オススメの静水練習

今回は筆者自身が実際にやってみて「効果があるな!!」と感じた練習方法について解説していきます。練習がマンネリ化してしまっているという人は試してみてください。

そもそも静水練習がマンネリ化する原因

静水練習のマンネリ化は多くのレースラフターが抱える悩みではないでしょうか?よく同じ場所で練習している探検部さんも朝練場所での練習が飽きてしまって流水にいきたいという話をしています。一度流水を覚えるとどうしても流水にいきたくなる気持ちはわかります。静水では刺激が足りなくなってしまうのでしょう。

①経験不足

練習に飽きてしまう原因の一つは経験不足でしょう。「は・・・?」と思われるかもしれませんが、圧倒的に経験がある選手こそ静水練習を大事にします。

練習している探検部さんも固定で木から吊るしているペットボトルゲートが1つとおもりをつけてブイのように使えるペットボトルを3つの合計4ゲート使えます。練習場所は激しい流れはないもののよく見るとダラっと流れている幅が約50mほどの静水です。また、ほぼ静水で直線300m取れて大回りの回航も可能なのでかなり恵まれた環境です。

正直スラローム経験者からしたら4ゲートあれば静水での挙動練習はいくらでもできますし大体のセットをカバーできます。微妙な位置変更だけで丸1日潰せます。毎回同じようなセットで練習しているのでたまに口を出してセットを変え条件をつけるだけで途端にできなくなります。単にそれまでのセットに慣れていただけで本当に上手くなっていたわけではないということです。条件付けといってもシンプルなもので、ターン方向を指定したりパドリングを制限する程度です。それでもできなくなります。

こういった簡単だけど実践を意識した練習というのは実践経験を積まなければ蓄積されません。しかも意識して大会に出てゲートセッターの意図を汲み取ろうとしなければ蓄積されません。こういったレース経験の蓄積がないといつも同じセットでばかり練習してしまいそのうち飽きてマンネリ化してしまいます。現在はYouTubeなどでいくらでも無料でレース動画を見ることができます。海外のスラロームレースの動画などをみてゲートセットの組み合わせを研究したり、選手によって違う通り方をしたりするのでそれを考察してみたりするだけでも仮想的に経験を積んでいることになるのでオススメです。

②目標を決めない

これも結構多いのですが目標を決めていないチームはすぐに練習に飽きます。直近であれば長良川wwfや御岳カップが開催予定ですが(9月に執筆中)、多くのチームが目標を聞くと「フリップしない!!笑」「J1に入る」「10位以内」などの答えが返ってきます。「フリップしない!!笑」は論外ですが残りの二つも悪くはないですし否定はしませんがもう少し具体性が欲しいです。結果を出すチームは会話の中で目標を聞くと「目標は⚪︎位で、ただ××のチームも出てくるからまずはそこに勝ちたいです。それに向けて自分たちは〜〜が弱いので静水とかだと△△な練習してます!」と聞かなくても結構具体的に答えてくれます。目標が曖昧というかざっくりしたチームは結果も出ないですし、練習を見ていても力が入っていません。

例えばリバベン(みなかみ)だとしたら「上級に残りたい!」と思うとまずSPで結果を出さなければいけません。近年のSP区間である水紀行館前はアプリで測ると直線で370mです。多めに見積もって400mだとして静水で400mを出し切る練習が必要になります。さらにタイムをとって平均速度を計算し過去の大会リザルトに近づけるように調整していくとなおいいでしょう。当然本番は流水なので静水のタイムでは絶対に勝てませんが近づける努力はできます。同じ要領でSLの距離を測って全開で漕ぎ抜く練習もいいでしょう。

これはほんの一例ですがこのように目標を立てることにより何をすればいいかが目に見えてきます。

③数値を見える化しない

以前にもどこかで書いたかもしれませんが、見える化は非常に重要です。

私は最近カヌースプリントの練習ばかりしていますが、スプリントはひたすら静水の直線を速く漕ぐという競技なので練習もそういったものばかりでラフターやスラローマーからすると恐ろしく退屈で苦痛な競技でしょう。それでも飽きないしやっていて楽しいと感じます。

スプリント艇はタイム(厳密には着順)を競う競技なので必ずタイムをとります。

コックピットの前にウォッチホルダーをつけて確認できるようにします。

レースラフティングの練習をしているときに見える化しているチームは少ないように感じます。

私が使っているのはポラールで瞬間時速・心拍数・移動距離・練習時間が表示されています。「今日は時間で練習しよう。」「今日は何km漕ごう。」「心拍数キープで何km漕ごう」といった具合に目に見えるのでやっていても面白いです。どうしても腕時計型で腕につけているとリアルタイムで確認するのは難しいのでわざわざ胸部心拍計をつけて見える状態でやっています。

周回数を決めてタイムをとっていればまだいい方ですが、時間だけ決めて周回数を決めない30分耐久漕ぎなどをしているチームが非常に多いです。これでは毎回毎回漕ぐ距離も変わればコンディションによってスピードなども変わってきます。こういうことを見える化するだけでちょっとした楽しさなどが出てきてマンネリ化しにくくなります。

マンネリ化させないために

まずは前述したようなことに注意して改善してみてください。特に目標を決めるのと数値を見える化するのはそれだけでもかなりモチベーションが変わります。

それでも行き詰まった時にできるオススメの練習として今回紹介する「小道具を使う」というのがあります。基本的にはスラローム練習よりもSP・DR練習といったフィジカル練習で使うことが多い練習です。ボートにロープなどの何かしら負荷になるものをつけて追い込んでいくという練習です。

ボートに負荷になる錘を取り付けられれば結論なんでもいいのですが、単純に「人をたくさん乗せる」だと人数に制限もあるしボートが沈んだり狭くなってしまい漕ぎにくいだけになってしまうので道具を使って負荷を与えるのがオススメです。

①ボートの下にロープを通す

ラフティングでやるには最も単純である道具だけでできるコストもかからない方法です。使う道具はボートとスローバックだけです。

方法は単純でラフトボートの右と左のDリング(コロラドならサイドロープの付け根)にロープの端をくくりつけてボートの下を通して反対側の端にもう一方もくくりつけるという方法です。ボートの下にロープが一本入るだけで加速が阻害されて負荷がかかります。静水練習なのでボートの下にロープが入ってもそこまで危険ではありません。もちろん流水練習での使用は岩や枝に引っかかるリスクがあるので推奨しません。負荷を上げようと思ったら簡単で、ロープの巻き数を増やすだけです。右→左→右で往復させればロープが2本分になるのでその分重くなります。スローロープであればほとんどが10m以上なので最低1往復分は取れます。

②ホースを通す

ボート下にロープを通すトレーニングの派生形です。スローロープだけだとロープが細くすぐに慣れてしまい負荷が足りなくなります。そこでロープに何かしらの負荷を追加していくという方法です。私が行なっているのは水道ホースをつけるという方法です。ホームセンターなどで1m300円くらいで売っているホースにロープを通します。

ホースの太さによってはスローロープを通しにくかったりするので、その際は紐もホームセンターで売っています。

カヌーの場合はコックピットのコーミング前にひっかけてしまえば邪魔になりませんがオープンデッキ型のラフトボートは一周させると邪魔になってしまうのでカラビナ2枚で左右のDリングなどにかければ邪魔になりませんしカラビナだと着脱が楽になります。このセットはヒモ・ホース(1m分切り売り)・カラビナ含めて1,000円前後で完成します。

これで負荷が足りなくなったら今度はこの上に発泡スチロールでできた水道管の保温材などを巻きます。一気に厚みも出て若干水も吸うので負荷が増大します。

③何かを牽引する

青春スポーツ漫画でたまに見るタイヤを引っ張って走るトレーニングのラフティング版です。ただし、タイヤだといくら静水でも沈んでしまって危ないので何かしら浮くものをつけて引っ張ります。そこでよく使われるのが漁業などで使われるブイ(浮標)などです。これをロープなどでボートに括って牽引しながら漕ぐというトレーニングがあります。

牽引のイメージ

ロープで何かを引っ張るだけならやったことがあるチームもいるかもしれませんがこれの派生としてゴムバンドで引っ張るという方法があります。上のイメージ図の黒いロープ部分をゴムバンドに変えるというものです。ゴムバンドもホームセンターのトラック用荷縛り紐や梱包資材などのエリアにあります。

ゴムバンドにするメリットとしては引っ張って負荷がかかると徐々に張っていき、出力が落ちてくるとゴムバンドが収縮してしまい漕ぎづらくなります。これによって張ってないと余計に疲れるという状況が生まれて出力維持が期待できます。

ボート負荷をかける際のポイント

ここまで小道具を使った静水でできる簡単なボート負荷の掛け方を紹介してきました。もちろん静水でスラロームをするときもロープやホース程度なら小道具をつけてもできますしいい負荷になります。ここでは負荷をかける際に意識するポイントとそのメリットについて解説していきます。

①意識するポイント「いきなり高負荷にしない」

こういうトレーニングを紹介するといきなり最大負荷でやろうとする人が必ず現れます。特に紹介したホースやブイはホースの太さを太くしたりブイの数を増やしたりするだけで簡単に負荷が上がります。やったことがないチームがいきなり高負荷でやると怪我のリスクが大きくなります。当然1回目の練習は筋肉痛などないので耐えられるかもしれませんが、繰り返していくと必ず疲労が出ます。練習の目的自体が「負荷をかける」と同時に「マンネリ化させない」なのでまずは軽い負荷から徐々に鳴らしていく必要があります。

②意識するポイント「必ず最後に一回外す」

ロープにしろブイにしろ引っ張っている間は負荷がかかり続けます。普段レースで使うボートよりも重い負荷のかかったボートを漕ぐことになります。負荷を外すと一気に軽くなりその瞬間強くなった気がします。確かに強くなった気がするだけで軽いのは一瞬なのですがその感覚が大切です。軽くなった瞬間の感覚を体に染み付かせることによって徐々に無駄な力を使わない漕ぎにシフトしていくことができます。練習時間の制約などによっては最初から最後まで負荷をつけているということもあるかもしれませんがダウンの時などにでも一回外して軽い状態のボートに慣れることも重要です。

③負荷をかけるメリット「最高速度を抑制できる」

ロープやホース・ブイを使った練習はボートを直接的に重くして負荷をかけるわけではなくボートに抵抗を増やして最高速度や加速を抑制させることによる負荷です。トップスピードが下がるのでそれまで周回していたコースを同じ時間で回れなくなります。言い換えると少ない周回数でも同じ時間漕ぐことができます。捉え方を変えると長すぎて飽きそうになる周回コースで距離調整をしたり、短すぎるスプリントセクションで時間をかけたりすることができます。普段使っている静水コースで同じメニューを揺る場合は普段のタイムが直近の目標になるでしょう。普段負荷なしで1分くらいで漕げるコースでまずはロープ一本分負荷をつけて漕いだらどうなるのかを試してみるのがオススメです。負荷をつけた状態で普段と同じタイムが出るということは普段どこかで手を抜いているということで、出ないとしたら同じレベルまで上げるのが目先の目標になります。

負荷をかけすぎることのデメリット

負荷をかける際のポイントでも解説しましたがいきなり大きな負荷をかける事はあまりオススメしません。ラフティングに限らずトレーニング全般に言える事ですが大き過ぎる負荷は機能の向上よりもケガのリスクが大きくなります。そもそもラフティングなどパドリング動作に慣れていない状態で大きな負荷をかけると肩や肘の関節を痛めるリスクが出てきます。それを庇おうとすると今度は腰関節など壊すと取り返しのつかない部位に負担がきます。カヌー競技でも成長期のうちからガンガン追い込んだ選手に限って一番大事な時期に腰椎分離をやって選手生命終了なんて人が大勢います。負荷の調整は選手の成長段階・技術段階に合わせた選択が必要でスポ根漫画のようにガンガン負荷をかけたから強くなるというものではありません。個人的な感覚ですが、競技レベルのDR(30〜40分程度)をして腕部が筋肉痛になるようではまだまだ負荷をかける段階ではありません。これ以上の負荷をかけても少し背筋周りに疲労感があるなくらいであればボート負荷をつけて練習してもいいかなといった感じです。筋肉痛は人によって出かたが違いますが連日練習していると出にくかったりするので注意が必要です。何事もそうですが最初は小さなところから初めて徐々に大きくしていく方が近道だったりします。

まとめ

静水練習で行き詰まったら試してみて欲しい練習について紹介しました。

負荷を外した時の「俺強くなった!」感は格別です笑。それを積み上げることにより最初からその状態で漕げるようにすることも目的の一つなのでぜひ味わってみてください。

この記事書きながらインスタ見てたらNeloのタイムラインが流れてきて「BoatResistor」なるものが出てきて正直びっくりしました。同時に9€(日本円で1,500円弱 2023年10月1日)もすんのかよとびっくりしました。同じようなのテニスボールで代用したって1,500円あればお釣りが出ます・・・。お金をかけない工夫は大事ですね・・・笑。

補足

似たようなボート負荷をかける練習でボートの一部を陸や橋の欄干らんかんなどに固定して引っ張る(厳密には引っ張れてはいない)練習があります。チームによって呼び方は様々かと思いますが「陸漕ぎ」「前後固定」などは聞いたことがあります。色々賛否はあるかと思いますが個人的には完全固定の練習はあまり好きではありません。理由としてはブレードが水中を滑る感覚が手に残るからです。

赤線がパドル位置だとすると、本来は①のようにパドルを刺した場所を基点としてボートを前に進ませる動きが理想です。しかし、ボートを固定してしまうと②のようなボートを基点としてパドルが動く形となります。細かい解説はしませんが①と②の動きは全くの別物です。さらに②はボートが完全固定なので負荷は静水でできるほぼ最大です。やればわかりますが慣れた選手でも通常よりも大きな負荷をいきなり与えられると腕漕ぎになりがちです。

以上のようなパドル基点ではなくボート基点で動く(パドルが滑る)感覚が嫌なのと、腕漕ぎになりやすいという点から私は個人的にボート固定はしません。

コメント