【疑問】その練習は何の練習?

まずは↑の動画を確認してみてください。

2人の「から漕ぎ」が出てきましたが、この違いについて説明できますか?

「上手い・下手」「右漕ぎ・左漕ぎ」などの違いではありません。

まずは自分なりに考えてみてからこの後の記事を読むことをお勧めします。

スタンス

2人の選手の大きな違いは足の前後です。No1の選手は左漕ぎに対して右足前左足後ろという「スプリントカヌー・カナディアン」のスタンスで練習しています。対してNO2の選手は右漕ぎに対して右足前左足後ろとなっており「ラフティング」のスタンスで練習しています。

「たかだか足の前後」と感じるような違いですが非常に大きな違いです。私はレースラフティングもやりますしスプリントのカナディアンも乗りますがほぼ別物です。

No1

スプリントC-1のスタンスです。漕ぎ側の反対の足を前に出します。これにより身体を前に倒しこむスペースができます。また、起き上がった際のニュートラル時に腰がしっかりと立つので前に倒れた際の身体の捻りを手前に引く力に転換しやすいです。また、前に倒れる際も前足にそこまで負荷がかからないのでしっかりとボートを押さえつけながら(コントロールしながら)起き上がる事が可能です。

No2

ラフティングのスタンスです。

ボートの構造上これを逆足にするというのはできなくはありませんが体が外に開く姿勢になってしまいバランスを崩しやすい上にアウトチューブが邪魔でまともに漕げません。

こちらのスタンスでは漕ぎ側と前足が一緒なので前から漕ごうと倒れ込むと前足の上に倒れ込むようになり前足に負荷がかかります。体重を乗せて漕ぎに行くとなおさらで、ほぼ全体重が前足に乗りそれを身体の捻りも使えずに再び前足だけで起こすのでかなりきついです。

どちらがいいのか

どちらの練習がいいというのはありません。スプリントカヌーを漕ぐならNo1ですしラフティングの練習をするならNo2です。ラフティングとスプリントカヌーはフィールドも前提条件もボートの材質も全て異なる競技なので別物と考えた方がいいでしょう。

それぞれの漕ぎ

ラフティングと同じようなパドルを使って同じように漕ぐスプリントカヌーですが全く別の競技です。スプリントカヌー・カナディアンも乗りますがそう感じます。ここではその理由について少し解説します。

↑の動画はスプリントカヌー左漕ぎなので一番最初に紹介した動画のNo1の選手がやっていた動きと同じものです。このスタンスで漕ぐ最大のメリットは腰が使えるという点です。スロー再生してもらえればわかりますが、パドルがフィニッシュで抜ける頃には骨盤が回転し前に戻り始めています。骨盤の回転にやや遅れてパドルが入水していき、その頃にはすでに骨盤は後方へと回転しています。この骨盤の回転がスプリントカヌーの真骨頂でありあれだけの回転に耐えられる秘訣です。手の回転よりも力を生み出せる骨盤(身体のコア)の回転により力を生み出すのです。ラフティングで同じペース・ストローク幅で漕ごうとすると体重を支える前足が保ちません。

No2の選手がやっていた漕ぎにももちろんメリットはあります。こちらの漕ぎでは通常時身体が閉じた状態になっているのでラダーやコントロールパドルを入れる際に意図的に身体を外側に向けて開いてやることにより「閉じる力」を生み出せます。No1の漕ぎでは最初から身体が開いているので外側に向かってさらに身体を開くと不自然な姿勢になり力ずくで閉じなければならなくなります。

筋トレをする人なら聞いた事があるかもしれませんが腕立て伏せは手の角度が1°変わると効く部位が変わるなんて言われますが、これは身体の左右が変わってしまっているので効く部位が変わるのは当然でもはや別種目です。

No1=身体を開いた状態からフォワード側に向かって閉じる→「開く力」をフォワードに変える→足が固定されているので閉じられる方向はほぼ固定→→フォワード特化

No2=通常時体は閉じているので任意の方向に向かって開ける→様々な漕ぎ方向に対応できる→フォワード方向はさらに閉じる姿勢になるので前足に負荷がかかる→→汎用性重視

まとめ

No1の漕ぎもNo2の漕ぎもそれぞれにそれぞれの良さがあります。しかし、フィールドも競技性も違うものをアレンジもせずそのまま取り込むということはかなり難しいです。もちろんAをやるならBをやるなというわけではありません。しかし、その違いについて理解した上で「今なんの練習をしているのか」「この練習はどこのどういった機能が伸びるのか」といったところを意識してやらなければ意味がありません。

いくらNo1のから漕ぎが上手くなって「これなら無限にできるぜ!」となってもレースラフティングでは逆足になるので「腰痛い…足も痛い…」で終わりです。自分のやっている競技の動きに着目し、違う動きを取り入れることにより身体の動きを研究する心構えは必要ですが本質は見失わないように注意しましょう。

補足:フィールドが違うということは前提条件が違うということなので身体の使い方など個人的な感覚意外に技術を取り入れようとするときは注意が必要です。スプリントカヌーをする運河や湖に隠れ岩はありません。どれだけ全体重を預けて漕いでもその先は水です。しかし、川である以上岩に当たる可能性があります。万が一見えない岩に向かって全体重を乗せた場合はパドルが折れるか跳ね返った力で肘や肩を痛めるかのどちらかです。そのため川には川の漕ぎが存在します。何度も言いますがどちらがいい悪いではなくフィールドに合わせた技術なのです。

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