フォワードストロークの基本【フィニッシュ】【リカバリー】

【入水】【キャッチ】編【ストローク】編に分けて解説してきたフォワードストロークの原則的な考え方ですが、いよいよ最後の【フィニッシュ】【リカバリー】です。

ここまで解説してきたのはあくまでもラフティングやカヌースラロームといった主に平たいパドルを使った理論です。カヌースプリントのようなスプーンパドルやSUPのようなネックの角度がキツイパドルは少々理論が異なります。

フィニッシュ→リカバリーの基本的な考え方

【入水】【キャッチ】【ストローク】に比べると【フィニッシュ】【リカバリー】は軽視されがちではないでしょうか?

しかし、【入水】【キャッチ】編の最初でも解説したように漕ぐということは【入水】→【キャッチ】→【ストローク】→【フィニッシュ】→【リカバリー】→・・・・とループしています。このループがどこか一つでも狂ってしまうとうまくいきません。これはあくまでもフォワードストロークの理論でスライスで前に持っていく場合などは例外です。

フィニッシュとは

【フィニッシュ】とは読んで字のごとく「終わり」を意味します。ストロークが終わってパドルが水から抜けるタイミングのことです。前回【ストローク】で解説したようにストロークは時間軸では線的な捉え方になりますが、フィニッシュは時間軸で言うと点的な捉え方です。水からパドルが完全に抜けた瞬間です。ストロークで出力が落ちてそのまま抜けるような軌道に入っても水中にパドルがいる限りそれはストロークと捉えられます。ガイド経験者やレースでもスターンの経験が長い人は感覚的にわかるかと思いますが、パドルがフィニッシュの軌道に入っても水中にいる限りギリギリで先端を少し引っ掛けたりしてコントロールできます。言語化や認識の違いも多少ありますがここでは「完全にパドルが抜けた瞬間」のことをフィニッシュと呼びます。

リカバリーとは

【リカバリー】とはフィニッシュしてから次の入水に向かうまでの動作です。パドルが水中ではなく空中を動く動作になります。水をつかまないので余程足を踏み込んだり体を大きく前後させたりしない限りリカバリー中にボートに影響を与えることはほとんどありません。

また、【リカバリー】はパドルを戻すだけではなく身体のリカバリーという意味合いもあります。ひたすら漕ぎ続けるDR競技などにおいてはこのタイミングで余計な力を逃がせないと最後まで保たなくなってしまいます。

フィニッシュ→リカバリーの連動

基本的にはフィニッシュしたらそのままの流れでリカバリーに入り次の入水に向かうはずです。

ストロークの終わりでパドルがフィニッシュに向かう軌道に入った段階で出力はしていないはずです。そのままフィニッシュ・リカバリーもパワーはオフになるので実質的にはストロークの終わり頃から休憩が始まるはずです。

明確にここで「フィニッシュ」ここから「リカバリー」と分かれている人はいないでしょう。私も分けていません。

フィニッシュに向けた軌道

今回は便宜上【フィニッシュ】【リカバリー】で括っていますが【フィニッシュ】はどちらかというと【ストローク】と一緒に語られることが多い技術です。ここからはストロークと紐付けて話を進めるので【ストローク】編をまだ読んでいないという方はそちらを先に読んでみてください。

ストローク編でも書いた通り後ろの選手は身体の後ろまでストロークすると回転軸から遠ざかり直進よりも回転慣性に入る力が強くなります。【ストローク】編では後ろの選手を例に出しましたが前の選手でも別の弊害があります。自分の身体の後ろまで引くということはパドルが寝てくるので掘り上げる力に働きやすくなります。それを解消(寝ないようにしようと)すると身体が後ろにのけぞってボートがノックします。どっちみちいい影響はありません。

そのため身体の回旋やリーチでとれるギリギリの幅を使ってパドルが寝始める頃にはフィニッシュの軌道に向けていくのです。

身体の構造的に下手したての肘が曲がり始めるとパドルが掘り上げる軌道に入っていきフィニッシュの時には水を掬い上げるような動きになります。そのため上手い選手はパドルを掘り込まないようにフォワードストロークの際には下手を身体の前で処理するように動いています。

レースになると先輩や外野から「漕げーーー!!」と言わるのでついつい興奮して必死で漕いでストロークを長くしてピッチを上げがちですが実はストロークでも本当に『効く』部分は極めて一瞬で、あとはそれを失わないようにフィニッシュまでいかにもっていけるかの方が重要なのです。

望ましくないフィニッシュ

ここからはあまり良くない抵抗になってしまうフィニッシュ方法について何点か解説していきます。

前に引きずるフィニッシュ

一つ目はストローク終盤から前に引きずるようにして抜くフィニッシュです。

無意識になんでしょうがやっている人はかなり多いです。

(※バイオメカニクス分析による解説になります。きちんとした条件付けや図のトリミング・カメラの固定などができていないと作為的な図や真実とは異なる図ができてしまうのであまり真似することはお勧めしません。)

下の画像を例に解説します。ここでは前の選手を例に解説します。

赤の実線が水面に対して入水した絶対位置になります。続いてオレンジの実線がパドルを立ててキャッチ→ストロークと移行したタイミングです。入水位置からキャッチまでのパドルを立てている間はボートに対して後方にスライドしていたパドルが最後のフィニッシュ位置ではほぼ入水の赤実線と同じ位置で抜けています。真ん中の3コマ目までは完全にオレンジの実線の後ろにいたブレードが前に抜けるということはボートの進行に合わせて前に引きずって抜いているということです。

世界のトップ選手レベルになると入水位置と同じ位置で抜けるようになるのですが、それは引きずって前に抜くのではなく完全にブレードをその位置で固定し全身の回旋運動を通じてボートを走らせた結果です。

それではここからはなぜ前に引きずるフィニッシュが良くないのか解説していきます。一つ目はパドルが寝るので上向の力が生まれるということです。ストローク編でも解説しましたが後ろまで引こうとしたりして掘り上げるモーションがあると抵抗になってしまいます。前に引きずるということは必然的にパドルを置いてくる形になり寝てきます。

二つ目はフィニッシュの抜けが遅くなるのでピッチが落ちます。本来すんなり抜ければフィニッシュ→リカバリー→入水と繋がっていくのですが、パドルが寝るのでストロークの最終軌道が長くなりさらにブレード一枚を前方に引っ掛けないように抜くのでさらに遅くなります。

三つ目はシャフト側の肘に負担がかかります。前に抜くということは多少パドルを持ち上げるようにして抜かなくてはなりません。そうすると手首が不自然な角度になり、それに引っ張られて肘も不自然な角度になります。下手の肘に違和感がある人はもしかしたらこれが原因かもしれません。

レースラフティングの場合前後の乗る位置で漕ぎ方が多少変わるという話を前回のストローク編でもしました。特に後ろの選手はスターンラダーのためにパドルを後ろに逃す事が多くなりますが、その癖なのかストロークで引き切って間を取っておきながらラダーせず引き抜くという人も多いです。スターンラダーをすると進行方向に対してはパドルのフェイス「面」ではなくエッジ「線」が向きます。そのため手首を使ってほぼ真上に引き上げればなんの抵抗もなくフィニッシュできます。ラダーの際に「癖」がついているとそれが通常のフォワードパドルのフィニッシュにも影響します。

水を弾き上げるフィニッシュ

いい画像がなくて視覚的に紹介できないのですが、フィニッシュからリカバリーにいく時にTグリップ側の手首を捻って水を弾き上げる(掬い上げる)ようにする選手がいます。前に引きずるよりも数は少ないように感じますが結構います。

あまりいい画像ではないのですが前の選手に少しその動作が出ています。

フィニッシュ位置からそのままパドルを前に持っていけばいいものを、一度手首を返してパワーフェイスが空を向きます。これにより水が跳ね上がります。

何が良くないかというと手首を返そうとする動作が少しでも早いとフィニッシュの瞬間に水を引っ掛けてしまいます。これは減速するだけではなく手首にも負担がかかります。空中でももちろん手首を返すので負担がかかります。「フィニッシュしたらリカバリーは猫の手で」や「素早く最短距離で抵抗のないように」なんて訳のわからない教え方をされるとこういう動作が生まれます。

今回は例としてわかりやすいのが前の選手だったのでこの画像を使用しましたが、パドルスポーツを始めたばかりでレースラフティングしか経験していない選手では後ろの選手の方がこの癖を持っている選手が多い印象です。フォワードストロークが安定しないうちにまっすぐ1人で漕ぐためにJストロークを教えてしまうとこの癖が出やすい印象にあります。ここまで激しく水を弾き上げないにしても「最後の手首の捻りはなんか意味があるのか・・・?」という選手は非常に多いです。今回画像を使用させてもらっている選手達は直接関わっていますし先輩達の指導背景も知っているのでなんとなく原因はわかりますが、多くの場合が先述したJストロークのクセの派生でしょう。

Jストロークもそうですが手首を捻るというのはかなり怪我のリスクがあります。手首は人体においてもほぼ末端の関節なのでそこまで強くありません。さらに指を動かすためにかなり複雑な構造をしているので負荷の掛け方を間違うとすぐ腱鞘炎になったりします。それを庇おうとすると今度は肘や肩関節に負担がかかります。初心者にJストロークを教える時はある程度全身でボートのバランスが取れるようになったうえで、ボートをテコにしてもバランスが崩れないようになってから軽い船を使って原理から教えます。目安としてはダッキーで1・2・3・ラダー(3回漕いで1回ラダー)のテンポで漕げるようになってからです。1・ラダー・1・ラダーでしか漕げない選手はまだまだフォワードが安定していないのとラダーで調整する力加減が安定していないです。負担のかかる漕ぎ癖をつけないためにもあまり早い段階でJストロークは教えない方がいいかもしれません。それがフォワードストロークにおいても手首を捻る・水を弾き上げるという癖を防止してくれることにも繋がります。

抵抗のないフィニッシュ

なかなかフィニッシュの瞬間を捉えた画像がなくて(どうしてもキャッチや入水の瞬間の方が絵になりますしね・・・泣)説明が難しいのですが、基本的にはTグリップ側の手(上手うわて)を使って横に抜くイメージです。

10年ほど前の画像になりますが、当時のラフティングチームテイケイの画像です。前2人の手の動きを見てみると多くの情報が得られます。

まず、右後ろの選手がまだ水中にパドルを残してコントロールしているということは前2人の動きとしてはフィニッシュの瞬間であろうということがわかります。その時のシャフト側の手を見てみると2人とも身体の前にあります。後ろまで引ききらずフォワードが一番効く部分だけで回しているということがわかります。

さらにパドルの角度を見るとかなり斜めになっています。これはパドルを縦に引き抜くのではなく、Tグリップ側の手をうまく下げる(回す)ことによって抵抗なく横に抜いているということです。その際にTグリップ側の手首もシャフト側の手首もひねる事はなくほぼそのままの角度で抜けていきます。

注目してほしい点として最後に「Tグリップ側の手の位置」というのを解説していきます。チームテイケイの2人の手は肩のラインよりも上にあります。

しかし、先ほどの学生チームの場合は3コマ目以降前後2人とも肩のラインよりも下にグリップが来ています。肩よりもグリップが下がった瞬間どんどんパドルが斜めになってブレードが上を向いていきます。ぜひ陸上で実験してみてほしいのですが、両腕を伸ばした状態でフォワードの動きをした場合どこまでパドルが垂直かチェックしてみてください。多少個人差はありますがおそらく目線よりもグリップが下がった瞬間にパドルが寝始めます。上の画像でも2コマ目の顔の前あたりまではまだパドルが立っています。3コマ目の肩のラインまで落ちた頃にはブレードが上を向いて寝始めています。この斜めになったパドルを抜こうと思うと前に引きずるか猫の手のような感じでシャフト側の手首を曲げて無理やり横に上げるかしかありません。

ここでもう一度チームテイケイの画像を見るとグリップ側もシャフト側も手首をひねることはなくすんなりと抜けています。非常にキレイなフィニッシュであると言えます。

リカバリー

フィニッシュさえ決まってしまえばリカバリーはそこまで考える事は多くありません。基本的には次の入水に向かうだけなので負荷はかからないはずです。

確かにテクニック的には難しいことはありませんし、なんとなく過ごせてしまうタイミングなのですが、唯一水からの負荷がかからないポイントでもあるのでここをいかに過ごすかも非常に重要です。

パワーはOFF

これも教わり方や日本語の解釈の問題なのですが「切り返し(リカバリー)は速く!」という教わり方をしてきた選手はものすごいスピードで力んでリカバリーをします。あとで解説する「リズムを取る」でも詳しく書きますがリカバリーで力むことはありません。特に約30分以上も漕がなければいけないダウンリバーにおいてリカバリーで力むと最後までもちません。

さらに先ほど解説したフィニッシュともつながるのですが、リカバリーを早くしようと思って力んでいると必然的にその前段階であるフィニッシュも力んでしまいます。そうなるとTグリップをひねってしまったりシャフトを無理に持ち上げてしまったりとあまりいい影響も出ません。最初の方でも書いた通りフィニッシュからリカバリーにかけてはパワーはOFFです。

タイミングをとる

「切り返しは速く!」を正しく捉えるとすれば、漕いだ後はフォワードのポーズまで戻ってタイミングをとりましょうという事です。始めたばかりの選手がハイウォーターに出るとウェーブが大きすぎてどこをどう漕いでいいかわからなくなってしまうということがよくあります。そのようなシチュエーションでよくあるのがストロークで引き切ってブレードが後にある状態でウェーブに突っ込んでいき、そこから前にパドルを出すというものです。ラフトボートくらい大きくて安定していればなんとかなってしまうのですが、スラローム艇やダッキーなどのように細くて安定しない船ではストリームインやフェリーグライドでもバランスを崩しかねません。そこでバランスを崩してしまった時にパドルが後ろにあると「バランスが崩れた!」と思ってもリカバリーするところからスタートなので立て直すこともできずに沈してしまいます。しかし、水には入れなくてもフォワードのポーズまでブレードが戻っていればブレイスなりスイープなりで水面を叩いてバランスが取れます。

ストリームインやフェリーグライドの踏み切りにおけるタイミング合わせももちろんですが、ウェーブやバックウォッシュ・ストッパーに対するタイミング合わせなど流水では様々なタイミング合わせがあります。どんな状況であれパドルが後ろにある状態では咄嗟に何かができません。そのためフィニッシュした際はパドルを後ろに残してフリーズせずに必ずリカバリーを行い入水のすぐ手前でタイミングをとりましょうというのが「切り返し(リカバリー)は速く!」の元々の意味ではないでしょうか。

リズムをとる

実際にダウンリバーレースなどをしたことがある人でないとピンとこないかもしれませんが、フォワードストロークはある程度のリズムで漕いでいきます。レースラフティング4種目においてスプリント競技などは距離も短くリズムで漕ぐというよりはとにかく回した方が早かったりしますし、SLやH2Hはゲートやブイを回るのでピッチの変動が激しくリズムを取りにくかったりしますがダウンリバーのようなロングを漕ぐ際には非常に重要です。

それでは「リズムとは何か?」ですが、簡単にいうなら漕ぐ際の「1・2・1・2・・・・」の掛け声です。私もラフティングガイドをしていますがお客さんに漕いでもらうときは「1・2・1・2・・・」の掛け声です。ツアーの時は「1でパドルを前に入れて2で後ろまで持ってきます」と伝えています。

しかし、この「1・2・1・2・・・」がなかなか曲者で大学やチームに限らず個人によってリズムが違うのです…。「いーち(1)、にっ!(2)」っと2でフィニッシュからリカバリーまでを急ぐ人もいれば、「いち(1)、にー(2)」と2に間を持たせる人もいます。さらにこの間の長さも人によって違うので本当に色々なリズムがあります。

実際どれが速い、正しいという事はなく自分たちの漕ぎやすいリズムで漕げばいいのですが、理屈としてはリカバリーでリズムやタイミングをとります。例えば「いーち(1)、にっ!(2)」というリズムですが、細かくみていくと「い」が入水からキャッチ、「ー」がストローク、「ち」でフィニッシュからリカバリーの始まり、「にっ!」でリカバリーをしてフォワードのポーズという形です。もっとわかりやすくすると「いーち」で大きく漕いで「にっ!」で勢いよく戻しています。これはストロークに間を持たせて(リズムをとらせて)リカバリーを早くした漕ぎ方です。このリズムの取り方というのは必然的にストローク速度が落ちます。物理的に静水域においてはストローク速度を超えるスピードで艇は動かないので遅くなりやすいです。そのためカヌースプリントでは「入水したらゆっくり引かずに一呼吸でフィニッシュまで行け」と言われたりします。

一つ前の「タイミングを取る」でも解説したようにリカバリーで前にパドルを戻した場所でタイミングはとります。このタイミングをとるというのがそのままリズムにもつながってきます。

これ以上詳しく解説しようとするとストロークからの繋がりも書かなければならないのでやめますが、スプリント競技の「入水したらゆっくり引かずに一呼吸でフィニッシュまで行け」という言葉がリズムを取るということに関しては非常によく表しているので練習の中で探ってみるのもいいでしょう。

まとめ

フィニッシュからリカバリーはパドリングの中でも軽視されがちです。どうしても入水・キャッチ・ストロークに意識がいきますが、抵抗なくフィニッシュできないとせっかくストロークで加速した分をブレーキしてしまうことになります。リカバリーも同様でリカバリーで休息できていないとDRなどの長期戦になるとスタミナが持ちません。

漕いでいる割に艇速が上がらない。DRなどのロングを漕ぐと途中で疲れて漕げなくなるという方は一度フィニッシュ→リカバリーを見直してみるのもいいかもしれません。

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