前回取材の続き記事になります。
世界大会に出ようと思ったきっかけや、世界を見据えた練習について語ってもらった1部を読んでいない方はぜひそちらから読んでみてください。
得意競技と苦手競技
前回の記事の最後でダウンリバーは苦手だという風に言っていた増田選手ですが、今回はその続きからお伝えしていこうかと思います。
今回のWRF世界大会で言えばダウンリバーは言わば捨てることが配点的にもできるわけですがIRFルールだと不可能ですよね。
そうです!今回は本当にチームメンバーの確定や選考会からも時間がない中でやっていたのでやむなくダウンリバーは捨てましたがIRFルールではあってはいけない捨てですね!笑 やったら表彰台云々ではなくなってしまいます。
増田選手自身は個人的にダウンリバーは得意ですか?苦手ですか?
実は僕自身ダウンリバーは苦手なんですよ・・・笑 やっぱり得意なのはラフティングクロス(以下RX)とかH2Hみたいな相手がいる種目の方なんですよね。追い詰められた状態で「ここでは負けられない!」ってなった状態から自分たちの限界を超えて勝った時の解放感が好きですね。
やはり4種目(IRFでSP/H2H/SL/DR)+RXで5種目を1チームでこなすレースラフティングでは得意不得意は出ますね!他の競技ではなかなか無いようなシステムでは無いでしょうか?陸上十種のような感じでフィールドこそ同じだけど全く違う能力が求められるのがレースラフティングでは無いでしょうか。そんな中でもIRFのH2HやWRFのRXといった対人種目が得意な選手とDR・SLといったクラシックな競技が得意な選手がいるのはある意味では当然のことでしょう。
レース前のメンタリティー
増田さん自身H2HやRXが得意ということですが、レース前はテンション上がって楽しくなるタイプですか?私はただでさえ緊張して動けなくなるので相手がいる競技だとより緊張しちゃって全くダメなんですが。
いやいや自分も相当緊張するタイプです!笑 レース前なんかリアルに嗚咽が出るくらい緊張します。
スタートすると吹っ切れる感じですか?
そういうところもあります。でも、感覚的には10秒前くらいには気持ちが落ち着いている感じはあります。
いつもの流れとしてはスタート1分前のコールで決めているチームの掛け声を入れるんですが、その掛け声から徐々に気持ちが落ち着いていって10秒前のコールで完全に気持ちが凪の状態に入る感じです。そこでスタートコールが入るので落ち着いた状態でスタートできています。なので1分前以前に嗚咽しているのはある意味では掛け声から落ちていくためのいい緊張な感覚もあります。
すごいですね!それもスタート前のある意味ルーティンですね!
ルーティンになってしまいましたし今では気持ちを入れるためには必要不可欠な掛け声となっていますが、当初は「決まった掛け声があった方がチームとしてカッコいいだろう」というパフォーマンスの一部として始めたのがきっかけでした。
よくあるスタート前の掛け声ですが、私もレースに出る時はなんとなく掛け声を入れたりします。しかし、急造チームも多いことからか決まったものというのは一切なくなんとなくその場のノリで作ったものをやって場が盛り上がればいいやというものが多いです・・・笑。トップ選手の多くも取り入れている掛け声や練習前のルーティンというのはいつも同じ状態で入っていくという意味でも非常に重要なものなのでしょう。逆にこれを利用すれば練習でもレースのような緊張感を持たせることができて、レースでも練習のようなリラックスを産むことができるということになります。レースラフティング界に多い学生チームだと原則4年で卒業のため毎回同じチームで出場が叶わないというのが実情でしょう。そんな中でも伝統の掛け声を一つ作るというのも意味のあることなのではないでしょうか。
恐怖に打ち勝つ
緊張するといえば私自身は結構川自体が怖くなってしまうこともあります。「もしここでひっくり返ったら・・・」「そこの岩に引っかかってしまったら」と嫌な想像だけが膨らんでしまいます。そこで個人的にも少し聞きたかったことなのですがこういう質問をしてみました。
増田さん自身はラフティングをやっていて「この川怖!」って思った川はありますか?近い感じで誰かが落ちて「うーわ・・・終わった・・・」的な状況ってありますか?
そりゃまあいっぱいありますよ!笑 特に怖いでいったらやっぱりみなかみとか吉野は怖いと感じますね。選考レースでも吉野で「曲り戸」とか小歩危がコースに入ってくると「あそこいくんかーー」とはなりますね笑
経験としては、長良とかに後輩を連れて行って増水してたりするとやっぱり怖いって感じます。ケムシとかザンゲとか水増えると後輩連れていくのは怖いですね。それはなんか自分がどうっていうよりは落として怪我させちゃわないか心配って感じです。
後輩連れていくと知ってるから怖いってありますよね!後輩めっちゃ楽しんでたりするけど・・・
本当にそう!!笑笑 知ってしまったからの恐怖はありますね!後ろでこっちがヒヤヒヤしてて、後輩たちだけめっちゃ楽しんでるみたいなのはよくありました。
でも、そういった「失敗したらやばい!」っていうプレッシャーを乗り越えた時にしか自分の成長ってないなとも思っています。なので自分は少し怖くてもそのプレッシャーや責任からは逃げずに覚悟を決めて向かっていくくらいの気持ちでやっています。
ちなみに今回のWRF世界大会の川は怖くなかったんですか?
実はそんなに川自体は怖くなかったです!事前に下調べもしていましたし、何より水量の増減が激しい川でかなり全貌が見えていたので川に対する恐怖はそこまでではなかったです。
それよりも「何も結果を出せずに帰る」ことの方が怖かったです。選考会でテイケイさんといい勝負させてもらって他のチームからも期待して応援までしてもらって鳴かず飛ばずな結果で帰ることのほうがプレッシャーでした。表彰台こそ叶わなかったものの4位という結果は2年後のリベンジを誓うような結果で現状満足いく結果ではありませんでしたが、現時点ではやれることはやったという結果でした。
「プレッシャーや緊張は成長の糧」といった気概が感じられるお話しでした。前項のスタート前の緊張・嗚咽・ルーティンもそうですが、プレッシャーすら力に変えていく力を自信で身につけているのが増田選手のようです。よく言われることですが知れば知るほど、練習すればするほど自分が何ができないか見えてきてしまうので怖くなってしまうのではないでしょうか?川でいうと瀬の恐怖を知っている、レース前の相手に緊張するというのはそれだけ川を知り相手の強さも研究しているということなのでしょう。プレッシャーに向かっていく器というのもキャプテンには必要な要素なのでしょう。
次のステージは・・・
ここまでいろいろな質問をさせていただきましたが、最後に今後のことについて伺ってみました。
それでは今後HORUとして何を目指していくのか教えてください。
もう今の段階で2年後はみていますね!今回は少々付け焼き刃気味になってしまいましたが、今回出てみて課題は見えたので準備していきたいと思っています。そして2年後リベンジできた暁には今回以上の結果を表彰台という形で残せればと思っています。それによって「社会人でも継続すればやれるんだ!」という風に思ってもらえるようにしていくのがHORUのミッションの一つであるとも考えています。
2年後はまたWRFがありますが、来年は出ないんですか?それこそ冒頭少し話したチェコのローカルレースとか・・・?
実は考えてはいます!1年に1回くらいはやはり世界を相手にしたハイレベルなレースに参加しようとは話していて計画はしています。そんな中でやはり話に上がっているのが冒頭のチェコのレースかニュージーランド合宿です。現時点ではパドリングの本場チェコのレースが有力候補です。全員仕事や家庭はありますが年に1回くらいはなんとかして参加したいと考えています。
メンバーによっては小さな子供を抱えるメンバーもいるHORUですが、参加できる範囲で練習し、なんとか日程を合わせて世界に出ていくといったスタイルは本当にすごいです。
参加しようと考えているチェコのレースコースというのは首都プラハにあるもので、数々のオリンピアン・金メダリストを生み出し現在でも多くのスラローマーが登竜門とする非常に伝統あるコースです。ゴールからスタートまでスラ艇で腕があれば漕ぎ登れるコースで難易度調整が最高のコースとも言われています。そんな伝統あるコースでレースに臨むHORUの姿には期待しかないですね!
今後の増田さん個人の活動
WRF世界大会を終えて、HORUとしてもそうですが増田さん個人が今後のレースラフティング界発展について考えることも多かったようです。
実は今回お話しさせてもらった内容に関連して日本チーム全体の課題として感じたこともありました。海外のチームを見ていると上位をとったブラジルやアルゼンチンなどは国としてラフティングを応援していくれていたりして、かなりスタッフや資機材などバックアップが手厚い感じがありました。
それに対して日本はチームテイケイはバックアップというかフルスポンサーのテイケイさんがついていますが、それ以外はバラバラでほぼ個人参加という状態でした。長期的な視点で見たときに、気合を入れて1発かますことはできても継続的に勝っていくというのは困難だなと感じました。もっとわかりやすくいうと、世界大会に乗り込んでいるのに「日本選手団」という感じがなく、個人の努力でだけで成り立っているといった感じでしょうか。
言われてみればそうですね!これだけ世界1位とかバンバンとってるのにナショナルチームも持たないスポーツって珍しいですよね。
そうなんですよ!だから自分としてはもっと選手が競技に集中できるようにしていく環境を整えられればと思っています。そのための一つの取り組みとしてWRFのジャッジを取ろうと動き出しています。それによってWRFのルールやコンセプトを知り、コミュニケーションをとることによって今後世界に出ていきたいチームの支援ができればと思います。日本レースラフティング協会としてはIRFと繋がりが強いのでIRF側は協会にお願いして、自分がWRF側とコミュニケーションをとることにより世界に出る間口を広げていければいいと思っています。
・・・え!?増田さん選手引退?!笑
いやいやいや!まだまだ続けますよ!笑 ただ、自分の限界を感じさせてくれるチームや完全に引導を渡されたなと思ったら潔くやめて陸に上がって後輩たちの支援に努めたいとは思っています!そうならないように全力は尽くしますけど!笑
まだまだ、選手を続ける意欲はあるようでよかったです!若い選手の皆さんはぜひHORUを表彰台から引き摺り下ろして引導を渡せるように頑張ってください!!
しかしながら私もスラロームの師匠に言われましたが「誰かの目の前の人参になる(※直近の目標になる)」というのは非常に重要なことで、それが脈々と受け継がれて技術が継承されそのうちにチャンピオンが生まれます。いつか「チームHORUが目標でした!勝てて嬉しかったです!!」といって世界に羽ばたく選手が誕生すれば増田選手も本望ではないでしょうか。
最後に・・・編集後記
前回・今回とチームHORUキャプテン増田選手に世界大会を終えてのお話を伺ってきました。2019年ごろは一緒にHORUとして活動し、個人的にも大変お世話になった方でした。そんな大先輩が現役の頃は叶わなかった世界の舞台で活躍し本当にまっすぐな目でレースラフティング界の発展について語ってくれるのはとても嬉しいことでした。仕事や家庭もある中お付き合いいただき本当にありがとうございました!今後もHORUとしてさらなる躍進を期待しています。
また、記事内には書きませんでしたが大学の探検部でレースレフティングを初めて卒業と同時に川を去ってしまう人が後をたたないことを非常に寂しく思っており、HORUがその受け皿になれればという話もしていました。しかし、HORUだけではニーズや人数をカバーしきれないことから他の社会人チームも必要でありそこに一つのモデルケースという形でHORUを見せていければという話もしていました。
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