね。私自身山田選手に似たような理論でトレーニングしているカヌーナショナルチームも知っています。自分の身体に合った、信じた理論に則ったトレーニングを持っているというのも強みなのでしょう。

他になんかトレーニングはしているのかも質問してみました。

KEN
KEN

ジムに行ってトレーニングと言っていましたが有酸素とかは取り入れてるんですか?

山田選手
山田選手

してますね。でもそこまで有酸素には比重置いていなくてDRが30分前後なんで30分は息切らさずに走れるようになろうと思ってトレッドミルで毎回30分やってます。大体キロ4分ちょっとで途中で負荷上げていく感じでやります。

KEN
KEN

キロ4?!早くないすか!?笑 ラフティング選手が練習で出すタイムじゃない!!笑

山田選手
山田選手

あくまでも体の循環というか息あげないための練習なんでそこまで重視はしていないですけど、おかげで今回の世界大会でも息切れ終わりとかはなかったかな。

普段練習していない人がキロ4分で30分(約7.5キロ)走るとブっ倒れ終わりが待っているでしょう笑。終始山田選手は「自分は普段漕げない分体力で補うしかない。」と言っていましたがこういった普段の努力が月に一回漕ぐ時の弾みになって一発でうまくなるというモチベーションにつながっているのかもしれません。

普段から練習できない環境だからと言い訳せず、自分でできることは何なのかというのに真摯に向き合っていく姿というのはとても参考になるところがあります!

レース前のメンタリティー

前回記事で増田選手にも聞いたレース前のメンタリティーですが山田選手にも聞いてみました!コレに関しては私が緊張しがちなので色々な人に「どうやってますか?」というのを教わりたいがために聞いている節もありますがご勘弁ください…笑

KEN
KEN

前回増田さんにも聞いたことなんですが、山田さん自身はレース前緊張とかしますか?

山田選手
山田選手

全くしない!!笑 なんならレースラフティングで緊張したことない!!

KEN
KEN

確かに山田さん緊張してるイメージはないですけど、どうしてですか?

山田選手
山田選手

高校生の頃までは野球やってて、確かに打席とか入ると緊張してたんですよ。でも大学でアドベン(アドベンチャークラブ)入って川以外の活動とか色々な経験してるうちに「死ななきゃ大丈夫だな!」っていう感覚になってきて…笑。レースやる川って基本ちゃんと装備つけてればある程度安全だし…「まあ、死なんやろ!」って感じです。

KEN
KEN

強メンタルすぎません!?アドベンで何してたんですか!?

山田選手
山田選手

キャベツ(HORUの立ち上げメンバー)と二人で洞窟1週間生活とか…笑。洞窟ってまじで太陽ないし体内時計も狂うし基本ずっと真っ暗だからどんどんネガティブになるんよ笑。それでも生きてるしあれに比べたら楽だなって思っちゃうし。そもそも死なないために普段から練習して努力してるし。レースに負けたって命なくなるわけじゃないし大丈夫!って感じ

山田選手
山田選手

それにラフトって4人とか乗ってるわけだからミスしてもお互い補填し合える競技だと思うんだよね。だから緊張してパフォーマンス下げて周りに迷惑かけることを考えれば緊張してる場合じゃないよね。

私からするとかなり飛躍した理論でしたが、普段からきちんと練習していると川も怖くない!危険も承知だが対策しているという発想になれるということが示されていますね。

あと、余談ですが世界大会の裏話としてちょっとだけ面白い話もしてくれました。

KEN
KEN

増田さんはかなり緊張するタイプだと言っていたので、同じ船に真逆のタイプがいるっていうのはかなり面白いですね。

山田選手
山田選手

それでいうと増田さん緊張しすぎてて・・・笑。レース前とか隣から「オエーーー!!」って嗚咽聞こえてきたり、体操の段階から挙動不審になってたりしてこの人大丈夫かな?って感じだったんだよね笑。横であんだけ緊張されると面白すぎてこっち緊張してられないよね!笑

キャプテンである増田さんの緊張は本人が思う以上にすごいものだったようです。他のメンバーは増田さんの緊張が凄まじすぎて緊張している暇はなかったようです。

最後に山田さんから「洞窟で過ごす」以外の緊張しないテクニックをもう一つ教えていただきました。

山田選手
山田選手

特にスラロームでなんだけど、レース前に頭の中で最低2回はコースシミュレーションをするのがオススメ!コース全部頭に入れて目を瞑って実際に身体をエアーで動こしながらどこで何をするかをフルランでイメージしてダメだったところとか、無理がありそうなところはやり方を変えてもう一回シミュレーションする。そうすると実際に発艇の時には3本目の感覚でいける。3本目なんか緊張しないじゃん!!っていうのがオススメかな。

これは実はスラローム界では有名なスカウティング方法で、それを自分で編み出してやっているあたり流石です!!

家庭環境と今後の活動

山田選手は社会人チームHORUの中でも数少ないお子さんがいる選手です。結婚している選手は数人いますが子供もいる選手は山田選手のみです。そこで家庭とHORUの両立について伺ってみました。

KEN
KEN

先ほど月一とかで奥さんから許可はもらってると言っていましたが、奥さんはラフティングに理解あるんですか?

山田選手
山田選手

実は全然(理解が)なかったんだよね。そもそもスポーツあんまやってない人だったから・・・。でも、当然だけど普段練習ない時は子供達の面倒見てるしお互いに月一ずつは個人の時間作ろうって話し合って行かせてもらってる感じだよね。世界大会とか規模が大きくなるともちろん例外だけど。

山田選手は確かにここ数回(選考大会など大きな大会以外)の大会は出たり出なかったりでした。それは子供の事情などがあったようです。確かに子供がいるとどっちを優先するかなどを迫られることはよくあることでしょう。基本的に小さな大会や草レース程度なら絶対に家庭を優先すると言いきっていました。そのような姿勢が奥さんが譲歩してくれるための積み重ねなのでしょう。

また、山田選手自身いつまで現役をこうして続けていきたいかも聞いてみました。

KEN
KEN

山田さん自身いつまで現役で行きますか?また、やめた後はどうしますか?自分の中では現役の頃直接関わって育ててくれた先輩ですし辞めると言われると少し寂しいんですが・・・

山田選手
山田選手

HORUというチームが存続する限りは続けていきたいし、将来的にはマスターズってのも面白そうだなとは思ってるよ。

山田さんがまだ辞める意思がないというのを聞けてちょっと安心しました。

コロナも下火になってきてこれからまたIRFの大会も再開するでしょうし、WRFも精力的に大会を開催していくと考えられます。家庭を持つお父さんパドラーにとってはいいモデルケースとなっているのが山田選手ではないでしょうか。今後の活躍にも期待しています!!

編集後記

キャプテンの増田選手の時は長くなったので2本立てにしましたが、山田選手のはこの記事で完結となります。内容が少ないというわけではなく、取材時間の大半を発信できないHORUの身内話に使ったりしてしまいました・・・笑。個人的にはとても楽しかったのですが、とても発信できる内容ではありませんでした。

今回「世界大会に向けて取り組んだこと」として練習内容を本当に簡単ではありますが紹介していますが、トレーニングは個人差が必ず生まれるので参考程度に読んでください。

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