ラフティングの基本③【リーン】静水編

ラフティング基礎講座3回目のテーマは「リーン」です。

リバーカヤックのように小さくて回転性能が高いボートだとリーンの重要性がよくわかるのですが、ラフトボートやダッキーだと安定感があり材質がゴムなので力が逃げやすくリーンの意味を感じにくくなってしまいます。

そのためレースラフティングを初めてまだ数年の人に「リーンってなんのためにするものなの?」と質問すると「流水でひっくり返らないようにするもの」と返ってくることがあります。もちろん不正解ではないですしそれも含みますが少々ピントがずれているというか言葉足らずな回答です。

今回はそんなリーンの意味について解説していきます。

リーンの解説の前に…

リーンの有用性や練習方法を紹介する前に「減速する、バランスを崩す3要素」について解説します。

『ピッチング』:漕ぐたびにボートが前後に振れること。前から漕ごうとして体重を乗せると起こりやすい。ラフティングでは「ノッキング」と呼んだりもする。

『ヨーイング』:漕ぐたびにボートが左右に振れること。カヤックが典型的でわかりやすいがラフトボートでも起きる。スターンラダーの入れ合いになり結果として遅くなる。

『ローリング』:漕ぐときにボートが左右に沈んでぐらぐらと揺れること。バランスを崩しやすくなる上にボートが沈み込んで抵抗になるので遅くなる。

以前解説したラフティングの基本①【目標物の設定】などでもそうですが、静水で直進する時というのはこの3つの要素を極力減らすようにして漕いでいきます。この3つができるようになると外から見ていてもボートが水面に張り付いて安定し、上手いチームであるということがわかります。

ラフティングの場合『ピッチング』と『ヨーイング』は意識できているチームもありますが、『ローリング』が疎かになっているチームが多いように感じます。ボートが安定しているという特性上ものすごく体を乗り出して漕ぐ人がいますがあれもローリングの原因でタイミングが悪いとそれだけでフリップ(転覆)します。

しかし、これは無意識にやってしまうから良くないというだけで意図的にやると技術になります。

①『ピッチング』:ボートが前後に揺れる→『バウアップ・バウダウン』:前傾後傾といいウェーブに合わせたりより高度にボートを使おうとした際に活用する。

②『ヨーイング』:左右への触れ→『フォワードによる方向転換』:ラフティングの基本②『方向転換』で解説したスイープターンをしなくてもファワードのバランスだけでバウを振ってターンする。

③『ローリング』:左右への横揺れ→『リーン』:意図的にボートを傾けてフリップ回避などを行う。

このように何事も意識的にできるようになると技術になります。今回は③の『ローリング』→『リーン』について解説していきます。

補足:『ピッチング』→『バウアップ・バウダウン』は通常のコースでは解説しません。流水で漕げてなおかつスラロームの練習などをしないと理解が難しいです。また、ハイウォーターでタイミングを誤った後傾をするとフリップのリスクが格段に上がります。さらにあまり早い段階で前傾・後傾を覚えるとゲート練習の際などに変な後傾癖(ギリギリで避けるためにラインの調整ではなく体で避けるような癖)がついてしまったりして修正するのに時間がかかります。

リーンとは

冒頭で書いた「リーンってなんのためにするものなの?」ですが、私が教わったのは「ボートをリーンさせることによってボートの側面やエッジを使ったりとパドル以外にボートを使えるようにする技術。また、ボートを使うことによって流れに乗せたり受け流したりと自然の力を使うための技術。」です。

わかりにくいので簡潔に書くと「ボートをうまく使えれば漕ぐより楽だし早い」ということです。静水だとフラットでいいが流水だと段差や流れがあるのでボートの角度を変えてあげないとうまく合わないから傾けるというイメージです(だいぶざっくりしてますが…)。

「ひっくり返らないためにリーンをする」ではなく「ボートや流れをうまく使うためにリーンをする」といった方がより正確ではないでしょうか。

2つのリーン

リーンには「リーン」「逆リーン」の2種類あります。それぞれ用途が多少違います。また、流水編になった時に解説しますがここに「フラット」を追加することでさらに幅が広がります。

リーン

「順リーン」や「内傾リーン」とも呼んだりします。自転車やスキーなどもそうですが通常乗り物は曲がる時に内側に体重をかけます。右に曲がろうと思って左に体重を乗せる人はいないかと思います。カヌーやラフティングも同じで曲がろうとした際には内側に体重をかける(傾ける・リーンする)のが一般的です。

逆リーン

通常のリーンとは逆で外側に体重をかけるリーンです。右に曲がろうとして左に体重をかけるのが逆リーンです。スキーや自転車など他の乗り物でこれをやるとバランスを崩したり転んでしまいます。しかし、カヌーやラフティングの場合は下が水で流動性があるためうまく力を逃してあげることにより転ばずにむしろ抵抗を力にかえる事ができます。

通常のリーンはなんとなくイメージできるかと思いますが逆リーンはイメージしづらいと思うので解説します。

通りたいラインは赤矢印で右岸アップゲートです。通常であれば右にコーナーしているので右リーンになるのですがよく見るとボートは左に傾いています(左リーン)。画像の手前方向から進入しているのでボートのベクトル(進行方向)は緑矢印です。

画像の手前でターンは始まっているのでアングル≠ベクトルです。

これにより①の方向から青矢印のような水の抵抗を受けます。

右リーンをしているとこの抵抗がボートの底(ボートム側)に流れ込み逃げていきます。これにより抵抗を緩和させ右ターンで抜けていくことも可能です。

しかし、ここであえて左リーン(逆リーン)でボートの側面を当てることにより抵抗をもらいにいくこともあります。これによりそれまで漕いできた緑矢印(ベクトル)を弱くし、さらに②の方向にうまく水流を逃してやることにより推進力に転換する事ができます。左側を漕いでいないのに左側を漕いだ時と同じような水流(②)を生み出す事ができるのがリーンの技術です。

リーンの練習

リーンの練習(静水)で一番簡単なのは「大きな円を描く」です。

図のように方向を決め円を描きます。ラフトボートでもできますが個人艇がオススメです。シングルブレードの個人艇ならなおいいです。

図の右回転を例に説明します。右回転のオススメは「右漕ぎ・右リーン(内傾リーン)」「右漕ぎ・左リーン(逆リーン)」です。もちろん左漕ぎの右回転もできますが、回転方向の外側を漕ぐのは一気に難易度が上がります(※左漕ぎの方は左回転から始めることをオススメします※)。

●手順●

①まず広い場所で少しスピードをつけます。

②そこからリーンをして回転を始めます。

③一定のペースで漕ぎ続けます。

④慣れてきて円を描けるようになったら、リーンの深さ(角度)を調整し大きな円にしたり小さな円にしたりと調整します。

⑤漕ぎの強さではなくリーンの深さだけで一定の円を描けるようになればOKです。

やりすぎ注意な逆リーン

逆リーンの項目で水の抵抗だけで推進力を生み出せると書きましたがこれはあくまで上級者がボートの使い方を理解した上でやるとそうなるという話です。素人がいきなりやると抵抗をもらいすぎてそのまま外側に転びます。レースを少しかじった事がある人なら経験した事があるかもしれませんが、勢いよくエディーに入ってアップゲートしようとすると外側に吸い込まれる感覚があります。本流からエディーに入ると流速差でブレーキがかかり場合によっては勝手に逆リーンがかかります。このタイミングで知らずに逆リーンをすると転びます。

カヌーだけではなくラフトボートのサイズでも転びます。

画像は軍畑周辺の流れもほとんどないトロ場です。決して岩に乗り上げているわけではありません。

奥が上流で、上流方向から勢いをつけて左岸岩下のエディーに突っ込みます(回転方向は左)。そこで右によると回転方向左の右リーンで逆リーンが効きます。エディーの力も相まってラフトボートでも転ばせる事ができます(ガイドは何が起きるか知っているので自分だけ逃げています…)。

レース用のコロラドやダッキーなどは安定感がないのでもっと簡単に転びます。逆リーンは使えると便利ですが沈するリスクもあるので流水ではある程度慣れてから練習することをオススメします。

リーンをするときの体勢

初心者の方でリーンをするとバランスを崩してしまうから怖いという人がたまにいます。そんな方の多くは頭をボートから出して全身でリーンしている場合が多いです。逆リーンの時に紹介した画像でもそうですが頭はボートから出しません。基本は腰から下のボートと繋がっている部分だけでバランスを取ります。頭部は人体の1/10の重さがあると言われておりかなり重い部位になります。そこを動かすという事は重心ごとズレるということに繋がります。

画像の彼も少し頭がでています。左手のパドルで支えてはいますが、何かの衝撃でパドルが折れたり水をうまく掴めなかったりするとそのまま沈してしまう可能性があります。

SUPなどもそうですが、ボートの上に頭部が残っていれば意外とどんな体勢でも耐えられますが、頭部が出てしまうと一気に崩れます。

リーンも同じで全身で傾けるのではなく、あくまでも上半身はまっすぐを維持しながらボートだけ傾けるようにします。

まとめ

ラフトボートのように大きなボートになればなるほど細かなリーンは効きづらくなりますし、リーンしても効いているのかどうか分かりにくいです。そのためついつい疎かにしてしまいがちな技術です。しかし、画像で紹介したようにリーンだけでもボートをひっくり返せてしまうほどのパワーがあります。

パドルだけではなく水流やボートのエッジなどを使えるようになるのは非常に強みです。ぜひ練習してみてください。

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