ラフトボートのフィッティング

カヌー・カヤックは個人艇なので自分用にフィッティングを調整できます。しかし、ラフトボートは4人〜6人で乗るのでフィッティングの調整がシビアになります。また、世界大会の場合などはボートが変わったりするのでフィッティングはより難しくなります。

フィッティングの意味

カヌースラロームC-1艇なんかになると新艇が届いてからフィッティングを作るだけで丸3日かかったりします。とりあえずボートを浮かべてバランスを確認してから回転軸を確認してフィッティングを貼り付け調整し、最後にいらない部分を削ったり足が当たる部分に調整を加えたりしているとそれくらいかかります。

フィッティングは自分のパワーを最大限発揮できるように調整するものです。「理由はわからないけど乗りにくいな…」と感じるだけで最大出力に制限がかかります。また、自分に合わない状態で乗るというのは怪我のリスクもあります。やりにくいなと感じながら動くとどこかしらに負荷が集中してしまう可能性もあり怪我などの観点からも非常にリスキーです。

フィッティングは時間と手間さえかければちょうどいい塩梅を探せるので惜しまずにやるべきです。

ラフティングの場合は4人(R6なら6人)で調整する必要があるのでもっと時間がかかるはずです。

フィッティングで調整する内容

①身体の固定具合

フィッティングの最も大きな意味合いは身体をボートに固定するということです。漕いだ力がボートに伝わるおかげでボートが進みます。ガバガバの状態で漕ぐと力が伝わるどころかそもそも漕げないでしょう。漕いだ力を最大限ボートに伝えてやる必要があります。そのためにも体とボートを固定するフィッティングは重要と言えるでしょう。しかし、固定のしすぎはよくありません。『漕ぐ』動作はかなり特殊な動作で捻りや収縮・伸長・固定など様々な動作を臨機応変にしなければなりません。固定しすぎるとこのような動作のいずれかを阻害する可能性があります。全ての動作ができる状態にありつつもボートにしっかりと力が加えられる状態である必要があります。

②前後バランス

ラフトボートでは最重要項目と言えるでしょう。カヌー・カヤックはそもそもコックピットがほぼセンターなのでそこまで大きく外すことはありませんがラフトの場合は重い人がどこに乗るかだけでも変わってしまうので気を使う必要があります。昨今のレースシーンで多く使われるグモテックス社製コロラドに至っては排水機構が後ろにしかないので前傾でいくと排水できずボートが沈むという惨事になります。

画像はR4用に私が調整したコロラドです。本来は紐がなく取り付けられない位置にソォートを配置することにより前後バランスと身体の固定を生み出しました。気持ち後ろよりのセンター重心です。このコロラドのセッティングに関しては後ほど解説します。

重心の位置

あまり気にしない人もいますが重心の位置が前か後ろかでボートの挙動は大きく変わります。

①前傾

前につんのめるような感じになりボートが抵抗を受けます。危なくはありませんが常にブレーキがかかっているような状態でストロークが重くなります。ラフターにわかりやすくいうと常時ノッキングです。

R4で組んだボートでR6に出るとよく起こります。天竜終わりの長良ですね!(すいませんわかる世代が限られますね…)

②後傾

バウが浮き上がりボートの腹あたりで水を切る感じです。後傾はフリップのリスクが上がるのであまりお勧めできません。ダッキーソロなんかは後傾(ボートの重心が)の方が漕ぎやすいですが、それはあくまでもダッキーの機動性と漕げる人(重心移動できる)が乗っている前提の話であり、ラフトにはあまり応用できません。スラロームカヤックもそうですが後傾で回そうとすると力技でボートを回す感じになります。上手い人はほぼニュートラルの状態で流れを受けてそれを受け流すことにより回転します。確かに後傾はバウを浮かせるので操作性は多少上がりますがそれに伴うリスクもあるということを認識しましょう。

◯結論

重心の位置はセンターが理想です。しかし、人数で乗るラフトボートの場合は多少後傾がいいかもしれません。個人的な感覚ですが前傾よりも後傾の方がボートの走りがいいです。

セッティング方法

ボートによってソォートが動かないものもあるので一概には言えませんが大体の場合はソォートの配置によって調整できます。コロラドやAIREのピューマシリーズはソォートが動くので比較的調整しやすいはずです。

コロラドの場合買えばついて来る紐や道具で調整しようとすると上記の図のように固定具の位置によって制約を受けます。ソォートにある4穴をしっかり使わないとソォート自体が安定せずフィット感が損なわれるので固定具のある位置だけで4穴使えるようにしてちょうどいい位置を探すチームが多いかと思います。

これではソォートの位置=固定具のある位置になってしまいます。チームにもよりますがこれでしっかりフィットするというチームは少ないのではないでしょうか?

そこで私前項で書いたコロラドのフィッティングはホームセンターなどで売っている細引きのようなものを買ってきて調整していました。

とにかく自分たちが置きたい位置にまずはソォートを配置します。そこから前後の固定具にソォートが暴れないように紐をかけて引っ張ります。これにより固定具の位置にとらわれずフィッティングできます。ソォートを前後でしっかりと固定具につけるので暴れたりすることもなくしっかりと配置できます。紐自体もボートのフロアとサイドチューブの隙間によるので足が引っかかると言ったようなことも考えにくいです。これにより前後バランスを調整しコロラド特有の足バンドもうまく利用できるようにしていました。どうしてもカヌーやラフトボートは海外のメーカーのものが多く外人向けに作られているので日本人に合わせて調整するには手間がかかります。

もちろんこれ以外にも方法はあるかもしれません。

また、コロラド4人乗りなんかは場合によっては先頭のソォートを外してしまってもいいのではないでしょうか。正直R4で先頭にソォートがあってよかったと思ったことはありません。フィッティングをするということは個人的にはルール違反さえしなければなんでもいいと思います。

補足:ソォートに足を入れるフィッティングについての見解

ラフトボートはカヌーと違いコックピットがないのでほぼオープンデッキです。そこで身体を固定するためにソォートの空気を抜いて下に足を通すチームは多いかと思います。これに関しては昔からある指摘ですが万が一ひっくり返った際に足が抜けないのでは?というものがあります。

全くその通りで空気を抜きすぎてソォートにシワがついていたり踵の厚いシューズやサンダルを使用していると引っかかりやすくなります。フリップして足が抜けない場合最悪死ぬ可能性すらあります。

これに関しては個人的に完全にはオウンリスクだと思っています。カヌースラロームC-1でも多くの選手がストラップで足を縛ります。沈脱しようとする際もスプレーカバーだけでなくストラップやフィッティングを解除しなければなりません。

自然相手のスポーツなのでリスク0はそもそも不可能です。その中で自分に合った度合いに調整するのも技術です。私のC-1艇も最悪の場合にはスプレーカバーを外して踏ん張ればフィッティングの隙間に両足がスライドしてストラップを外さなくても脱艇できる程度にしか固めていません。人によってはゆるすぎるというかもしれませんが、息が上がった状態で万が一やらかした場合外せる自信がないのでこれでいいと思っています。

ソォートに足を入れるのも同様で、最悪フリップした際に引っかかっても自分で水中で息を止めながら解除できる自信があるのならばいいと思います。

結論

フィッティングはボートに力を伝えるという観点からも非常に重要な項目で時間を割く価値のある内容です。

考えなければいけない項目は大きく二つで、

①前後重心バランス

②身体の具合(個人的なフィット感)

です。

特にラフトボートにおいて前後重心バランスは重要です。ダッキーも同様で、重心の位置が数cm変わるだけで別の乗り物になります。

いかにお互いの漕ぎを阻害せずにセンターに重心を持って来られるかがフィッティングにおいては重要です。

チームによって違いますしその時乗るクルーによってもフィッティングは変わってきます。目標とするレースが決まり、クルーが決まったのなら練習日の1日2日はフィッティングに使ってもいいのではないでしょうか。

補足

フィッティングでいうとサンダルのサイズによっても感覚は変わります。ソォートに足を入れるか問題でも書きましたが厚底のサンダルは踵がひっかりやすくなります。それと同様でサンダルやシューズのソールの暑さによってフィット感は変わります。

個人的な感覚を例に挙げると、私はレースラフトでソォートに足を通す際にはチャコサンダルは意識的に使用しません。チャコは厚底で安定感がありますがソールが厚く引っかかるような感覚がある上に、爪先まで伸ばした際にアキレス腱まで干渉してくるような感覚があります。そのためレースシーンではアクアシューズなど薄底で動きやすいものを選びます。逆にガイドの時などは重く安定感があるチャコを使用します。シーンやフィッティングによってギアを使い分けるのも一つの手段です。

フィッティングは自分の感覚を大切にしたり動きやすいように調整したりするものなのでレースラフティングであれぜひ妥協なく調整してみてください。

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