今回はスラロームにおける基礎の基礎を書きます。
カービングターンやらピボットターンやら様々なターン方法を覚えてできるようになったとしても、そもそものライン作りが間違っていると意味がないということで基礎の基礎『Jライン』について解説します。カヌースラロームのトップ選手も一見するとゲートに真っ直ぐ突っ込んでいるように見えますが大元はこの理論のもとレースを組み立てています。
Jラインとは
まずはそもそもJラインとはなんなのかについて解説します。
読んで字の如く「ライン」なのですが、アップゲートやエディーに入る(ストリームアウト)際のラインの作り方をJラインと言います。今でこそあまりこの呼称を使う人はいませんがライン作りの概念は同じなので現在でもこのJラインは存在しますし使われています。
エディーに入る際のラインの形がアルファベットのJ を描くように入るのでJラインと呼ばれています。
Jラインを作る
ここからは実際どのようにしてJラインを作っていくのかを解説します。
Jラインの基本概念
まずそもそもJラインがどのようなラインかを解説します。
上の図のように右岸アップをするときにJのような軌道を描くのでJラインと言います。
この時にポイントが何点かあります。
①きっかけから立ち上がりのフォワードまで角度がつくまでの間流される時間が存在する。
②角度がついてからエディー(この図だと右岸側)に向かってのフォワードは約3パドル
③エディーラインを通過する際は9時(左岸アップなら3時)よりも12時より。
意識するべきポイントはこの3点です。
ポイント①:きっかけからフォワードまで角度がつくまでの間流される時間が存在する
それではここからはポイントを一つずつ解説していきます。
文字で書くと少々わかりにくいポイントですが、6時の状態からスイープorバウラダーできっかけが入ります。そこから8時に向くまでには多少時間がかかります。そこで待てずに漕ぎ出してはいけないということです。
上の図のようにきっかけから8時に向くまでは多少のラグが存在します。その間に漕ぎ出してしまうと7時で進み出してしまったりして上手くいきません。そこでベストな角度になるまでスライスやフォワードのポーズで待ってから全員でタイミングを合わせてスタートする必要があります。きっかけを入れて回転を始めてもそれまでの直進慣性によりボートは流されます。その間は漕がずに待ちになるのです。当然タイミングを取って待っている間も下流に向かって流されるのでそれも含めてきっかけを入れるタイミングを作らなければなりません。
ポイント②:角度がついてからは3パドル
もちろんコースの大きさにや川幅によって差は出ますが「きっかけ→待ち→立ち上げ(1)→2→3→3から抜かずにキャッチ」が基本のリズムです。
もっと簡単に書くと「1→2→3キャッチ」です。
3パドル目でバウの選手がエディーラインを踏み切りながらそのままパドルを抜かずにキャッチに行けるのが理想です。ここの立ち上がりでは完全に慣性を消して8時ベクトルにしてしまうのではなく、ボートは8時ベクトルにしながらも徐々に9時方向に回転する慣性を残しておくのが大切です。ただ、ある程度はしっかりと進まないと回転だけして落とされるのでエディーラインをブレイクするところで9時になっていれば大丈夫です。
あまりにもゲートに近いラインからいくと1パドル分しかスペースがないということもあります。そうなってしまうと右岸に向かう力が上手く出ずエディーラインに負けて止まってしまったりします。もちろん力技でねじ込むこともできますが止まろうとするボートを無理やり動かすのでかなり大変です(ゲートセットによってはわざとスペースを詰めるようなセットもあります)。逆に4パドルも5パドルも漕がなければいけないようでは距離がありすぎて本当にそれまで最速のラインに乗っていたのかという問題になります。
近い位置からのキツめのラインにおいて理想は緑のボートのように入ることですが現実は慣性スライドがキツすぎて水色の船のラインになります。下流向きに進んでいるボートのベクトルを変えるとなるとラフトは特に重いので最低2パドルは漕ぎたいところです。
ポイント③:エディーラインを通過する際は9時(左岸アップなら3時)よりも12時より
水色の点線がエディーラインだとするとそこにバウが差し掛かるタイミングで9時になり、エディーに入るので右バウが踏み切ってキャッチで回転→ゲートポールに差し掛かったタイミングでは10時に回るというのが理想です。
9時よりも6時に近い角度で踏み切ってしまうと下流向きに進む力が残るのでエディーを突っ切ってしまい上の図のように止まれず大外に膨らみやすくなります。
9時10時を向くということはリカバリーでフェリーグライドにも入りやすくなるのでリスクマネジメントにもなります。
よくあるミス
Jライン以前の問題としてゲートにアプローチする上であまり良くないとされるラインどりも解説します。もちろんゲートセットで意図的に作られていたり川幅や岩など地形による制約もありますが「指定がない場合は…」という前提です。
①:岸によりすぎ
「角度がついてから3パドル」の項目でも書きましたがゲートがある岸沿いによりすぎるのは得策とは言えません。
先ほどの図のようにスライドしやすくなります。
それではゲートがある場合はどうするのかですが、
一つ前のゲートから間隔があり特段浅瀬や岩場がないのであれば一度反対方向に振って3パドル分は無理でもクイックに漕げば2パドルは入るだけのスペースを作ります。
上の図のように本当にゲートが近くて余裕がないという場合は回転の待ちをゲートラインに合わせたりもしますがラフトのサイズなので接触は覚悟という状態になります。
②ポールを直狙い
もっとも多いミスです。
上流から「漕げーー!!」という怒号とともにインポール目指して真っ直ぐ突っ込んでいくチームのいかに多いことか…笑
図で見るとこんなの回せるわけないじゃん!となりますが本番になるとこれが一番多いです。ポールに真っ直ぐ入ると角度がついていても7時です。そこから次のフェリーグライドやストリームインに繋げようと思うと2時です。180度以上回さないといけないということになります。しかも全力7時ベクトルをゼロにした上で逆方向に進むのでもはや人のなせる技じゃありません。図の水色ボート(失敗例)も便宜上エディーに入れていますが、水圧の高い川であればエディーラインに弾かれて回りながらエディーライン上を落とされるという形になります。9時でエディーラインを踏み切るというのはスピードをつけて段差のようになるエディーラインもブレイクできるという意味があるのです。
ポールを直狙いすると回す角度がえげつないだけではなく失敗事例も豊富なライン取りになってしまうので注意が必要です。
まとめ
アップゲートやエディーに入るためのエントリーラインの原則がJラインです。
カヌースラロームのトップ選手でも同じような理論の元ラインを作っています。直でゲートを狙っているように見えてもよく見るとゲートの下では10時や2時になっています。無駄を極限まで省いているので一見すると直に狙っているように見えるだけです。また、スイープやバウラダーなど一つ一つの技術も磨いているのでスイープからの待ち時間がほとんど無いような強力なスイープを打てたり加速しながら方向転換をするバウラダーが打てるというだけです。ラフティングの場合はボートが重くコントロールパドルを入れてもクイックには曲がらないのでその待ち時間も考慮に入れる必要があるというだけです。
Jラインを作るとボートは基本的にカービングターンになります。ボートを止めないターンの基本になるので意識して練習してみてください。
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