レスキュー練習してますか?

川は楽しいばかりじゃなくどうしたって事故や怪我がついて回ります。

「危ないから川に近づくのはやめよう!」というのではなく「危険を認識した上で対策をして楽しもう!」というのがパドラーのみなさんのスタンスではないでしょうか?

普段からフィールドに出てガイドをする我々は定期的にレスキュースリーや救命講習を受けていますし、シーズンのはじめには必ずガイドだけで出て危険箇所や遊泳ポイントの確認なども含めたコースチェック兼スキルチェックを行います。

しかし「レース」となるとどうしても「レスキュー」を疎かにしがちです。実際私が携わったリバベンでは3年生で何回も大会に出ているにも関わらずスローロープの掴み方を知らず顔面水圧体験をして最後にはロープを離した選手もいました(幸い助かりました)。

また、レスキュースリーなどの資格は数年で失効します。「一回受けて経験として知っていれば大丈夫。」というようなことをいう人がいますが、技術や知識は使わないといざというときに体が動きません。普段あまり使わない技術だからこそ定期的に復習する必要があるのではないでしょうか?

今回はそんなレスキューについて少し書いていきます。

最近増えている水辺の事故

近年SUPやパックラフトによる事故が急激に増えています。

SUPで特に多いのは海の事故で、これはJSCA(日本セーフティカヌーイング協会)でも問題となっているようです。「沖に出たけど疲れてしまって漕げない」「方向を見失った」といった内容で何度も海上保安庁が出動しているようです。

パックラフトも2020年に長良川で、昨年2021年は多摩川で死亡事故が起きています。メディアに載らないようなものまで入れたら相当数あることでしょう。

事故が増えてきた原因の一つは「手軽になりすぎた」ではないでしょうか?

パックラフトもSUPも安いものだと10万円前後で買えてしまい、折りたたんで車に詰めたりと非常に手軽になりました。また、YouTubeなどで様々な凄技動画のようなものが出回りエクストリームスポーツが身近になってきたというのもあげられるでしょう。そのおかげで今までパドルスポーツをやったことがない人がフィールドに増えてきたように感じます。これは競技のスソノが広がるというメリットの反面、素人が事故を起こすというデメリットも孕みます。

実際私も「ボードとパドルを買ったけど使い方わからないから教えて。」という人を何人か指導してきました。「教えて」とスクールなどに来てくれればまだいいのですが「おいおい大丈夫かよ・・・」というレベルで1人で漕いでいる人も散見します。

今ではパドリングできる川にはほとんどスクールやツアー会社が入っているので自信がないのならそこに連絡してとりあえず1回でもいいからレクチャーを受けたり一緒に降ってもらうというのがいいのではないでしょうか。JSCAJRCAのホームページに公認スクールというものが記載されています。もちろんここには登録していない歴史のある優良スクールもあります。とりあえず一度探してみることをお勧めします。

集団の心理

ここからはレースラフティングの話に移ります。

レースラフティングの場合4人または6人で1艇に乗っています。そのためなのか「チームの中の誰かがリカバリーできればいいでしょ!」という人が結構な数います。ラフティングは足が固定されていないのでフリップ(転覆)すると基本は投げ出されます。ハイウォーターで投げ出されると頭が水面から出た段階でボートは遥か彼方なんてことはザラです。そんな状況でリカバリーできない人がいるというのは自分だけではなく他の人も危険に晒すことになります。トロ場まで行けば大丈夫と思うかもしれませんが、みなかみ温泉郷の入り口付近でフリップしたらどうでしょうか?知っている人ならばゾッとしますが次のトロ場まで1kmほどあります。御岳も少しだけ増水したタテチンでフリップしたらどうでしょう?やってみればわかりますがおそらく次にトロ場になるのは忍者岩か、泳げない人はそのまま沢井コース(約2km先)です。

チームの中の誰かができればいいという考えは非常に危険です。全員がフリップリカバリーができる必要があります。

かつて「レースなんだから落ちることは考えていません!リカバリーできなくても大丈夫です!!そもそもフリップしません!!」と元気よく言ってきた後輩がいました(笑)。「バーカ」と言っておきました。レース展開において落ちることは加味していませんが、万が一落ちたりした場合その後のリカバリーやレスキューがあるのは当然であり、できないのなら練習は必要です。

みんないるから大丈夫と思ってしまうのかもしれませんが、事故はそういう時に起きます。特にリバベンの公式練習なんかは見ていてハラハラです。特にダウンリバーは3艇同時の集団降下なので「誰かなんとかしてくれるだろう。」オーラがすごいです。社会人で過去にオフィシャル経験がある人ならばレスキュースリーの取得経験があるかもしれませんが、しっかり更新している人は稀でしょう。なんとなく「上手そうなOBチームがいる!」というのは全くあてになりません(笑)

私もかつてオフィシャルをしましたが「何歳上の先輩なんだ?」というくらい上のOBチームが出てきて公式練習にも参加せずいけますオーラ全開でエントリーしてきて、本番で盛大にやらかして競業一時停止まで出させて棄権したという苦いエピソードがあります。

セルフリカバリーとフリップリカバリー

ここでいう「セルフリカバリー」とは自分で落艇して(フリップはしていない)から自力でボートに上がることです。誰かにあげてもらったり人の力を借りると「チームリカバリー」となります。

「フリップリカバリー」はひっくり返った船を元に戻して再乗艇するところまで含まれるのでフリップリカバリーができる=セルフリカバリーができると考えてもいいでしょう。

さてみなさん「フリップリカバリー」できますか?笑

再乗艇までが条件になるとできない人が増えるのではないでしょうか?

「フリップを直すまでならロープやラインなどの道具を使ってできるけど最後の乗艇が・・・」という人も結構いるでしょう。ボートを起こしたところで乗れなければ意味がありません。練習しましょう!筋力が足りないのなら筋トレしましょう!コツが掴めないのならコマーシャルラフトのようにスォートにロープやDリングなりをつける工夫をしましょう。フリップリカバリー・セルフリカバリーができないというのは万一の際に自分だけではなく他のメンバーの命まで危険に晒すということを理解して行動しましょう。

再乗艇のしやすさはボートの種類によって変わるかもしれません。レースでよく使われるグモテックス社製コロラドは全体的に軽く、再乗艇しようと腕を突っ張ると沈んでしまい反動ではずみます。そのため人によっては乗りづらいという人もいるかもしれません。逆にAIRE社製のスーパーピューマは重いかわりに腕を突っ張ってもしずまず力が伝わりやすく乗りやすいという人がいます。乗りやすさは人それぞれですが、レースにおける速さ以前に全員がしっかりとリカバリーできる船を選ぶということが大前提ではないでしょうか?そうじゃないボートというのは単にスキルオーバー・身の丈に合わない危険なボートを使用しているだけではないでしょうか?

そもそも川を知らない

学生でレースラフティングを始めた人に多いのですが川の用語やルール・危険箇所・セーフティーについてなどの基本情報が欠落している人がたまにいます。先輩が後輩に教えるという伝統がどこかで途絶えてしまったり、「いけるっしょ!」「大丈夫大丈夫!!俺らもそうだったから!」のような学生ノリでとりあえず漕がせるようなことをしていると基本情報が抜け落ちやすくなります。リバベンのホームページに『川に関する基礎知識』という項目があります。本当に必要最低限な情報だけですが載っています。後輩にどう伝えていいかわからないという場合などには活用できます。

本気で安全のことを考えるならレスキュースリーの受講も考えるべきです。3日間で約4万円(詳しく知りたい方は問い合わせてみてください)と時間もお金もかかりますが個人的にはその価値があると思います。川の知識・ロープワーク・実際の事故事例(結構生々しい)・実地で泳ぐ・川でのシチュエーションレスキュー練習など多くのことが学べます。

あえてどこの大学とは言いませんが私が御岳にいた頃ある大学のチームがヘルメットを被らず御岳のカップスターで練習していました(ボート・装備などからどこの大学かは特定しています)。そこまで上手くもなくいつひっくり返ってもおかしくないような漕ぎでした。知らないというのは怖いもので、御岳で一回でも泳いだ経験がある人はわかると思いますがそこら中に岩があります。ノーヘルで行くなんていうのは考えられません。 

「最近増えている水辺の事故」の項でも書いたパックラフトに乗る人でも、数人ですがヘルメットではなく登山などで使う普通の帽子をかぶって降っている人を見かけた事があります。レイクツーリングならまだしも流水でヘルメット以外というのは正直舐めてるとしか考えられません(川といっても様々あって、都心の隅田川や荒川河口部のようなほとんど流れがなく静水に近い川であれば帽子でも全然いいと思います)。

このような基本的な情報の欠如というのは単に勉強不足・経験不足の事が多いです。少なくとも御岳周辺のカヌースクールで帽子やノーヘルで川に出ていいというところはありません(多分…)。

レスキュー講習

ガイドもそうですが川に出るのにこの資格がないといけないというものはありません。RAJやJSCAといった団体はありますがどれも持っていなければいけないというわけではありません。しかし、万が一無資格のままで事故を起こすと加盟団体もなく無資格ということで社会的責任を問われます。裁判沙汰になった際も安全に関する講習や管理を怠ったとして不利に働きます。民間でも資格をとるということは安全に留意して運営しているというアピールにもつながります。

ここでは川の安全に関する資格として推奨されるものを何点か紹介していきます。

RESCUE3 JAPAN:レスキュースリー

世界33カ国に支部を持つ民間トレーニング組織。ホワイトウォーターレスキューのパイオニア的存在。スイムによるコンタクトレスキュー、ロープレスキュー、ボートレスキューなどシチュエーションに合わせたトレーニングを組み合わせてレスキューの哲学から難しさまで教えてくれる。

リバーガイドをやるなら必修科目と言っても過言ではない講習。個人でも受講可能となっており遠征やレースが多い人も取得しておきたい資格です。

コース名日程費用開催場所有効期限
SRT-1(スイフトウォータレスキューテクニシャン-1)3日間約40,000円インストラクターと相談2年

レスキュースリージャパン

消防庁:上級救命講習

消防主催の応急救護講習。同じような講習に『普通救命講習』もありあますが、こちらは基本的な心肺蘇生がメインなので現場に出たりアクティビティーをする人の場合は止血や搬送法まで含んだ『上級救命講習』の方が安心。

コース名日程費用開催場所有効期限
普通救命講習3〜4時間1,500円(教材費)近くの消防署等3年
上級救命講習8時間2,800円(教材費)近くの消防署等3年
※費用は所轄の消防署によって異なる場合があります。

東京消防庁

公的機関が行う講習なので比較的安価に取得することができます。しかし、その分人気も高いので予約が埋まってしまったり人数を揃えないと出張講習を受けてくれなかったりすることもあります。

MFA JAPAN:ケアプラス

1976年にアメリカで誕生した民間の団体。国連関連組織・世界安全機構(WSO)やアメリカ沿岸警備隊(日本の海上保安庁にあたる組織)、カナダロイヤルライフセービング協会、財団法人日本海洋レジャー安全振興協会など様々な公的機関に公認された世界最大級の応急救護普及団体。

コース名日程費用開催場所有効期限
ケアプラス3-4時間約10,000円各トレーニングセンターによる2年
ベーシックケアプラス6-7時間約15,000円各トレーニングセンターによる2年
チャイルドケアプラス7-8時間約20,000円各トレーニングセンターによる2年
※料金は大体のものです。各トレーニングセンターによって異なります。

MFA JAPAN

心肺蘇生メインのケアプラスコース、成人の応急救護まで含んだベーシックケアプラス、全年齢対応でフルカバーできるチャイルドケアプラスと幅のある選択が可能なのが魅力です。

民間の講習なので上級救命講習と比べると費用がかかります。

リバーライドにおけるレスキュー講習

WMAJ:WFAベーシック

都市部の救急施設が使えない状況下での救護活動に焦点を当てた『野外救急法(ウィルダネスファーストエイド)』。災害ボランティアや山岳ガイドなどをする人であれば受講しておきたい講習です。

コース名日程費用開催場所有効期限
WFAベーシックスケジュール表による(おおよそ2日間)約40,000円スケジュール表による3年

WMAJ

国内のリバースポーツ可能なフィールドはほとんどが近隣に道路が通っていたり何かしらの施設があるので呼べば比較的すぐに救急車などがきます。しかし、海外のフィールドなどは整備されていない場所の方が多いので海外遠征なんかも視野に入れている方は受講しておいた方が良いでしょう。

まとめ

フィールドにでる機会の多い人は日頃から安全意識を持っておく必要があります。パドルスポーツを3年もやってロープの持ち方を知らないなんていうのは言語道断です。漕ぐ練習以前にレスキュー練習をしなければなりません。

セルフレスキューやフリップリカバリーはまず安全な場所で練習し、その後実際に流れの中でもやってみましょう。静水でリカバリーできても実際流れに行くと水を飲んでしまい息が上がったり、場所によっては足が着くけど安定しなかったりとシチュエーションによって変わってくるので流水でも練習しておくというのは重要です。

講習を受ける場合は救命講習をどれか一つを受けてレスキュースリーを受けるのがオススメです。レスキュースリーは要救助者を水から引き上げるところまでがメインで、救命講習は引き上げてからの蘇生がメインなのでセットで考えた方がいいでしょう。

チームの安全を考えるなら費用がかかってでも受講する価値はあるでしょう。

どんな団体でもそうですが死者を出すような事故が起きると規制が厳しくなります。それまでも小さな事故は起きているはずなのですが、多くの場合誰か死んでしまってから「この事故を無駄にしないために」と言って講習やら規制を始めます。そもそもそのような事故を起こさないためにこのような講習や資格があるので事前に受講し対策しましょう。

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