フォワードストロークの基本【入水】→【キャッチ】

一言に「フォワードストローク」と言っても様々な理論があります。レースラフティングで言うと2013年前後にテイケイが取り入れていたカヌースプリントC-1の漕ぎをベースにした「テイケイ漕ぎ」やTAMAが小田さんから教わったとされるカヌースラロームをベースにした「小田漕ぎ」「TAMA漕ぎ」と呼ばれるものやラフティング界で独自に発展した「学生漕ぎ」なるものなど様々あります。

そこで今回はパドルスポーツでの深淵である「フォワードストローク」に切り込んでいこうかと思います。

フォワードストロークの5要素

フォワードストロークは大きく分けると5つの要素に分解できます。

以前にもどこかで書いたかもしれませんが、

【入水】→【キャッチ】→【ストローク】→【フィニッシュ】→【リカバリー】

の5つに分解されます。

この5要素は非常に重要で全てに意味があります。

今回はこの中でも1つ目、2つ目に当たる【入水】と【キャッチ】について解説していきます。

この5つは全て輪になって繋がっており繰り返されますが、一回のストロークにおいて【入水】→【キャッチ】の繋ぎが乱れるとそれ以降フィニッシュまで全て精度が落ちかねませんので非常に重要な技術です。

入水とは

個人的には多くの方(指導者を含む)が入水とキャッチを混同しているように感じます。入水とはフォワードなどの構えの状態からパドルの先端が水面についてパドルが徐々に水中に入っていき一番良いキャッチ面に辿り着くまでのことを言います。

そのため上の画像のパドルはまだ入水段階と言えます。ここからさらにブレードが沈み込んでいって赤いテープが貼ってあるネック部分まで入ったところで水をつかんで【キャッチ】となります。

入水とはこのようなフォワードの構えの状態からブレードが完全に水中に入り、ブレード面を100%使える状態で水をつかめる状態になるまでの過程のことを言います。

【入水】の基本原理

【入水】というと水に入る瞬間のタイミングとして「点」で捉えられがちですが実は水中に入って【キャッチ】するまでの過程なので時系列的には「線」的なものになります。

ここでは【入水】に関する基本原理について解説していきます。

①前提条件

まず大前提としてここでは「ボートが前進している」という条件で解説していきます。

なぜそんなことをいちいち書くかというと、制止している状態と進行している状態とでは水流の動きが違うためです。静止している状態の入水というのはフォワードストロークというよりはスタートダッシュ(初動の立ち上げ)になるのでフォワードの原則とは少々異なります。

上の図で示したように完全な静水面においてボートが進行している場合、相対的にはボートの進行方向とは反対側に水流が発生している状態といえます。あくまでもボートが進むことによる相対的な力です。

【入水】は基本的にはこの相対的に生まれる水流を使って行います。

②フォワードの構えから入水

上の図を使って解説していきます。

まず①の部分がフォワードの構えです。多くの選手がスタートのカウントが始まった時に構えるような状態です。連続するフォワードストロークの中でも【リカバリー】から必ずこの構えを通って【入水】に移行するはずです。

フォワードの構えからブレードの先端を水に少しだけつけると②のような状態になります。先ほど解説したように相対的に前方から水流が発生している状態になるのでブレードの先端に抵抗を感じます。

そこから③に移行していきます。ブレードが水中に入れば抵抗をもらう面がどんどん大きくなっていくので自然とブレード全体が水中に吸い込まれていきます。

そしてブレードの約8割以上が水に浸かりしっかりとキャッチできる状態になったら水を【キャッチ】して【ストローク】に移行します(④)。

このように【入水】は水流の力を使って行うものなので基本的にパワーは一切必要ありません。

③良くない【入水】

入水時の注意点としては「水面を壊さない」というのが非常に重要です。

よく「入水はパドルをブッ刺せ!!」や「一気にズパンとブレード全部を水に入れるんだ。」と教える人がいます。間違いではありませんが少々言葉足らずではないでしょうか。

先ほど解説した図の①から②において一気にズパンとパドルをブッ刺すと水面が壊れます。そして叩くように入水したブレードは気泡を含みます。

一度気泡を含んだりすると【フィニッシュ】してもう一度やり直すかスライスで一度ブレード面をリセットしない限りストローク中には基本的に解消不可能です。初心者によくありがちなストロークの時にパドルが水中で左右にブルブルしてしまうのはこれが原因の一つです。慣れてくると多少パドルがブレても力の掛け方で抑えられますがそもそもキャッチの精度が落ちているのでパワーロスは大きいはずです。

カヌースプリントc-1の動画なんかを見ているとブッ刺しているようにも見えますが、よく見るとやはり先端が触れる一瞬は優しく置いています。スプリント艇はC-1でも20km/hくらい出るのでそこからが早すぎて見えないだけです。決して水を叩くように入れているわけではありません。

【キャッチ】の基本原理

安定した丁寧な【入水】ができていなければ良い【キャッチ】はできません。入水という予備動作ありきのキャッチです。【入水】で水面が壊れている人はいくら丁寧にキャッチをしようとしてもできません。また時間的には「線」で捉えられる【入水】に対して【キャッチ】はあるタイミングで掴むので時間的には「点」の扱いと言えるでしょう。もちろんその水を【ストローク】として掴み続けはしますが「ここで水を掴んだ!」と言うタイミングは必ずあるはずです。

【キャッチ】とは

キャッチとは読んで字のごとく「水を掴む」ということです。アップゲートなどでイン側が入れる回転動作のキャッチも意味的には同じです。水を掴んで抵抗をもらい、そこを回転の軸にしてボートを回すということです。ただ、今回は回転軸になるキャッチの解説ではなくあくまでもフォワードストロークの中のキャッチについて解説していきます。

【キャッチ】のタイミング

【入水】の説明から繋がってくるのですが、ブレードが約8割以上水に浸かるとそこから次の段階の【キャッチ】となります。最近のパドルはかなり優秀なのでブレードが水に浸かるとある程度勝手に水を掴んでいてくれます。カーライルやカナディアンカヌー用のビーバーテイルといった平たいパドルなんかは自分で明確に入水やキャッチを意識しないと性能を引き出せなかったりしますが近年のカーボンパドルはそこまで気にしなくても水がつかめる気がします(※個人的な感想です)。それでもやはり意識しないと変な方向へ漕いでしまったり水が逃げたりとコントロールが難しいです。

パドルのR(曲がり方)やシャフトの長さ、選手の持ち幅によるスタイルにもよるのですが図の左側のようにある程度斜めの状態で最大のキャッチを発揮するパドルもあれば垂直に近い状態で最大のキャッチになるパドルもあります。

他人のパドルを借りてみた時などに違和感を感じるのはこのキャッチのタイミングが微妙に異なるためでしょう。

シャフトからブレードにつながる部分の形状でもキャッチのタイミングは異なります。

①はgalaのTEなどに採用されているシャフトの延長線とブレードの末端がずれているタイプ(ベントシャフトで言うところのパワートルク形状に近い)のパドルですが、この場合ブレードの垂直線とシャフトの垂直線が異なるのでキャッチの時に慣れていないと違和感があります。

②が通常のストレートタイプです。こちらはシャフトが真っ直ぐ=ブレードも真っ直ぐなので特に初心者の方にはこちらの方がわかりやすいかもしれません。

どちらが良い悪いと言うことではなくこういったパドルの形状一つとってもキャッチのタイミングは変わってくるので練習やパドルに対する慣れが重要になります。

流水域における【入水】→【キャッチ】の難しさ

ここまでは静水域における【入水】→【キャッチ】の基本について解説してきました。静水域である程度ボートが進行した状態ではこれまで解説してきた原則通りなのですが、いざレースが行われる流水においてはそうもいきません。ちょっとしたことで【入水】→【キャッチ】がうまくいかなくなり水を掴めず腕漕ぎになったりスカっているだけのストロークになりかねません。

パターン1:流れのほうが早い場合

最も多いパターンは何かしらのアクシデントやターンの直後などで水流よりもボートが遅くなってしまった時でしょう。

流れよりも相対的に早く動けていればこれまで解説してきた通り①のような通常のキャッチが可能なはずです。しかし、岩に乗り上げたりゲートアプローチに失敗するなどといった何かしらの理由でボートが水流よりも遅くなると②のように水流が後ろから来る状態になってしまいこれまでの【入水】→【キャッチ】が行えません。ここで無理にパドルを入れようとすると肩を脱臼したり肘を痛めたりと怪我の原因になります。

よく瀬の中では頑張って漕げと言われますがこれが大きな要因の一つです。瀬はボートが立体運動をするので減速しやすいです。そこで漕がないとボートが減速してしまいフォワードやコントロールパドルが効きづらくなってしまい最終的にはコントロール不能になってしまうからです。

流れの中で完全に静止してしまってもカヌー・カヤックではわざとスイープなど別アングルの回転慣性を生み出してそれを使って逃げるといった方法もありますが複数人で行うレースラフトにおいて意思疎通の観点からもなかなか難しい方法でしょう。

ラフトの場合は「フォワードで耐える」がほとんどになるかと思いますが、入水の段階で力技になる上に一気に負荷がかかるので肩や肘を痛めないように注意して漕ぐ必要があります。

パターン2:ボイルやエディーライン

自分の位置≠回転軸(ボートの重心)であるラフトボートでは良くあるのですが、ボートが影響を受けている位置と自分が漕げる位置に差が生まれやすいです。

上の図のようにギリギリボートは流れの中にいて右側2人は今まで通り漕げるけど左側2人の次のパドル位置はエディーやエディーライン上にきてしまうということはよくあります。

エディーであれば素早く漕いで次に合わせたりとできますが、強烈なエディーラインやボイルではそもそも次の【入水】→【キャッチ】もうまくいかなかったりするので事前に角度を作っていきスライスで水を切っていくなどより高度な技術が必要になります。

このように様々な要因が相まっていつでも同じ【入水】→【キャッチ】ができるとは限りません。しかしながら大原則は一緒で水面が壊れるような入水をしたりキャッチのタイミングがズレると漕げません。まずは静水の限定された環境下で【入水】→【キャッチ】を磨いていく必要があります。

まとめ

フォワードを5分解した際の前半2つ【入水】・【キャッチ】について解説しました。

特に【入水】は【キャッチ】やこの後の【ストローク】にもつながるので非常に重要な要素です。まずは静水で丁寧に入水しブレードを100%使う練習をしてみましょう。

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