みんな勘違いしてる!速い漕ぎ方なんて存在しない!!

多くのラフティングチームがぶち当たる課題『結局どの漕ぎ方が1番速いのか』について解説します。

これを話すと「それはお前の考えだろ!怒」と返って来ることもありますが残念ながら世界中のトップパドラーたちが証明してくれている理論です。

世界にはいろいろな漕ぎ方がある

まずは動画を見てみましょう。少し前ですが2016年リオデジャネイロオリンピックカヌースプリント男子K-11000m決勝です。

当初トップを走っていたピメンターと途中で上がってきたオーストラリアのスチュワートでは似ていますが別の漕ぎです。優勝したスペインのウォルツも全く違うスタイルをした漕ぎです。しかしながらオリンピックの決勝に残るような選手たちは大会やコンディションによっては誰が勝ってもおかしくありません。このレースではウォルツが勝ちましたが、仕掛けるタイミングが少し遅ければ2位のヨセフが勝っていてもおかしくありませんし、ピメンターも先行逃げ切りをしてもおかしくないくらいの実力があります。

スラロームでもみんな違う漕ぎをします。

動画はさらに古くなって2012年ロンドンオリンピック男子C-1決勝です。

1位・2位・3位と表彰台に上がった漕ぎは全くの別物です。

ここまで違う漕ぎでも世界の決勝でいい勝負をして誰が勝つんだというハラハラ感を与えられるのです。

コーチ・お国柄による違い

漕ぎを分ける大きな違いの一つにコーチやお国柄の違いがあります。ヨーロッパでは各国に優勝請負人のような有名なコーチがいます。誰に師事を仰ぐかでだいぶスタイルが変わります。もちろん有名なコーチは海外からも依頼が来るのでその国の選手も漕ぎが変わることがあります。

また、スター的な選手がいる国というのは多くの選手がその選手を研究し自分なりのアレンジを加えて勝とうとするので特徴的だけど元を辿ると同じ漕ぎな選手が多かったりします。

特にトニー・エスタンゲやミハル・マルティカンのような歴も長い有名選手は研究されているし一緒に練習して欲しいという選手も多いので似ている選手が多いです。

このように国や地域・指導者などによって漕ぎ方やスタイルが出ることがあります。

ボディー感覚による違い

コーチやお国柄よりも遥かに大きな違いとして出てくるのがボディー感覚の違いです。

ボディー感覚の違いを示した有名なところで例を挙げると「4スタンス理論」です。廣戸聡一さんという方が唱えた理論で、体を前傾後傾・外側内側から分類される4つの大分類に分けた理論です。詳しく知りたい方は検索してみてください(ここでは本題から外れるので割愛します)。他の理論でも内転が得意なタイプなのか外転が得意なタイプなのかを診断したりするものもあります。

いろいろな理論や形式ばった分類はありますがここで何が言いたいかというとそれくらいみんな違う感覚でプレイしているということです。感覚や得意なことが違うので漕ぎ方は違って当然です。

ボディー感覚に加えてそれまでの運動遍歴や肉体的特徴も考慮しなければならないので全く同じスタイルでプレイできるという人はほとんどいないはずです。

前項で説明したように指導する人や目指すものによってスタイルは当然変わってきますし、個人の感覚によっても漕ぎ方は変わってしまいます。それをみんなで合わせましょうというのはナンセンスではないでしょうか?4人で乗るラフトボートなんだからみんな同じ漕ぎにして合わせようというのはいかがなものでしょうか?自分はやりやすいと感じていても周りの人はなんか違うと感じているかもしれません。

筋力・リーチ・体幹の発達・体の左右バランスなど様々な要素がその人の漕ぎに影響を与えます。それをみんなで揃えましょうというのはほぼ不可能です。

しかし、どうせ揃わないからと言って好き勝手にやるのはまた違います。レースラフティングは4人ないし6人で1つのボートを動かしてゴールを目指す競技です。共有されたイメージ通りにボートを動かすという共通認識のもと、そのプロセスは個人によって違ってもいいのではないかということです。

レースラフティングでは

ラフティングではどうしても揃っていた方が綺麗に見えますし早く感じます。全員が無理なく揃えられるならそれでもいいですがなかなか難しいでしょう。

また、よく優勝したチームの漕ぎ方を研究して真似しようとするチームがいますがそれも個人的にはあまりオススメできません。前回王者(世界大会)ブラジルの漕ぎをアジア人が真似しようとしてもそもそも骨格が違うのであのパワーが出ません。逆も然りでブラジル人が日本が優勝していた2010年ダッチウォータードリームスの漕ぎなどを真似てもパワーを持て余してしまいうまくいかないでしょう。

それぞれうまくいく漕ぎ方が必ずあります。他人の漕ぎを研究するのはいいことですし、ラインの取り方やレース作りなど参考になることはたくさんありますがそのせいで自分たちの芯がブレブレになっていてはいけません。

特に近年はYouTubeなどの発達によりいろいろな漕ぎが見れます。「あの漕ぎが早い。こっちの方がいい!」と言って様々手を出していてはキリがありません。自分のスタイルを持った上でいいところだけを吸収する柔軟さが求められます。もちろんこの時も芯がブレてはいけません。

自分を貫いたものが勝つ!

2012年ロンドン五輪スラロームを例に挙げると動画で見ていただいたトニー(フランス)もタジアディス(ドイツ)もマルティカン(スロバキア)も全く別のスタイルでプレイしています。それでもいい勝負をします。漕ぎのスタイルなんかは関係ないということを彼らが証明してくれています。

大事なのは自分のスタイルにあった戦略や練習ができるかどうかです。

以前カヤック日本代表の矢澤一輝選手(北京・ロンドン・リオ3大会連続出場)のお話を聞きました。やはり自分のやり方・感覚を大切にするということでした。また、矢澤選手の先輩の小田さん(みたけカヌー教室オーナー)も一度矢澤選手に「お前もっと早く漕げるだろ!」と聞いたことがあるそうです。すると「あれ以上早くすると自分の漕ぎが崩れるからあれでいいんです。」という回答が返ってきて「こいつは大物だ!」と思ったそうです。小田さんが言うには「自分の性能を見誤って早く漕ごうとすると必ず失敗する。矢澤選手が3大会連続で出られた真髄はそこにある。」とのことでした。世界のトップパドラーの中にはとんでもない回転数で漕ぐ選手がたくさんいます。多くの選手はそれを見て「自分ももっと早く漕がないと勝てない!」と焦ってしまい失敗します。そんな中でも矢澤選手は丁寧なレース作りをするという自分のスタイル(漕ぎ)を貫いて決勝まで残っています。

もちろん早く回転数を上げて漕ぐのがあっている選手もいるでしょう。しかし、レースラフティングは1人ではできません。同じボートに真逆の感覚を持った人がいるかもしれません。それも認めてお互いの良さを引き出し合うのが強くなる秘訣かもしれません。

まとめ

パドリングのスタイルには流行があります。大きな分類だとピッチ(回転数)で漕ぐのか丁寧にスピードを落とさず漕ぐのかといったところです。その時々勝っている選手のスタイルによって変わります。このような流行は他にもあります。わかりやすい例だとパドルの長さです。特にC-1パドルは毎年のように流行が変わります。「去年のチャンピオンはかなり短いパドルだった」や「今年の一戦目で勝った選手は結構長かった」などその時々で話が変わります。パドルの長さも結局は自分に合ったものが1番です。長すぎるパドルは引けませんし、短すぎるパドルはストロークが短くなります。

流行というよりもその時勝っている選手のスタイルに乗っかると言ったほうが正しいのかもしれませんが、そこで勝っている選手はおそらく誰かの真似をしてそのスタイルを始めたわけではないでしょう。

自分のやりやすいスタイル・レース作りを探していき貫くというのが勝つためには必要なのではないでしょうか。

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