WRF世界大会を終えて・・・対談×HORU増田

今回はチームHORUのキャプテン増田選手にWRF世界大会を終えてのお話を取材させていただくことができました!仕事もある中で1時間半以上お付き合いくださり、実際に世界大会が決まってからの練習やそれまでの経緯・世界と日本のレースシーンの違いについてすごく参考になり、これからの日本レースラフティング界発展には欠かせないようなお話を聞くことができました。ここからはその取材の内容について紹介していきたいと思います。

Profile HORUキャプテン増田選手について

増田選手は多くの学生ラフターと同じように大学の探検部でラフティングに出会い川にハマりラフティングを愛した選手の1人です。学生の頃は「第32回日本リバーベンチャー選手権大会」の競技オフィシャルも経験しました。32回大会といえば今回のWRF世界大会で1位をとったチームテイケイの小泉選手もオフィシャルをした年で2人は実は同期だったようです。その後卒業して川を離れていく仲間もいる中、MRC(みたけレースラフティングクラブ)に所属して社会人としてレースに出たり、チームテイケイのトライアウトを受けてみたりと積極的に活動していきました。そんな活動の中2019年頃から以前から存在はしていたもののあまり活動していなかった「HORU」という社会人チームの主軸となり「限られた時間の社会人でもやれるんだ!」を証明するべく、仕事も家庭もある中でメンバー集めや練習日程管理・備品の調達など選手とキャプテン・ジェネラルマネージャーといった多くのタスクを抱えながらもHORUを牽引し日本のレースラフティング界に『HORU』の名前を知らしめました。

世界大会を目指そうと思ったきっかけは?

KEN
KEN

それではまず、なぜ世界大会を目指そうと思ったのかその経緯を教えてください。

増田さん
増田さん

2019年から本格的にHORUとして活動していて、その時の目標が「国内レースでインパクトのある結果を残したい!チームテイケイの次点を取りたい!」というものでした。それが2022年のリバベン表彰台という形で実現できたと思います。一つの大きな目標が達成できて「次は・・・」と考えた際にメンバー間でも出てきたのが国際大会でした。そこでまず目標にしたのがチェコで行われるレースでした。

KEN
KEN

チェコ・・・?それって世界大会じゃなくてローカルレースですか?

増田さん
増田さん

そうです!その時はまだコロナ禍でIRF大会もほぼ中止が確定してしまって、WRFも国内での派遣要項とかはなくて、世界大会ではないけどよくチームテイケイとかが遠征した際に出てるようなレースに自分たちも出てみて実力を試してみたいというのが始まりでした。そんな話をメンバー間でしている頃同時期くらいにWRFが世界大会を決めてそれならやってみようとなったのがキッカケでした!

KEN
KEN

それじゃあ割と前々から「WRF目指そうぜー!!」じゃなくて「世界大会行われるらしいぞ!挑戦してみるか!!」っていうのが始まりだったんですね。

増田さん
増田さん

本当にそうです。なんか「WRF世界大会」ってのが決まってそれに伴った選考会が開催されると決まっていっきにメンバー間でも具体性が出てきてやっていこうってなりました。

チェコのローカルレースに出場するHORUというのも興味はありましたが、やっぱり世界大会となると変わってきますよね!強い選手が多いとはいえ動き出し4年で世界にも通じる実力というのは本当に計り知れませんね・・・。「好きこそものの上手なれ」という言葉を身をもって体現しているチームではないでしょうか。

2021年リバベン 走り始めた頃のHORU

国際大会でぶち当たった壁は・・・?

大会云々はともかくとして海外旅行も含め世界に出ることに億劫になる人の思考としては「言葉通じないし・・・」「レンタカーとかどうすんの?」「そもそもどこで国際免許取るんだよ。」「宿ヤバいって聞くよ・・・」といった諸手続きや国内でもよくある「予約」などではないでしょうか?

そこで今後国際大会に出たい!海外行きたいという人のためにこんな質問もしてみました!

KEN
KEN

選考で勝って代表権決まっていよいよ本当に海外ですってなった時に「うわー!この手続きめんどくせー!」と思った事や大変だった事をを教えてください!

増田さん
増田さん

めんどくさいことだらけですよ!!笑 それこそ国内で多くのチームがやる回送どうしよう、レンタカーどうしよう、宿どうしようとかっていうのを全く土地勘ないところでやるんで心配だらけですよ。

KEN
KEN

海外って日本の感覚でいったら距離感バグってたりしますもんねー

増田さん
増田さん

本当にそう!笑 そんな手続きに加えてオフィシャル側とのやりとりも密にしておかないと当日の動きとか決まらないし、どこでボート上げてどう回送していいのかとかわかんないし大変ですよ!

KEN
KEN

ん?あれ!?イタリアってそもそも英語通じるんですか?

増田さん
増田さん

オフィシャルの中核メンバーは英語話せて通じます。ただ、年配の方とか手伝いできてる方は苦手な方もいてお互い片言の英語で単語単語を繋いでコミュニケーションとる感じです。

知らない土地・言葉もまともに通じるかわからない土地で日本と同じようなクオリティーを求めなければ表彰台はない。そういった環境でも耐えられるチームが勝つということですね!増田さん自身もかなり事前調査したようでそれまでに行われたことのあるレースの情報を調べて川の感じを見たり、Google mapで距離を出して移動を考えたりと入念な準備を行なったようです。チームとしても飛行機の乗り継ぎの有無を確認したり持ち物の事前チェックをしたりと色々と気揉したようです。そんな中でも国内と違うなと思ったのは「選手登録」という概念で、カヌー連盟のように選手登録しなければならずオンラインで1人10ユーロほど支払い事前の登録を済ませたりと様々な手続きがあったようです。さらにさらに、国内ではよくあるサポートスタッフもついてこられず、ついてきて現地入りする際もリザーブ(補欠)登録なども必要で考えることがたくさんあったようです。HORUのチーム内では分業し日程の把握や現地調査などを分け極力負担が一点集中しないようにしていたようですが、それも増田キャプテンの手腕がなせることだったのではないでしょうか?

IRFルールとの違いは

実は今回の世界大会はよく行われているIRFとは違う団体であるWRFという団体主催の大会でした。リバベンの要項などにも「IRFルールに準拠する」と書かれていたりしますがどんな違いがあるのでしょうか。

KEN
KEN

増田さんは初めての世界大会だったわけですけど、何か「あ!国内レースとは違うな。」と感じたことはありますか?

増田さん
増田さん

そもそも国内レースってほとんどがIRFルールでやっていると思うんですけど、僕たちが今回出たのはWRFの世界大会なのでルールも違えば配点も違いますね。

KEN
KEN

え!!そんな違うんですか?

増田さん
増田さん

そうですね、まずそもそも「スプリント」という種目はありません。スプリントは「ラフティングクロス(以下RX)の予選」的な位置付けとなっていて、そこでトーナメント表に影響はありますが配点はありません。そこからダウンリバー・スラローム・RXという順で競技します。配点もRXが一番高くトーナメントで勝ったチームが勝ちといった空気感がすごいです。そうでなくても見ていてどこが勝ったかなんとなくわかるので比較的わかりやすいルールでした。

KEN
KEN

なんかIRFルールに慣れてると混乱しそうな順番ですね。

増田さん
増田さん

そうですね。ただ、IRFルールって大体ダウンリーバが最後で自分たちでも結果発表まで勝ったのか負けたのかわからない状況があるじゃないですか。それに対してWRFは計算してればトーナメントで勝てば勝ちという状況がわかるのでやっていてわかりやすいですし個人的には好きな形式ではありましたね!

普段国内で行われているレースっていうのは要項を読めばわかりますがほとんどがIRFルールのものになります。運営母体が変わればルールが変わるのも当然のことで結構な違いがあったようです。

KEN
KEN

そのルールの違いなどで苦しんだことなどはありましたか?

増田さん
増田さん

それはあんまりなかったですね。事前にルールは調べていたんでそれに合わせて競技はできました。ただ、ルール云々というよりは競技自体がまだブラッシュアップされていなくてスラロームでいえば「そんなところにゲートいるかな?」っていうのがあったりRXでもコース選択権によって有利不利がかなり出るような状況でした。ルール自体は面白かったですけど競技運営という点でまだまだ改善の余地はありそうな感じでした。

流石に日本代表なだけあってルールの違いなど調べればわかるようなところでミスは犯していませんでした。国内レースラフターの皆さんはIRFルール(全編英語)読んだことありますか?以前の記事でも紹介しましたがダウンリバーはH2Hではありませんよ!複数艇同時発艇は認められているものの、妨害行為などが認められた場合はかなりのペナルティーが明記されています。こういったルールの事前調査などは本当に抜かりなくさすがキャプテンだなという感じでした。また、話を聞くところによると帯同してくれるサポートの選手はいないものの選手間で声掛けをしたり事前調査をしたりとキャプテン任せにしない全体の士気の高さが感じられました。

WRF挑戦メンバー

世界大会を目指した具体的な練習

ここからは世界大会が決まってからの具体的な練習についてお聞きしました。世界を目指すにあたって何を考え・何に取り組んだのかを聞いてみたのでぜひ参考にしてみてください。

KEN
KEN

世界大会を目指す過程で様々な川以外の壁があったんですね!それではここからは具体的な質問をさせてください!国内選考も含めてレースに出ようってなった時に取り組んだ練習などはありますか?

増田さん
増田さん

大きく分けて二つのことに取り組みました!まず一つ目はRXメインの競技だとわかっていたので、御岳でゲートを張って「こうやって当たればボートはこうやって反応する。」というのを何パターンも試して当て方によるボートのレスポンスの違いを研究しました。

増田さん
増田さん

二つ目は初速の立ち上げの練習です。国内選考もそうですが結局RXでは先行されると不利になるので初速を出す・トップスピードに早く持っていくというのは非常に重要な要素でした。そこで練習したのが4人でフォワードの掴みのタイミングを合わせるのとスタートダッシュの立ち上げ練習でした。

KEN
KEN

なるほど!RXのパターンの練習というのはなんとなくわかりますが立ち上げや掴みの合わせ方というのは具体的にどんなものですか?

増田さん
増田さん

同じチームの元テイケイの辻田選手が教えてくれたのですが、僕たちはみんなキャッチしてからのインパクトのポイントやパワーの発出方法が微妙に違いました。キャッチからフィニッシュまで一定の選手もいればフィニッシュに向かって上げていく選手などみんな違ったのですが、ある程度その出力のポイントを合わせることにより立ち上げや0スピードからの加速を幾分有利にできると考え取り組みました。

増田さん
増田さん

結果的には色々試したところ8〜9パドルでHORUはトップスピードに乗るのですが、環境に影響されるところもあるので分かりやすく10パドルを目処にストロークを切り替えるということになりました。

練習としては、カヌースプリントのスタートに近い感じのもので体を前に倒すわけではなく、リーチの取れる範囲で「パドルを真下に落としたスタート」というものを練習しました。結局最後まで完成したという感じはなかったですがスタートダッシュの練習によりチームの中で意識や合わせるところは合ったかなと感じています。

KEN
KEN

かなりな練習してますね!でも社会人となると練習時間そこまで確保できないんじゃないですか?

増田さん
増田さん

そうですね、一応毎週末HORUの誰かしらは練習出てるっていう状況にはして、あとは個人練習です。自分自身も目標が決まったので弱点だったフィジカルの補強としてスラロームセンターで漕いだ後にトレーニングしたりと肉体補強は行いました!メンバー全員目標があればそれに向かっていけるようなメンバーだったので忙しく時間がないながらも各々トレーニングはしていたと思います。

増田さん
増田さん

また、1週間に1回何曜日と決めてそれぞれのタスク(事前調査など)や週末の練習結果などの報告会をオンラインで行なっていたのでそれぞれどう動いているかというのも目に見えてきてモチベーション維持には良かったかと思います。

具体的に取り組んだ練習としては主にはダッシュ練習とRXのシチュエーション練習がメインのようです!その中でも難航したのはフォワードストロークのインパクト合わせのようで、結局最後まで納得いくレベルでは完成しなかったようです。

学生であれば毎週一回探検部などの部会があるというのは至極当然の事かもしれませんが、仕事もあり家庭もある社会人が1週間に1回決まった時間をミーティングに当てるというのはかなりの負担でしょう。「今週はいいけど来週は予定がある。」というのも認めLINEなどで別途報告という形にしたり強制はさせないといった懐の深さも伺えました。

増田さん本人は個人的に練習したのかという質問に対しては「今回のメンバー間では自分がフィジカル的には足をひっぱているのでやはり筋トレや別のトレーニングは組んだ。」と言っていました。確かにチーム的にはフィジカル強めのチームだったのでキャプテンでありながらもその中でもきちんと自分の弱点を見極め補強していくという姿勢が見受けられました。

ルーティン

よく、世界のトップ選手などはレース前や競技前に決まったルーティンをするということがメディアでも取り上げられたりしますがHORUにもそういった独自の練習などは合ったのでしょうか?

KEN
KEN

個人的に伺いたいことなのですが、HORUってレース前は必ずこれをやるといったいわばルーティンのようなものはあるんですか?掛け声などはあると思いますが練習やアップで何かあれば教えてください。

増田さん
増田さん

実は今までそういったものがなかったんです。それが世界大会を目指していく中で徐々に固まってきて、今は練習前にやるメニューというのは固定されてきています。

今までは陸での体操とスタート前の掛け声はルーティンのような感じで行っていましたがボートに乗ってから行うものとして「上手のドリル」「下手のドリル」「ボートの伸び確認」というのが追加されました。

増田さん
増田さん

まず「上手のドリル」というのはTグリップを握る上手のみでパドルを持って、入水からキャッチまで行ってすぐに抜くというものです。入水からキャッチでTグリップ側が跳ね上がらないように下に押さえ込んであげるような感覚でブレードを水に押し込む動作を染み込ませる練習です。

「下手のドリル」も似たような感じで、今度はシャフト側だけを持ち(Tグリップは離す)同じようにキャッチまでいってすぐに抜きます。これはシャフト側4本指でどこに引っ掛ければ水中で安定するかを染み込ませる練習です。

これらをそれぞれ20パドルずつみんなで合わせて行います。

増田さん
増田さん

「ボートの伸び確認」というのは普通にパドルを持ってストロークするのですがゆっくり大きく後まで引き切っていくような感じで漕いでいきボートがどれくらい伸びるのか、みんなのストロークタイミングは合っているのかを確認するドリルです。これも20パドル行いその日の水の状態やボートの感覚を確かめます。

ひとつ前の質問でどんな練習をしましたかに対して「みんなのストロークのタイミングを合わせる練習」と答えていたことに関連して、ルーティンでもキャッチの感覚を掴む練習やタイミングを合わせる練習を取り入れていました。自分たちの課題に向き合い、整合性の取れた練習を取り入れていく姿勢も強さの秘訣なのでしょうか。

世界と戦って感じたこと

ここまでは世界大会に出るにあたっての手続きや、世界大会に向けた具体的な練習課題などについて聞いてきました。続いては実際に世界と戦ってみて感じたことについてお話を聞いていきます。

KEN
KEN

国際大会で増田さん自身初めて海外チームとやり合ったわけですけどその中でも「これは日本チーム勝ってたな・レベル高かったな」と思うことはありますか?

増田さん
増田さん

技術的なところで言うと回転軸の外側でコントロールする技術に関して言えばかなり進んでいるなと感じました。

KEN
KEN

テイケイの言葉を借りるなら「外中コントロール」的な考え方ですか?

増田さん
増田さん

まさにその技術ですね!回転した際の外側がアウトラインを作り出してグリップさせていくような技術はかなり進んでいるように感じました。海外のチームはかなりブラジル避け(?)というか回転軸の内側で掴んで急旋回させてボートの中を動いて避けるといったようなチームが多かった印象です。日本チーム全体見てもそうですが慣性処理の技術としてはかなり優れていて、むしろテイケイが優勝したことにより研究され盗まれていく技術だなと感じました。

レースラフティングを始めると国内の場合当たり前のように外側での慣性処理やJストロークのままひっかけ続けるといった技術を教わりますが、世界的に見るとかなり進んだというか珍しい戦法なんですね。

KEN
KEN

それでは逆に劣っていたなと感じたことはありますか?

増田さん
増田さん

技術で劣っていると感じた部分はほとんどありませんが、2位3位のブラジルやイタリア、5位のアルゼンチンもかなり高いレベルで仕上げていて、さらに彼らは身体も大きくフィジカル的にも圧倒的なので強敵だなとは感じました。練習でスタートダッシュなどは自分たちも取り組みましたが社会人というハンデを考慮してもそれでも向こうの方が高いレベルで仕上げてきている感じはありましたね。あと2年真剣に取り組めば自分たちももっとスタートを合わせたりボートを伸ばす技術を磨けると思うのでフィジカル+爆発力というのは取り組んでいきたい項目の一つです。

増田さん
増田さん

あとこれは日本とかじゃなくてHORUの課題なのですが、圧倒的にダウンリバーは弱かったです・・・笑

言い訳としては全然時間が足りなくてRXとスプリントに全振りしたのでしょうがないっちゃしょうがないのですが、今後上を目指すのであれば取り組むべき課題かなとは思います。

KEN
KEN

でも社会人として時間がない中やるので取捨選択を迫られるのは当然ですし、どこに山を張るかも重要な要素ですよね!

やはりでてきたのは「フィジカル」の違いです。海外のチームはフィジカルが強い上にトップチームとなるとかなりの技術で仕上げてくるのでより強敵なようです。しかし、増田さんも「あと2年あれば自分たちも!」と力強く答えてくれました。今回のレースで実際に世界と渡り合って様々な課題も見えたようです。2年後のWRF世界大会が楽しみですね。来年はユース・ジュニア枠といった若年層レースがWRFで開催されるようで、学生の皆さんは目指したい大会かと思います。

今回のまとめ

長くなってきたので今回はここで区切りたいと思います!

teamHORUキャプテンの増田選手が世界大会を目指したいと思った経緯・実際に世界に出てみて感じたことや世界を目指すために取り組んだことなどについてお話ししていただきました。

次回はこの取材の続きをお伝えしていきます。次回は練習技術というよりは新人パドラーに届けたいメンタリーティー的な取材内容をお伝えしていきます。

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