以前まで紹介してきたラフティングの基本シリーズからのステップアップになります。
- ラフティングの基本①「目標物の設定」静水編
- ラフティングの基本②【方向転換】静水編
- ラフティングの基本③「リーン」
- ラフティングの基本④「流水練習の導入」
- ラフティングの基本⑤「流水練習」
- ラフティングの基本⑥「流水練習の応用」
ラフティングの基本シリーズでは本当に基礎的な操船についてを紹介してきましたがここからは実践でも使える技術を紹介していこうと思います。
今回は「プレターン」について解説していきます。レースラフティングでも競技をやっていると言葉だけは聞いたことがあるという人も多いかと思います。「プレ」とは「事前に」という意味があり、ゲートや目標物の手前で事前にターンをすることを「プレターン」と呼びます。今回はその原理や考え方について解説していきます。
この「プレターン」の基本原則がわかっていないと「カービングターン」と「ニュートラルターン(ピボットターン)」の違いや戦略幅についても理解できなくなってしまいます。
ターンポイント
プレターンについて語る上で外せないのが「ターンポイント」という考え方です。ターンポイントとはボートをターンさせようとした場合にどこにターン弧の頂点が来るのかというものです。
図の左と右では途中まで全く一緒ですが、立ち上げ位置が違うことによりターンの終わりもターンポイントも全く異なるものになっています。あくまでもターンポイントの概念的な説明なのでわかりやすいものにしましたがスラロームゲートが入ってくるともう少し複雑になります。
ここで認識しておいて欲しいのはターンのキッカケが入ったポイントや立ち上げのポイントではなくラインとしてのターン弧の頂点を「ターンポイント」と呼ぶという点です。ただし、このキッカケから立ち上げまで全てを含めて一つの「ターン」と呼びます。
プレターン
ターン弧の頂点のことをターンポイントという話を前項でしました。そのターン弧の頂点をどこに持っていくかというのがスラロームにおいては非常に重要で、これがいわゆるプレターンの概念に繋がります。
スラロームのよくある失敗
上の図は本当に簡易的に作ったよくあるスタガーゲート(ジグザグに降るようなダウンゲート)です。このようなセットを見た場合どのようなラインをイメージしますか?条件としてはそこまでガンガン流れてはいないけど一度落とされるとラフトだと漕ぎあがりが難しいくらいに流れているといった状態です。
多くのチームがこのようなラインをイメージするでしょう。イメージしていなくても大会などの狙い方を見ているとこのようなライン作りのチームが9割です。もちろん不可能なラインではないですが相当漕げるチームでなければ実現不可能なラインではあります。
順番に何が良くないか解説していきます。
一つ目にこのラインイメージでは先ほどのターンポイントはあってもターンのキッカケから抜けるまでのプロセスがありません。水に浮いているだけのボートのターンは先ほどの図のように必ず丸みを帯びます。カヌースラロームのトップ選手ともなるとほぼ直角に立ち上がれるとしてもラフトではほぼ不可能です。
このラインで通過しようとすると大体のチームが①のゲートで計画破綻します。
図4のような失敗をしているチーム見たことありませんか?
インポールを直線的に狙うことによりゲートラインを過ぎるまでターンに入れず(イン側が接触してしまうため)ターンのキッカケが遅れてしまいます。ターンは遅れても直進慣性と流れによって下流へ落とされる力は残るので①の後のように大きく外側に膨らんでしまいます。
図でわかりやすくするために①-②はいけていることにしていますが、流れ次第では②も流されてしまって不通過というチームも多いでしょう。
②-③は①の通過時点で落とされているのにさらに直接的に狙おうとしているため今度は右2人が漕げなくなります。ここで落とされずに②に入ろうとして頑張って左岸に進めようとする力をつければつけるほど回転時に遠心力が大きくなり②通過後のターンで外に膨らみやすくなります。
失敗からのリカバリー
プレターンの話からは少しそれますが、ここでリカバリーについてちょっとだけ触れておきます。
①で直線的に狙いすぎて失敗するところまでは同じです。
そこで多くのチームは一つ前の図4のように次の②ゲートも直線的に狙ってしまいます。そうするとただでさえ下流に落とされている位置からのスタートとなるので間に合うはずがありません。
そこで出てくるリカバリーが「フェリーグライド」です。一度回して上流を向けて2時アングル(もしくは10時アングル)にすることにより漕ぎ上がりこそ困難な場所でも下流に流されるのを最小限に抑えながら横移動できます(図5)。
図5の②-③も同様で、流されてしまいそうな場合はあえてフェリーグライドで渡っていきます。
レースとなると無意識的に直線で狙って全てバウから通したくなりますが、これは全て基本ができて漕げるチームができる技で、通常はこのようにフェリーグライドなどの「アングル」を武器にした戦法が基本となります。
インポールを狙う
少しそれてリカバリーの話をしましたが、それでは実際にどう狙っていけばいいのかという話に入っていきます。これもよく勘違いしている人が多いのですが、ターン弧の頂点をインポールギリギリに持ってこようとする人がいます。
図6のようなイメージです。できないわけではありませんがスラ艇でも極めた人ののみができるラインであり左右に広いラフトではほぼ不可能なラインです。左右に幅があるラフティングの場合左右の見え方が違います。例えば①に向かう際も右2人は回して押し込んで行きたくても左2人は自分の漕ぐスペースを残したいのでラインを膨らませたくなります。左が我慢して耐えたところで今度は一気にスターンを振るので後ろ2人のコントールが立ち上がりに間に合いません。
理想は図7の青ボート軌道なのでしょうが、前述したようにスターンを一気に振るので立ち上がりができません。また、ここにくるまでに左2人はポールスレスレで接触しそうなのですぐに立ち上げには参加できず漕げる人がいなくなり結局黄色のボートのように膨らみます。
プレターン
ここまで解説してきたことを踏まえると「狙いはインポールじゃないな」というのはわかってもらえるかと思います。じゃあどこを狙うのか?
カヌースラロームの鉄則では「アウトポールの上流約2m」と教わります。ラフトだともう1m上流でもいいでしょう。
図の整合性を保つために途中で直進の赤矢印を屈折させていますが基本的な狙い方はこの通りです。アウトポールの上流を狙っていきます。狙うというのはターンポイントの頂点を持っていくということです。
これがプレターンです(図9)。図に歪みがありますがそれはご愛嬌で!
アウトポールの上流にターンポイントを置くことによりゲートに邪魔されずターンを行えるので立ち上げも力強く打てます。さらに一番接触リスクのあるゲートライン上(ポールとポールの間の2次元空間)をフォワードストロークで抜けられるので接触リスクが下がります。さらにさらにゲート上流から加速が始まるので次のゲートまでの加速レーンが伸びて落とされる心配が少なくなります。
これが事前にターンをする「プレターン」という概念です。実はカヌースラロームのトップ選手達もこの理論をもとに漕いでいます。これを極限まで小さくしているだけで直接的にゲートを狙っているわけではありません。
私が教わった理論として「ゲートラインを通過しようとする際にそのゲート間から次のゲートが見えた位置で通過しなければならない。」といったものがあります。
図10に示したようにインポールを狙った位置ではターン弧に差し掛かるゲートライン直前でも①と②が重なって見えませんが、図9のようにプレターンした位置では①を通して②のゲートが見えている上にターンは終わっているのであとは出力していくだけとなっています。
まとめ
事前にゲートや目標物の上流で回転しておくことをプレターンと呼びます。プレターンのメリットとしては①ゲートライン上をフォワードで通過できる②次のゲートまでの加速レーンが伸びるので落とされにくい③ターン時にゲートに近づかないので全員で操船できるといったことがあげられます。
実際には「プレターン」と呼ばれるターンは存在せず、ターンポイントをゲートや目標物の上流などに設定し事前のターンでクリアしていく技術の総称・ターン方法をプレターンと呼びます。
ゲートを通過する際にイン側が詰まってしまう、通過はできるけど落とされるといった問題を抱えているチームはぜひ一度試してみて欲しいターンです。
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