フォワードストロークの基本【ストローク】

前回の【入水】・【キャッチ】編と繋がっています。

【ストローク】は【入水】→【キャッチ】ができた上でなければうまくできません。

前回解説したように【入水】→【キャッチ】で水面が壊れて掴めていない状態でいくら漕いでもうまくボートは進みません。

ストロークとは

競技をしている方は当然ご存知かと思いますが【ストローク】とは引いて(漕いで)ボートに力を加えている状態のことです。前回【入水】・【キャッチ】において【入水】は時間軸でいうと「線」的な扱いで【キャッチ】は時間軸でいうと「点」的な扱いになると解説しましたが、それでいうと【ストローク】は時間軸でいうと「線」的な扱いになります。この一点がストロークというよりはここからこの区間がストロークというような捉え方になるでしょう。

【ストローク】を語る上で重要なポイントとしては【ストローク】のみが『出力』するポイントだということです。【入水】→【キャッチ】→【ストローク】→【フィニッシュ】→【リカバリー】においてパワーを使うポイントは【ストローク】のみです。ここでどの向きにどういった力を発するかでボートの動きが大きく変化します。

ストロークの基本原理

【入水】→【キャッチ】はしっかりとできている前提で話を進めます。【ストローク】の力の発出方向によってはボートに悪影響を与えてしまい結果的に減速させてしまったりただただ疲れるだけになってしまったりします。

直進の時に必要な力の向き

ボートの進行方向はパドルで与えた力に反発するように反対側に働きます。①のように進行方向に対して反対側に水を掴んで流すことによりボートは前進します。

そんなことは誰もが理解しているはずなのですが、②をやる選手が非常に多いです。【キャッチ】した水を水平方向ではなく水中方向(下方向)に向かって流す人が非常に多いです。「ブレードは全て水につけろ!」と教わったせいか【ストローク】の動作に入ってもパドルを押し込もうとして②のような力の向きになります。

当然漕いだ力の反作用をもらうのでボートは一瞬浮かびあがろうとします。しかし、重力によって再び下に落ちてきます。水は流体なので落ちてくると一瞬沈み、再びそこからボート自体の浮力で浮こうとするので水面でボートがバウンドします。よく言われるノッキング(ピッチング)とは似ていますが少々違います。当然ノッキングのようにボートが減速する原因の一つです。

②のようにパドルを掘り込むのと同時に上の図のように【フィニッシュ】に向けて掘り上げる選手も非常に多いです。これも同様にボートを沈み込ませるので反発でバウンドします。

体の後ろまでは引き切らない

前述した通りフィニッシュに向けて掘り上げるとボートが沈み込んで反発でバウンドしやすくなります。これはストローク時の癖などもありますが1番多い原因としては少しでも【ストローク】幅を長くしようと思って後まで引き切ろうとしてしまうということでしょう。

この体の後ろまで引き切るというのには他にも弊害があります。

それはレースラフティングの場合特に後の2人に関係するのですが、引き切るとボートが回転慣性に入りやすくなってしまいます。

図のように後ろの人は漕げば漕ぐほどブレードが回転軸から遠ざかります。こうなるとテコの原理で力が入りやすくなり回転慣性に働く力が大きくなります。レンチでボルトなどを回す時などもレンチの首を持つよりも遠くのエンド側を持ったほうが力が入りますがそれと同じ原理です。回転軸から離れれば離れるほど回りやすくなります。逆にガイドはお客さんにある程度漕がせて自分は舵を取るだけなので回転軸から1番離れたスターンに近い位置に座ります。今回はあくまでもフォワードストロークに関する解説なので詳しくは書きませんが、後ろの場合はこの「引き切ると回転しやすくなる」という特徴を使ってコントロールパドルとして応用したりもできます。

前後におけるストロークの違い

一つ前と同様の図です。ここではトルクの問題ではなくそれぞれの選手から見た回転軸との位置関係について解説していきます。

1人乗りのカヌー・カヤックの場合は自分の位置=重心です(ボートのセッティングにもよりますがスラ艇の場合背骨の下、尾骶骨あたりを回転軸にするので気持ち後ろよりです)。1人乗りの場合ダッキーを含めほぼ自分=回転軸なので前を漕げば前進しやすく後ろを漕げば回りやすくなります。また、自分=回転軸ということは自分の位置を前に進めようとする意識がそのままボートに伝わるので非常にやりやすいはずです。

しかしラフトの場合は誰も重心に座っていません。

改めて先ほどの図を見てもらうと、前の2人は重心の前に座っており後ろの2人は重心の後ろにいます。そのため前の2人はボートの重心に対して「引く力」でボートを進め、後ろ2人は「押す力」でボートを前に進めます。【ストローク】をかなり広く捉えることになりますが、ブレードを水に刺して抵抗をもらった場所を支点にしてボートを進めるという競技において「引く力」なのか「押す力」なのかはかなり大きな違いです。水に入れたブレードを後ろに流すという点では一緒ですが力の発出方法はかなり異なるはずです。

少々概念的で言語化し難い技術ではありますが前後によるストローク精度の違いは必ずあるはずです。

これは個人の感覚もあるのでそれぞれの選手が色々なポジションに乗って自分で体感してみるしかありません。個人的には前に乗ると体を固定するために後脚を入れたソォート部分に意識がありパドルのキャッチ面を支点にして腰を前に持っていくようなイメージでソォート側の脚を前に引き込むような感覚です。後ろの場合は前足の踵を蹴り込んでボートの重心を感じながら押し出していくようなイメージでしょうか。

送りパドル

聞いたことがある人もいるかもしれませんが、「水は掴んだ状態で一切出力しないストローク」のことです。

一つ前で解説したように後ろの人などは漕ぎすぎると船が回りやすくなってしまいます。これを「慣性が入る」といったりしますが、基本的には「直進慣性」もしくは「自分の方に慣性」がある状態でなくては漕げません。まっすぐ進もうとしている時に相手側(左漕ぎの人の場合右回転慣性)に慣性がある状態では出力できません。慣性を無視して漕ぐ(出力する)とボートが回ってしまいます。しかし、レースなどで極力コントロールパドルを入れずそれでもリズムは刻みたいという時には「送りパドル」を使います。

「送りパドル」とは【入水】→【キャッチ】までは通常のように行って【ストローク】で出力(パワー)を出さない漕ぎのことです。ボートの進行と周りの人の漕ぎに合わせて漕ぎのリズムと形だけ取っていくということです。ここで重要なのは【キャッチ】は済ませているということです。送りパドルというとダラダラ漕ぐと勘違いする人が多いのですが、しっかりとした【キャッチ】をした上でいつでも【ストローク】に移行できる状態で様子を見るということです。そして途中からでもいざ自分の方に慣性が向いたら即座に【ストローク】に移行するという非常に幅がある技術なのです。

最初に書いた通り「点」で捉えた【キャッチ】から「線」となる【ストローク】に向けて出力のタイミングや量において時間軸でも幅を持たせていくことができるので非常に有用な技術です。

【ストローク】精度の向上

1ストロークでどれくらい進むかは非常に重要な技術です。以前にも解説したかもしれませんが、距離を決めて自分たちの最高速度で漕いでそこからタイムを落とさずストローク数だけ減らしていくというのも非常に重要なトレーニングです。

練習としてはロング漕もオススメです。これまた以前に解説したかもしれませんがロングを漕ぐと徐々に疲れて小さな筋肉が使えなくなります。そこでいかに脱力して1ストロークで艇が走るように漕ぐか研究するのが重要です。どこの筋肉をどう使うか私個人としては言語化はできますが、そもそもボディー感覚が全員違うので「ここの筋肉がこう張って・・・」なんて解説してもあまり意味がありません。そこを突き詰めていくのがパドルスポーツの面白いところでもあります。

ストローク精度の向上は一朝一夕ではなせません時間をかけて磨いていく他ない技術です。

まとめ

【ストローク】について解説してきました。力の発出方向やタイミング、間を取る技術として【ストローク】は非常に重要です。常に全出力ではなくタイミングをずらしたりするだけで全く違う結果となるでしょう。

ストトークの幅の持たせ方は個人の練度によるところが非常に大きいのでそれぞれが練習するしかありません。

補足:チームとしての出力タイミングの違い

これまで多くの選手を見てきて感じる事ですが、人によって出力の「仕方」も全く違う場合があります。

【入水】【キャッチ】まではあまり他人のパドルを感じることはありませんがダイレクトにボートに力が伝わる【ストローク】ではかなり他人のパドルを感じます。

大きく分けると上のグラフのような4種類です。キャッチのタイミングとフィニッシュのタイミングはある程度やっている選手であれば他の選手に合わせられます。しかし、意識したことがなければ出力のタイミングは個性が出てきます。

①はフィニッシュに向かって引き切るような感じで出力が上がっていくタイプです。個人的にはボートをウェーブやバックウォッシュに合わせたりするためにバウアップする際などに使ったりします。

②は常時一定の出力をするタイプです。個人的には小さな踏み潰せる波が連続する際などに一定の圧で抜ける時に使ったりします。

③キャッチの瞬間パワーを出してフィニッシュに向かって下げていく漕ぎです。個人的には回転からの立ちあがりの際に一瞬出力し力加減を見ながら合わせる際に使ったりします。

④キャッチからパドルが立つまで一瞬待ってから出力しフィニッシュまで流す漕ぎ方です。キャッチしてさらにパドルが立って1番引けるおいしいところだけ出力を上げる漕ぎ方で、個人的にフォワードでまっすぐ進む際にはほとんどこの出力方法です。

入水からフィニッシュまでの動作は1秒前後しかないかなり早い動作なので意識的に「ここで出力して・・・」なんて考えてることはできませんが意識するだけでもだいぶ違います。

一概にどれが優れているという話ではありませんが、出力タイミングや方法が異なるのでそれぞれボートに与える影響は違います。後で舵を取るとわかりますがほんの少し出力タイミングがズレるだけでボートは振動します。

1番最初に感じたのはテイケイの練習生候補で平塚に通っていた際真ん中に乗せてもらって「左右両方できるようになれ!」ということで乗り換えて漕いでいた時のことです。テイケイの選手くらい出力が大きくなるとインパクトのタイミングがほんの少し違うだけでも真後ろでモロに振動を受けます。それを終礼(その日の反省会)で行ったところ当時選手兼任監督だった池田さんも「俺たちは毎日一緒だから気付けないけど外から来たお前が言うならきっとそうなんだと思うし、かなり重要なことだ。」 とその後も深堀してくれました。

先ほど紹介した①から④の漕ぎでどれが優れているというものはありません。ただ、インパクトのタイミングが異なるので必ず一長一短はあります。無意識に一つの漕ぎしかできないというのは戦略の幅がかなり狭まってしまいます。意識的に色々な漕ぎを使えるようになった方が幅が生まれます。

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