いよいよ今週末は御岳カップです!!年2回開催される御岳カップはいよいよ出場数制限が敷かれ、それでもなお満席となるほどの人気レースとなりました!
年2回開催なのにゲートセットは毎回微妙に違うしなかなか攻略に手こずるいいコースです。私も御岳でガイドをしていましたが、渇水だと岩当てのテクニカルコース、増水すると危険箇所満載のハイウォーターコースとガイドを育ててもくれる最高の川が多摩川の御岳渓谷です。
現在御岳カップのSLレースはゲンコツ岩から忍者返し手前のセクションで開催しています。一昔前のカヌースラロームや御岳カップを知っている人からすると三ツ岩が入らないコースに少し違和感を覚えるかもしれませんが、最近はかなり定着してきました。
前回の記事で3週間前からできる練習ということで紹介しましたが、今回は当日できるレースのテクニックについて解説します!レースまで1週間を切っているということで読んでくれた人限定の特別サービスになります!笑
レースセクションの認識
レース会場となるゲンコツ岩〜忍者岩は御岳の中では上流の三ツ岩セクション含めて最難関セクションとなります。ガイドの時はなんなら忍者を越えればあとはトーク力の勝負です。言うなれば「やらかすならこのセクション」ということです!
競技コースの全長としては概算ですがおそらく350m前後でしょう。
ゲンコツ岩〜Sターン岩〜歯ツ欠け〜旧小橋した〜大トロ〜縦沈〜トリケラ〜トリケラ忍者間(名前知りません!)〜忍者返し
イメージ湧きにくい方のためにリンクです!研究して見てください。
おそらく今回もこのセクションで15ゲート前後でしょう。違ったらごめんなさい!!
レースの作り方
レースとは言わば学校のテストのようなものです。コースセッター(コースデザイナー)との対話が必要なのです。セッターがそのゲートになんの意味を求めて何をさせたいゲートなのかを読み解いて適切と思われる回答を身体で表現するのがスラロームです。
水量調整やブロックの調整・ゲートの位置調整が変幻自在な葛西のスラロームセンターは例外ですが自然河川である程度時期が決まってセクションが決まっているコースであれば対策は講じることができます。もっと専門的な話をすると私もあそこで散々ゲートを張っていたのでハイライン(ゲートを張るためのアンカーになるワイヤー)の位置が大体わかります。ハイラインの位置がわかるということはゲートを張れる位置がわかるということです(力技で無理矢理とんでもないとこに張ることもできます)。あとはアップにするのかダウンにするのかとエディーや本流に対してどこに張るのかだけです。
それを抜きにしても河川の状況が大きく関わってくるので大体の戦略が決まってきます。これを踏まえて次のようなことを検討していきます。
①どこで頑張るのか
御岳カップのリザルトは2分後半から4分半ほどです2分半はテイケイでそれ以外の多くのチームが3分前後です。3分間急変する負荷に耐えながら全力漕ぎをするというのは普通に考えたら不可能です。そこで頑張るポイントと丁寧にいくポイントを大まかに分けておく必要があります。言い方は悪いですがテイケイ以外の一般人はどっかで手を抜かないと3分は保ちません・・・。それをチーム内で話し合って明確にしておく必要があります。
②安全策を敷く
時々勘違いしている人がいますがゲートは背中から通っても「通過」です笑。なぜか多くのチームが頭から通ろうとしますがそれは性能がいいチームのやることで実力に不安があるのなら後からでも横からでも通過することが優先です。カッコ良さや美しさなんていりません!カッコ良さや美学を求めていいのは本物のトップ・オブ・トップだけです。今回私も初心者の一年生を乗せて出場しますが戦略は「通れそうになければ切り返してでも通る。岩があれば岩に当てて減速してでも通る。とにかく泥臭く!」です。「いけそうじゃない?」は経験上8割失敗します。期待値はかなり低めです。であれば安全策を敷くほうが賢明です。
安全策を敷いてダラダラし過ぎると後ろに追いつかれてコースオープンさせられると不安に思う方がたまにいますがルールさえ知っていればそこまで心配しなくても大丈夫です。確かに後方チームに基本的にはコースオープン権があるのですが、それはあくまでも不通過を出さない状態での話です。
例えば自分たちが全通過状態で10番ゲートで追いつかれた場合は後方のチームはそれ以前を全通過していなければコースオープン権はありません。しかし、残念ながらゲート審判はどこで不通過をやったか全てを把握できないので大体の場合が追いつかれた時点でコースオープンさせてきます。ただ、その後にリザルトで自分たちがそれ以前を完璧にこなしているのにオープンさせてきたチームが不通過を出していたことがわかるとプロテストで再レースを申請できます。もちろん自分達がそれまでに不通過がないことと、追い抜いてきたチームのゼッケンNo.とどの辺で抜かれたかを覚えておく必要がありますが事例としては結構多いです。
また、コース全長を考えると1分間隔の発艇なのでよほど大きなミスをしてリカバリーとしてとんでもない漕ぎ上がりなどが入らなければ安全に回して通るくらいでは通常追いつかれません。漕ぎ上りなどがないにも関わらず追いついてきた場合は相手チームの不通過を疑ったほうがいいかもしれません。
前半戦【ゲンコツ〜旧小橋下】 中速セクション
ここからは実際の戦略について簡単に解説していきます。
スタートから大トロまではゲートのハイライン的にも中速セクションになります。そこそこスピードは出せるもののトップスピードに上げる手前でゲートが来るというなんとも歯がゆいセクションです。さらに中途半端に流れている上にスピードが出るのでゲート処理が難しくなります。ここは早く降り切るというよりはある程度のスピードは維持したままいかに処理落ちしないかが重要になります。特にSターンから歯ツ欠けの繋ぎは加速しすぎによる処理落ちが例年非常に多いです。近年Sターンエディーにゲートを張ることは少なくなっていますが前後のゲートでSを作るというセットはかなり多くなっています。
練習不足が否めないチームや新人が多く乗るチームはこのあたりは低速セクションと捉えてもいいかもしれません。ただし、歯ツ欠けを抜けて旧小橋下は完全に中速セクションです。流れも緩いのである程度は出力しないとタイムにつながりません。
ある程度の出力×丁寧な操作がここを抜けていく鍵です。
また、前半をある程度抑えめにしてあげないと新人さんや1年生は後半まで体力がもたなくなってしまいます。
中盤戦【大トロ・縦沈・トリケラ】 高速セクション
大トロを抜けると縦沈までは高速セクションです。ガンガン漕いでタイムを縮められる唯一のセクションです。昔ほど縦沈下出口の岩が飛び出ていないので比較的好きなラインで狙っていける印象があります。
逆にここをダラダラ過ごすと平気で5秒とか変わってきます。縦沈上のザラ瀬はアンカーの関係上おそらくゲートを張りづらいのでここにゲートが来ることはほとんどないでしょう。表彰台に行きたいのであれば大トロを出たら縦沈までは最大出力×トップスピードが必須です。縦沈からトリケラもかなり大ぶりです。トリケラを右か左かで悩むところですがDRするだけなら実は右岸のほうが楽だったりします。ゲート次第ですがここは迷うくらいなら全力で右を漕ぎ抜いたほうが早いことが多いです。
前に乗っている選手のほとんどが縦沈下〜トリケラ間のエディーで腕がパンプしてしまっています。これは前半の中速セクションでの「出し過ぎ」が原因です。全体通して3分〜4分の競技時間ということは陸上で言えば1500mのタイムになります(かなりトップのタイムですが・・・)。ミドルパワーというかなりしんどい時間です。ペース配分や戦略抜きに後輩や新人さんに「漕げ!!!」は正直無理な話です。
後半戦【トリケラ〜忍者】 低速セクション
トリケラを過ぎるとガイドが1番嫌いな大スタックエリアに入ります!笑 狭い上に小刻みに曲がるのでかなりテクニカルなセクションです。ここでスピードを上げるのはほぼ不可能でしょう。ここは丁寧にいかにスタックしないかを考えるほうが賢明です。ゲート接触とスタック・立ち上げだけ意識してスピード云々は無視してしまったほうがいいです。さらに低速セクションはゲートが詰まっていてクリアが難しいこともあります。そんなところでスピードを出し過ぎるとブレーキングが間に合わず不通過するリスクさえあります。アップゲートで多くのチームがエディーに入っているにも関わらず回転したあと抑えきれず落とされるという現象を見たことがある人も多いでしょう。あれは角度や漕力の問題ではなくエントリーの速度超過によるものがほとんどです。車を運転する人はイメージして欲しいのですが、一台通のがギリギリの住宅街を100kmで走って角を曲がれますか?それと同じです。適切な速度まで減速する必要があるのです。特に手前が高速セクションなので場合によっては結構なスピードでゲートに突入することになります。確実に通過するためには減速も一つの手段です。
総括
全体をまとめると御岳は中速~高速~低速セクションの順番できます。最大艇速を意識するのは高速セクションだけです。また、このコースの難しさは後半に低速セクションがくるところにあります。後半にいくにつれていくら温存していても疲労は蓄積します。そこで神経を使う低速セクションをぶつけてくるのでなかなか攻略しきれません。特に高速からの低速セクションはブレーキングができていないと流されます。2023年春の御岳カップであれば13番の右岸アップがいい例です。映像がYouTubeにあるはずなので記憶にない方や参加していない方は探してみてください。手前で失敗して岩に乗り上げて回っているチームがうまく抜けていき、引っかからずに綺麗に入ったチームが漕ぎ上がりで苦戦していたりします。
今回紹介した戦略としては大まかに3セクションに分けて戦い方を変える方法です。これはカヌースラロームでも使う方法で、スラロームの場合リアルタイムで前の選手の中間通過タイムが表示されます。前の選手のセクションタイムを見てコーチや監督が「あのセクションはもっと出してもいい!」とか「あそこで失敗が多いからちょっと丁寧にいけ。」といった感じでその場で戦略を変えていきます。それはゲート1本ずつではなく当然前後繋がっているゲート全てが対象になるので大まかなセクションで話したりします。また、この方法はゲートを順番で暗記しきれない新人さんなんかにも優しく、この辺は頑張る!この辺は丁寧に!といった具合で大まかな流れで覚えることができるのでおすすめです。
実際には当日のセットを見ないことにはなんとも言えませんが大きく数区画に分けて大まかな戦略を立て、それに合ったゲートのプランニングをするというのも一つの手段です。
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