パドル選び

以前パドル選びの基準に関する記事を上げました。

今回はそれの続編というか関連記事です。

現役生などと話しているとラフティング用のパドルはgalaしかないんじゃないかと思っている人もいるようですがそんなことはありません。何ならパドリング界全体の世界シェアで言うとgalaはそこまで高くありません。スラロームの世界においてボートはvajdaヴァイダかgalaがほとんどですがパドルは近年vajdaやGpowerジーパワーに押され気味です。ワイルドウォーターのC-1に至ってはほぼjantexヤンテックというワールドカップすらありました。カヌーでもっとも競技人口の多いスプリントにおいてはゼロです(見たことありません)。

そもそもラフティング用のパドルはほとんどない

皆さんはパドルを買う時どこで情報を得ますか?おそらくほとんどがインターネットでしょう。有名なパドルメーカーのHPを見ていけばわかりますが用途に「Rafting」なんて書いてあるところはほとんどありません。オランダの老舗メーカーDoubleDutchくらいではないでしょうか?

多くのメーカーは「Rafting」ではなく「DownRiver」や「SLALOM」「WhiteWater」という表記です。基本的にはDownRiverやWhiteWaterはワイルドウォーターカヌーでSLALOMもカヌースラロームが主なターゲット層です。このように基本的にはワイルドウォーターやカヌースラローム向けに作られたパドルを都合がいいからそのままラフティングで使用しているといったのが現状です。

パドルによっても違うがメーカにーよっても違う

「galaのパドルを買おう!」と思っても実際には「gala」というパドルは存在しません。galaはメーカー名でその中に3MやTE、シディーといったモデルがあります。実際全て触ったことがありますが似て非なるものでした。しかし、同じメーカーが作っているせいかシャフトの感じやグリップのつけ根の感じなどはどことなく似たような感じがします。

ラフティングの方にはあまりピンとこない話かもしれませんがjantexというメーカーのスプリント用パドルにGAMMAガンマというパドルがあります。実はこれはBracaブラーチャというメーカーのXIというモデルのライセンス生産(型を真似させてもらった)パドルなのですが、全くの別物です。お互いシャフトの質感も違えばサイズのラインナップも微妙に違い使っている樹脂もおそらく違うので漕ぎ味は全く異なります。同じ型を使ってこんなに違うのかというくらい違います。

しかし、それぞれのメーカー内では「ものは違うけど、どことなく似ているな」というものが多いです。そのため色々なメーカーを試せば試すほど手に合う質感というのが出てきます。

パドル選びの基準

以前の記事でも書きましたが、個人的には好きなパドルを買ってそれを基準にしていくというのが一番オススメです。しかし、経済的にもパドルを2本も3本も買ってられないといのはわかりますし、一つのものを大切に使うという価値観もわかります。そうなるとやはり他人から借りて試用してみて基準を見つけていくという方法しかありません。今回は私が個人的に持っている基準を一般化してお伝えできればと思います。パドルを試用する際に注意して見ていく基準だと思ってもらえればいいかと思います。

①シャフトの質感

左から順にDoubleDutchの純正シャフトで表面は凹凸なくツルツル・Jantexの純正シャフトでLULAのシャフトのような細かいテーパーの後あり・galaのデザイン(塗装)シャフトで独特のツヤ・galaの純正シャフトで独特なテーパー感があるシャフトです。

どれがいいという話ではなく個人の好き嫌いがモロに出る部分です。濡れた際の滑り方やスライス時の引っかかり方などが全く異なります。

また、シャフトをみていく上で重要な項目の一つに「オーバル」というもにがあります。「オーバルシャフト」といってグリップ側からブレード側に向かって徐々にシャフト径が太くなっていくものがあります。LULAやgalaもオーバルシャフトです。写真の4本の中では一番左のDoubleDutchだけがオーバルシャフトではない均一なシャフトを採用しています。これも好き嫌いがかなり分かれます。オーバルシャフトは自分の長さで握ると手の大きさに合わないという場合も結構あります。逆にストレートシャフトもその太さが手に合わないと調整のしようがないという欠点があります。galaのMCQのようにブレードとシャフトが一体成形のもの以外はシャフトのみを別に購入して気に入ったものに換装できますが余計にコストもかかるのでやはり手にあったものを選ぶのが理想です。好みもありますが太すぎると手に余ってしまい力が分散してしまいますし、細すぎると握り込まなければならず疲れる傾向にあります。

まず一つ目はシャフトの質感や太さが手に合うかどうかというのが基準です。

②ベントや特殊形状の有無

現在のC-1パドルはほとんどがストレートシャフトのノーマルブレードですが、昔を知っている人だと「エルゴシャフト」という屈折したシャフトが記憶にある方もいるのではないでしょうか。

もはやC-1では失われた技術と言っても過言ではないでしょう。一応わからない方向けに例としてダブルブレードのエルゴのURLをつけておきます(https://www.tamazon.jp/?pid=100846404)。このような屈折がC-1でもブレード寄りのシャフトに入っていた時代があるのです。しかし、持ち幅とパドル全体の長さの調整の難しさからあまり普及しませんでした。また、エルゴにも種類があって「ベントシャフト」「ニュートラルベント」「パワートルク」など様々な曲がり方による違いがあるのです。種類が多くどれがいいかわからず結局ストレートシャフトに落ちつく選手が多かったというのも普及しなかった理由の一つでしょう。

そんな中でも形をかえ時代を越えて生き残っているのが「パワートルク」です。galaのTEがこの形状を残しています。

パワートルクとは前から水を取れるようにするためにシャフト側をエルゴ(屈折)させることにより前に出したパドルです。ノーマルシャフトはシャフトの延長線がそのままブレードの端になるのですがパワートルクではエルゴした分前に出ます。それを残しているのがgalaのTEなどです。こちらはシャフトはストレートなのですがブレードのネック部分から湾曲し前に伸びていきます。図では斜め前に出ているように見えますが実際は緩やかに湾曲しているのでパワートルクの湾曲部をコンパクトにしてブレードに入れたような感じです。どちらもコンセプトはシャフトの位置(握っている手の位置)よりも前からキャッチできるということです。

GpowerのチャレンジャーやBracaのrocky2などがこのようなパワートルクを残した形状をしています。

通常のストレートシャフト+ノーマルブレードに慣れている選手だと使った際にかなり違和感があるでしょう。私も一時期galaTEとJantexSIGMAを使い分けていた時期がありますが、キャッチの引っかかる位置やインパクトの位置が違いすぎてどっちつかずになりかけたことがあります・・・泣。

このような特殊形状のパドルというのはあまり多くありませんが、知っておくだけでもそのような違いがあるというのがわかるのでいいでしょう。また、ここで言いたいのはそのような特殊形状もそうですがパドルがどのタイミングでキャッチの位置に入るのかを確かめる必要があるということです。ベントシャフトの例は極端ですがそれぞれのブレードによってキャッチのタイミングなどが微妙に異なります。普段使用しているパドルに慣れていればいるほど違和感が大きくなります。

当然ですが試用の際にはチェックしています。

③重心の位置

カーボンパドルのメリットはキャッチの強さやその形状も去ることながら他のパドルと比べた時の圧倒的な軽さでしょう。しかし、カーライルなどと比べてキャッチが強い分軽すぎるパドルでは扱いにくくなることがあります。軽いパドルは水圧の影響を受けやすいのに重量がないのでパドラーが手で安定させなければなりません。そのため初心者が使うと水の中でバイブレーションしてしまいストロークが弱くなるという欠点があります。日常でもそれを体験できます。小学生の頃によくやったであろう下敷き団扇の要領でA4の紙一枚で自分を仰いでみてください。ペラペラすぎて紙は曲がるししっかり持てないしで仰げません。しかし、同じA4サイズのリバベンパンフレットなどでは安定して仰げます。重いですが重さが安定を生み出します。

少し話はそれますがドイツのパドルメーカーでLettmannというところがあります。重くガッチリとしたパドルで生真面目なドイツ人が手がける非常に作りもいいパドルです。一見すると重量もありパワー系パドラー向けなのかと思いきやストローク軌道に入るとパドルの重心が生み出す安定感で重さを感じさせない抜群のストロークを生み出すとんでもなく優れたパドルです。C-1部門は非常に小さくシェアもないですがスラロームK-1やスプリントではコアなファンを持ち続ける「超」がつくほどの老舗メーカです。

個人的な感覚ですが扱いやすいパドルというのはブレード側に重心があるようなパドルな気がします。ブレードが軽いと重心が上がってしまいシャフト側に重心がきます。そうなると水中にブレードが入っても重心が高すぎて安定しない感じがします。ブレードが重いパドルはLettmannもそうですが水に入れた際に重心が下がって安定し軌道を安定させやすい感じがします。

そのため私は初めて使うパドルなどは重心の位置がどこにあるのかや水中でどれだけパドル自身が安定するかを意識しながら使います。これはカタログスペックでブレード何gと書かれていても全体の重さに引っ張られますし、組立て時の接着剤の量によっても前後するので実際に使ってみないとわからない感覚ではあります。

④パドル全体の硬さ

選手の方がパドルを買おうとするとほとんどがフルカーボン仕様のものでしょう。ただ、カタログの売り文句では「フルカーボン」と謳っていても実際にバラしてみると下に一枚グラスファイバーをかませていたり、シャフトは別メーカーのものでケブラーとの合成だったりと様々あります。そんな中でも違いが出るのが樹脂の硬さです。詳しくは書きませんが実はメーカーによって樹脂の種類が微妙に違います。それによって質感もそうですが全体的な硬さやしなり方に差が生まれます。

また、カーボンというと上の写真のような細かく編まれたカーボンを想像する人が多いと思いますが、カーボン繊維とは単に炭素繊維のことなので編み方は様々です。

先ほどの写真でも左端のDoubleDutchと右端のgala(右から2番目のデザインパドルも中身は同様)は縦糸メインでそれぞれ独特な編み方をしています。これによってしなり方や強度が出る方向に差が出ます。もちろん目に見てわかるレベルではありませんが、慣れている人が触ればわかるレベルではあります。

タイトルではパドル全体の硬さと書きましたが、主に見ている点としては全体の硬さとしなる場所です。ブレード側がしなるのかシャフト側がしなるのかで話が変わってきます。これはブレードの厚みやシャフトの太さによっても変わってくるので重心の位置と同様で実際に使ってみないとわからないので試用の際には必ず確認する項目の一つです。

あまり気にしないポイント

ここまで紹介してきたようにパドルを選ぶ(試用)際には上記のようなことを意識します。これ以外にも無意識的に感じとっていることもあるでしょう。

ここからは逆に「意識していないポイント」について紹介していきます。意識していないというよりは「そんなところは個体差だ」ということで考慮から除外するポイントについて紹介していきます。

①Tグリップ

直接手で触れる部分なので気になる人も多いようですが、Tグリップは変えられます。メーカーやパドルによってはTグリップを径何mmと指定できたりもしますが、水に濡れたり太陽にあたったりで木のグリップは形が変わっていきます。木の場合は節があったりするだけで思ったような形に加工できなかったり水に濡れて締まっていく過程においても歪になったりします。もっとも個体差が大きいパーツです。それをパドル選びの際に「このTグリップは・・・」となることはありません。ミッチェルやJantex・DoubleDutchなどはgalaに慣れている人からすれば違和感かもしれませんが使っていれば慣れます。

②長さ

確かに長さによってしなり方や重心の位置は変わります。しかし、長さが伸びるといってもシャフトが長くなるだけでブレードそのものの長さは変わりません。慣れてくるとシャフトがしなっているのかブレードがしなっているのかぐらいは見分けがつきます。

パドルの長さは大きな差ですが自分用に何を買おうかどうか迷っている時などはそれ以外にみたいところがたくさんありますし慣れてくれば無視できる項目の一つです。

③素材

先ほどパドルの硬さでも書いたようにカーボンの内側にグラスファイバーを挟むなんていうのはよくあることです。スラローム艇なんかは修理すると酷いものでサンディングしていなかったり、フルカーボンと謳っておきながら普段みえないところにケブラーカーボンを混ぜていたりと散々です。しかし、ドライな話をすると性能が全てです。そのパドルの性能が良ければなんでもいいというのが個人的な見解です。まれに「カーボンが軽いしいいんだ!」というカーボン信仰な方もいますが、使ってみた感覚で良いものであればケブラーが入ろうがグラスが入ろうが関係ありません。

ちなみに今現在私のガイド用パドルはシャフトがフルカーボンでブレードがフルグラスファイバーです。ブレードまでフルカーボンも選択可能でしたが、硬さと重心位置・しなり強度・ガイドという使用場面の関係からあえてグラスファイバーのブレードを使用しています。

昔のパドルだとシャフト全体がケブラーカーボンだったりシャフトの半分だけがケブラーカーボンだったりと様々あります。しかし、結局のところ手にあったものが一番です。「ケブラーカーボンだから買わない!」という方もまれにいますが正直見栄を張っているだけだと思います・・・笑

購入時に気をつけたいこと

結局使ってみてデザインや性能を含めて気に入ったものを買うのが一番です。しかし、いざ購入となると違うことをしだす人が結構います。

何をするのかというと「違うブレードサイズを購入する」です。同じ型のパドルでもサイズ設定が複数ある場合があります。よく使われているgalaの3Mだとミディーとマキシーの2サイズがあります。私が使っているjantexだとSIGMAは5サイズあります。ちなみにですがカヌースプリントの人気パドル(ダブルブレード)であるBracaのXI van dusen92というパドルは10サイズもあります笑。

例えばJantexSIGMAのS+というのを試用して「いいな・・・。買おうかな。」と思ったとします。これで単純にS+を購入するのであれば問題ないのですが、「この性能でもう少しキャッチが強いのが欲しいな」といってMサイズに上げて発注するのはオススメできません。ブレードサイズ=面積なのでサイズが上がるということはどこかしらが大きくなります。メーカーやモデルにもよりますがブレードの長さが伸びるものと横幅が広がるもの・その両方など様々です。ブレードサイズが変わるということは当然重心の位置も変わります。試用したパドルとは全くの別物が届く可能性があるのです。しかし、パドルの微妙な違いというのは使っていれば慣れてきます。「慣れるならブレード大きくてもいいじゃん。」と思うかもしれませんが、以前にもどこかで解説しましたがそもそも日本人で大きいブレードを扱える選手はほとんどいません。さらにラフティング競技は他のパドリング競技に比べ競技時間が長い傾向にあります。SL1本3分前後だけなら扱えても40分超のDRやSPを何本も漕ぐH2Hとなると耐久戦となります。そこでmaxサイズのブレードとなると確実に疲弊します。ブレードサイズが大きいとより水を掴むので重くて引けている「気持」にはなりますが、実際のところは重すぎてささっているだけになってしまいます。

試用の際というのはおそらく練習の時などでしょう。そのような場合ロングを漕いで試用するという方はほとんどいないはずです。いつも練習している川(や練習場所)で人から借りて数分使うくらいでしょう。試せるならロングの使用感を確かめるのがベストですが、そのようなことができないという場合には物足りないからと大きめのブレードを購入することはオススメできません。

少し話はそれますが、精神面の問題として大きなブレードを使って結果が振るわないとさらに大きなブレードが欲しくなります。「立ち上がりの時に引けてない。」「加速の伸びがない。」「スイープ1パドルで回しきれない。」など選手それぞれ様々な課題があるとは思いますが一見すると全てブレードサイズで解消できそうでブレードサイズが原因のような気がしてしまいます。そうなってしまうと自分の技術向上ではなく「このパドルは自分に合っていない。」「サイズが小さすぎる。」といって道具のせいにしてしまいがちです。そしてどんどんとパドルだけが大きくなってしまい、より引けない・より回せないといった悪循環に陥ります。

まとめ

今回はパドル選びの際に私が気をつけていることについて簡単にではありますがまとめてみました。特に重心の位置やネック部分の形状などは気にしています。もちろん細かいところをあげだすとたくさんありますが大まかには今回紹介したようなところが主なパドルの性能差になるのではないでしょうか。

galaやLULAといった人気のパドルが誰にでも合うとは限りません。理想の一本を探す参考にしてみてください。

※補足※

VAJDAのONE(先端のチップ形状が特殊)やGpowerのRevolution(パワーフェイスに溝が掘られている)を購入する際はかなりクセが強い可能性があるので気をつけましょう。また、Revolutionなどの面に特殊な加工が施されているパドルは破損してコアまで行った場合元通りにするのは至難の技なので注意が必要です。扱いにも慣れている熟練パドラーならまだしも初心者の1本目で行くのはあまりオススメできません。

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