レースをしていて一度は悩むポイントがスタートダッシュです。私も学生の頃からさまざまなスタートダッシュ法に触れてきました。時代やチームによって全く別の理論があったりしていまいち何が1番いいのかわかりません。今回は様々あるスタートダッシュ方法や私が触れてきたもの、スプリントやスラロームの方法についても解説していこうと思います。
おそらくスタートダッシュに正解はありません。レースラフティングの場合複数種目をこなす上に計測方法が違ったりするので一概にどれが最強というものもありません。あくまでも今後の練習のヒントになればいいと思います。
レースラフティング4競技
レースラフティングをやっている人には常識かもしれませんが世界大会や大きな大会では主に4競技をこなします。スプリント・スラローム・H2H・ダウンリバーの4競技です。厄介なのは大会の規模や設備によって計測方法に差が出るということです。
近年はコロナ禍もありレース経験を積めなかった学生パドラーも多いと思うので国内主要大会を例にしながらスタート方式の違いにも触れながら解説していこうと思います。
スプリント
短距離を全力で漕ぎ切るスプリント(SP)ですが、こちらも大会によって計測方法が異なります。リバベンの場合は光電管を使えるようになってからは光電管計測です。光電管ラインの上流からスタートしてスピードを上げてトップスピードキープで入っていけるのでスタートダッシュはほぼ関係ありません。上流に多少漕ぎ登ってでもトップスピードで入った方が早いです。
近年はコロナ禍で中止になっていましたが長良川wwfではスターンをホールドされてのレディーゴーです(変更になる可能性もあるので要項を確認してください)。この場合ゴーのコールと同時に計測が開始されるのでスタートダッシュでいかに早くトップスピードまであげるかが重要になります。
スプリント競技は競技自体が無い大会も多いですが、ある場合も大会によって異なるので確認が必要です。
スラローム
レースラフティングのスラローム競技も大会によって方式が異なる種目です。リバベンや御岳カップは光電管スタートなのでスプリント同様ちょうどいいスピードで計測地点まで入っていけます。またスラロームの場合光電管を切る位置(タイム計測の始点)も調整できるので非常にやりやすいスタート方式です。
基本光電管計測のない長良川wwfや他のローカルな記録会ではスラロームもスターンをホールドする場合がほとんどです。この場合はスプリント同様スタートダッシュが必要になります。しかし、ゲートセットによっては1番ゲートまでかっ飛ばしすぎるとその後が詰まってしまう場合もあるので加減が必要です。
H2H
H2Hは2艇同時に発艇してぶつかり合うという競技特性上光電管でゆったりと計測なんてことはありません。現在行われているラフティングクロス式のレースで後ろを取って後出しジャンケンを狙うなら必要ないですが、先行して主導権を握りたいならスタートダッシュは必要不可欠です。この時のスタートダッシュはぶつかるまでの前に出るための加速させるダッシュと、ぶつかった時に押されないストロークがあり混同しているチームも多いですが別の漕ぎになります.
ダウンリバー
これも大会によって方式が異なるレースです。リバベンや全日本選手権が世界大会に準拠しています。発艇口が3箇所の3艇同時発艇で、それまでの成績順にコース選択権が与えられます。この場合もレディーゴーと同時に計測が開始される上に3艇でコース争いが起きるのでスタートダッシュは必須です(正直1番配点の高いDRで同時発艇させて争わせるのはいかがなものかと思いますが・・・)。
別様式だと長良川wwfが特殊です。3艇同時発艇とコース選択権は一緒ですがスタートにバナーが貼られておりカウントダウンゼロと同時にバナーラインを切ってもいいというランニングスタート(セイリングスタートとも呼びます)です。ゼロコールの前にバナーを切るとフライングが取られます。5秒前からカウントが始まり3・2・1・ゼロ(ゴー!)のコールに合わせて加速して行ってバナーを切るというものです。他のレースにはない特殊なスタート方式でこれはこれで合わせが難しく面白いです。ただし、今回テーマにしているスタートダッシュとは少しずれるので解説はしません。
光電管に対するスタートダッシュ
前項で解説したように最近では光電管によるスタート計測が増えてきました。カヌースラロームのジャパンカップの場合は全てSEIKOによる光電管計測です。スタート横で1分ごとにピーピーなる時計はありますが計測は光電管によるものです。正確に計測できるので選手からしたら良いシステムです。
光電管に合わせるものとしてはスタートダッシュの「タイミング」ではなく「最高速度」です。自分たちが何mあれば最高速度まで到達するのかというのを認識しておかなくてはなりません。また、最高速度はキープも大変なのであまりにも助走距離を長くしすぎると普通に疲れます。光電管を切る瞬間に最高速度到達からキープの漕ぎへの変換点を持ってきてキープしていければ最高です。特にラフティングにおけるスプリントの場合は1秒以下の闘いになることもあるのでこの合わせが非常に重要になってきます。
しかしながら光電管を切るまでに最高速に達していれば良いのでそこまで神経質にならなくてもある程度余裕を持っていけるのでこちらもスタートダッシュが必要かと言われれば必ずしもそうではありません。
スタートダッシュ
本当にダッシュが必要なのはやはり完全にボートが固定された状態からいきなり計測がスタートするDRやH2Hでしょう。特に近年ではDRも1秒以下を争う競技になってきているので初速を作って巡航して行くという意識づけは重要です。
「スタートダッシュ」と言っても様々な考え方があり一概にどれが正しいとも言えません。選手の筋力やMIXチームの構成次第では向いていないスタート方式もあるので自分たちに向いているものを探すほかありません。ここでは参考までに私が聞いたことがある・試したことがある方法を紹介していきます。
①初速を作る系
レースラフティングのスタートダッシュ方式は大きく分けて2種類です。簡潔に述べると初速を作るかどうかです。まずは初速を作る方法から解説します。
1:1パドル目を掘り込む
通常レースラフティングでは漕ぐ時は図のようにボートに対してパドルを平行に引け(パドルを立てる・掘り込まない)と教わるでしょう。これは巡航するときの考え方でスタートダッシュ(初速を作る)するときの考え方は違うというのがこの理論です。
物理的にも静止している物体を動かすときには最初の動き出しが最もエネルギーを使います。まずはいかに物体に対して素早く初速を与えるかを突き詰めた理論です。
図の赤い点線が本来入水させる位置だとしたら、1パドル目だけその手前から入水させ掘り込むように体重を乗せて漕いであげることにより腕のパワーだけではなく体重で初速を作るという考え方です。よくレースラフティングではカウントが始まると腕をピンッと張って長く引こうとする人がいますがそれでは静止したボートを動かすだけの力が出ないので手前で素早く体重を乗せることによりとにかくボートを動かします。
カヌースプリントでも採用している人が多い方式で初速を作る代表例です。
1パドル目は小さくても掘ってもいいから手前で漕いで素早く初速を作る→そこから10パドルくらいはとにかく回してスピードを上げる→巡航まで加速したらいつもの漕ぎという考え方です。
2:1パドル目を大きく長く
掘り込む漕ぎ方とは逆で1パドル目を少し大きくゆっくり漕ぐという方法です。
入水位置は図1で示した通常の巡航ストロークと一緒です。
違うのは1パドル目を掘りこんで動かすのではなく少し後ろまで大きく長く引いてあげて初速を作るという点です。レースラフティング独特のスタートで重いボートに初速を与えるという考え方で始まった漕ぎといえます。
掛け声としては「いーーち、1!2!3!4!・・・」となります。
掘り込む初速の場合はある程度水深がないとできない上に1パドル目から体重を乗せて出力するのでタイミング合わせの練習をしていないと揃いません。そういう点ではこちらは比較的合わせやすく、体重やパワーのバランスにばらつきがあるチームにおいては向いているかもしれません。
②加速力(トルク)重視系
テクニックやタイミングで初速を作る漕ぎ方に対してダッシュなんだからとにかく回して加速させるという考え方もあります。
1:細かいパドルを重ねる
レースラフティングにおいて現代ではあまり採用しているチームがありませんがとにかく手数を重ねるという方法もあります。
最初の10パドルくらいを小さくして小刻みに漕ぐという方法です。
入水からほぼ水を叩くような形で勢いよく全員でバンバン刺して回していきます。本来のストローク距離の半分以下くらいでもそれを小刻みに続けることによってボートを動かすという考え方です。
確かにパワーが相まって揃えば驚異的な速さを発揮しますが、いかんせんタイミング合わせが難しいのと揃わないとボートが振れてしまう、とにかく回すからめちゃくちゃ疲れるというデメリットがあります。
2:ミドルパドルを重ねる
初速を作る漕ぎ方では1パドル目に細工を加えることにより動かしやすくしてから加速させるために多少腕漕ぎでも10パドルくらいをとにかく回してそこから巡航という方法を取りますが、最初から加速させる状態の漕ぎを使って行くのがこの方法です。
ミドルパドルとはいうものの「巡航させる・スピードを伸ばす漕ぎ」ではなく加速させるように多少の腕漕ぎを許容してガンガン漕ぐということです。
レースラフティングを見ているとこの手法が一番多いような気がします。
スタートから10パドルを立ち上げで漕いでそこから巡航というチームをよく見ます。
わかりやすいですし練習していないOBチームやまだまだ合わせの段階までいっていない新人チームには扱いやすい方法です。しかし、初速を作らないのでボート感覚としては重いですし、加速漕ぎでメリハリがつけ辛くどこで巡航に落とすかをパドル数などで調整しないといけないというデメリットもあります。
③気合い‼︎
スタートから巡航、ゴールまでひたすら限界スレスレで回し続ける漕ぎです。
パワーーーー!!
って感じです・・・笑。
一見脳筋プレーに聞こえますが、カヌースプリント200m・500mの決勝ではもはやこの領域です。小細工をして勝てる世界ではなく1パドル目から全開で行かなければなりません。
興味のある方はYouTubeで『canoe sprint London 200m final』と検索してみてください(オリンピック映像でリンクブロックのため貼れませんでした)。とんでもないものが見れます。
リバベンでもスプリント区間は2分いかないくらいなはずなのでトレーニングさえしていれば全力で回し切れる距離ではあります。
これはあくまでも世界の頂点を目指した人たちの行き着いた先なので我々一般パドラーはしっかりと相談して練習して合わせて漕いだ方が早いでしょう。
もったいないスタート
競技歴が長いとスタッフを経験することも増えます。そうなるとボート押さえ(発艇補助)をする機会も増えます。
その際ボートを押さえていると非常にもったいないスタートをするチームが多数います。
どういうところがもったいないかというと「3・2・1・ゴー!」で一度グッと後ろに下がってからスタートするのです。
この力の溜めが非常にロスになります。腕を伸ばした状態でスタートしている場合はそこからさらに腰を引いたことになりますし、掘り込むスタートでもストンと下に落ちられず少し身体が前に動いたことになります。
「その溜めがあってもそれ以上の力で漕げればいいんだ!」という脳筋な方もいますが-2をしてから+4しても結果は+2です。それならマイナスを出さないように+3をした方が効率が良いですし、なんならマイナスせずに+2でもトントンでロスがない分後々有利です。そもそもマイナス速度からのスタートなんて不利にしか働きません。
ダッシュ方法の選定
ここまでに大きく分けて4つの方法を紹介しましたが、どのような手法を取るのかはチーム次第です。
参考までに書いておくと、MIXチームや女子チームなどでパワーに不安があるチームでは加速力重視のスタートはあまりオススメしません。本番1本くらいなら保つでしょうがH2Hで勝ち上がった際など何本も連続で行うと必ず疲弊します。
練習時間がたっぷり取れて50本スタートをやっても耐えられるような身体づくりをしているのであれば問題ありませんが、何本もできないようであれば考えたほうが良いです。
国内レースの日程を見ていてもリバベンであれば1日目にSP/SL1/SL2と最低3本、長良川wwfでも1日目にSP/H2H(J1,J2多くのチームが)と初戦で負けても2本と相当数ダッシュさせられます。何本もできないようなダッシュは「ここで勝てば・・・!」という場面では有効ですが連戦させられるレースラフティングにおいては考えものです。
チーム練習できる環境であれば実際にタイムをとって同じ距離でどれが一番「速いか」で選択するのが良いでしょう。
まとめ
今回はラフティングのスタートダッシュについてまとめてみました。
漕ぎ方しかりダッシュしかりやり方は一つではありません。
実際にタイムを取って自分たちで最良だなと思う方法を選択してください。
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