レースラフティングをやったことがある方なら一度は聞いたことがあるであろう『首通し』について今回は触れていきます。
つい先日長良川WWFがあり、私も応援という名のカメラマンで現地に行きましたが、スラロームでは多くのチームがこの『首通し』をやっていました。厳密には『首通し』なんていう技術は無く、ルールに書かれている「ポールの内側を頭部全体が通過」というルールに則り頭部となる顎先からヘルメットの後頭部部分を結んだ場所よりも上部をポールの内側に入れる行為全般を総称して『首通し』と呼んでいます。
ラフトのような大きなボートではボート全体を動かさなくても中でクルーが移動すれば通れてしまう場合もあるので非常に便利ですが、これにより不通過判定をもらっているチームもかなりいました。
ルールや歴史と合わせて『首通し』のやり方とリスクについて解説していきます。
そもそもの始まり
今回テーマに挙げている『首通し』ですが、実は比較的最近誕生した技術なのです。
元々はカヌースラロームで誕生した技術なのですが始まりは1996年のアトランタオリンピックと言われています(※諸説あり)。それまではルールに明記はないもののゲートの通過はボート全体を使っておおよそ全身がゲートラインを通過しなければならないというのが暗黙の了解でした。しかし、アトランタオリンピック決勝でドイツ代表だったオリバー・フィックスという選手がルールに明記がないということで首だけをゲート内に入れて通過していきました。それを審判が全て通過判定にしてしまい1位となりました。当然他国からプロテストが上がりましたが結果は覆らず金メダルとなりました。ここから『首通し』という技術は始まりました。現在ではあまり使われない言葉となりましたが首だけ通すようなラインでターンすることを最初に始めたオリバー・フィックスの名前から「フィックスターン」と呼んでいたこともあるそうです。
首通しも実はまだ始まって30年も経っていない技術なのです。今でこそルールの整備も追いついてきましたが、まだまだ年によってルールのディテールが変更になるなかなかシビアな項目となっています。
レースラフティングのルール
レースラフティングのルールにおいてスラロームゲートの通過判定は「一度の漕行で全員の頭部が正方向に通過する」というものです。本題から逸れるので逆通過ややり直しの判定に関しては今回は解説しませんがレースラフティングでも基本的にはクルーの頭部が通過判定の対象になります。もちろん頭部の概念もカヌーと同様で顎の先からヘルメットの後頭部切れ目を結んだラインよりも上部です。
4人ないし6人の頭部が正方向に通過しなければ通過の判定とはなりません。また、ラフティングは現段階ではやり直し不可なのでなかなかシビアな判定になります。
首だけ通る基準
それでは実際にどこまでは通過でどこからが不通過なのでしょうか。
これの答えは先に言うと「審判による」 というのが答えになってしまいます。カヌーのジャパンカップではほとんどのゲートにビデオジャッジシステムがついていますがそれでも判定するのは人間の審判です。基本的に審判講習では「分からない場合は選手に有利なジャッジをする」と教わります。しかしながら審判も人なのでジャッジしやすいようにアピールしてくる選手ととりあえずギリギリを攻めてくる選手とではジャッジが変わってきます。もちろん日常の好き嫌いは抜きで通っているかいないか、見やすいかどうか、明確かどうかで判断しています。
ここからは実例をもとにどうすれば不通過をもらうのか、どうすればもらいにくいのかを解説していきます。
①不通過判定をもらいやすい実例
まずは不通過をつけられやすい例です。
1:内側に倒れ込むように避ける
2024長良川WWFでは9→10の繋ぎで頻発しました。キツめのスタガーゲートを無理やり頭で通そうとしたチームがよくやっていました。
キツめのスタガーで片側が入り切らないとボート内で寄っていませんか?ボートのラインがポール上にきた時点で外から見た感じは苦しそうに見えてしまいます。もちろんきちんとジャッジはしますが内側に倒れ込むということは背中か後頭部でゲートを避けるということになりポールは見えていないはずです。また、無理やり避けようと首を振り込むと「故意の接触」ととられて否応なしの不通過もありえます。手で弾かなくとも頭を不自然に動かすと外部からはそう捉えられてしまいます。言い訳しても審判の目にそう映ったのならそれまでです。
さらに顎・後頭部の直線は顎の方が下にくるためうつ向くように避けた場合ヘルメット後頭部をギリギリ通過すると今度は顎先が通らなくなります。
このようなダウンゲートで頭だけを寄らせて通過判定を貰おうとするのはそれなりのリスクがあります。
2:ヘルメットに接触したとき
今回のWWFレースでも何チームか見かけました。先頭もしくは中央の選手がポールに接触してしまいゲートが揺れてしまった場合です。PFDの背中の場合は通過の判定とすることが多いですがヘルメットに接触の場合はほぼ不通過確定です。
理由としては内側に避けようとしてヘルメットが当たるということはほぼほぼ頭部のどこかしらがポールラインを出ているからです。
紺色の楕円が頭部でその上部50%がヘルメットだとしたらヘルメットに接触して頭部全体が内側に入っているということはかなり顎を引いて頭部を立てた状態になっているはずです。これはもちろん通過判定にします。
しかし、少しでも頭部が傾いているとどこかしらがポールの外側に出てしまいます。もちろん顔の向きや首の曲げ方などによって全体が入る場合もありますが判定はよりシビアになってしまいます。また、見やすいように図ではポールを太めに描いていますが実際は直径2.5cmほどなので頭部に対してだいぶ細くほぼほぼアウト判定になってしまいます。
人が真横で接触した場合はほぼ100%どこかしらがポール外に出ているので不通過判定は避けられません。
3:ゲートが大きく揺れている時
接触と繋がる部分があるのですがゲートが大きく揺れている時も不通過判定が取られやすいです。基本的にゲートエリア内とはそれぞれのポールの外側を川底まで垂直に下ろした空間です。
こんなイメージです。
これの厄介なところは揺れるとその都度ゲートエリアが変わるということです。
外側に揺れるとゲートエリアが広がります。これがあるので故意の接触は禁止とされています。
外側に揺れた時はまだいいのですが問題は内側です
内側にゲートが揺れると極端にゲートエリアが狭くなってしまいます。ゲートは紐で棒を吊るしているだけなので一度揺れると振り子のように揺れ続けます。
横に揺れるのはまだ良いとして一番厄介なのは前後に揺れるというものです。
前後に揺れていると意図せず逆通過判定をもらいかねません。カヌーの場合はやり直しがきくのでいきなり逆通過をしなければさほど問題ではありませんが、ラフティングの場合一人でも一回でも逆通過で判定が出ると不通過となるのでかなりシビアになります。
ポールが前後に揺れている場合図の①のように前からゲートが来た場合は当然ながら通過判定になります。しかし、そのまま反動で戻ってきて②のように後ろからゲートが通過すると逆通過による不通過です。
風による揺れであればユラユラと大きく揺れるので見分けはつきますが接触による揺れの場合激しく揺れるため判定が難しくなります。さらにヘルメット接触の場合は前述したようにほぼほぼ頭部が入りきらない場合が多いので不通過がつきやすくなってしまいます。
②不通過を出さないためにどうするか
それではここからは実際に不通過をつけられないためにどうするかについて解説していきます。
1:そもそも首通しをしない
元も子もない話になりますがそもそも『首通し』をしないのが一番です。「それじゃあ攻められないし競技性が・・・」という人もいますがそんな選手に限ってそのレベルではありません。そもそも首だけ通して1/100秒を競う世界までラフティングは到達していません。カヌーでも上手い選手になればなるほどいらない不通過をつけられないために胸の前などできちんと通過しているアピールをしてきます。
頭部だけ通過して目先の順位を上げる前にそもそものラインやボートの挙動をコントロールするのが先です。
2:いらないことを喋らない
外から見ていると非常に面白いのですがヘタクソなチームに限って競技中に怒声が飛び交います。「漕げ!漕げ!!」や「右よれ!!」「通った!通った!!」と大声で叫びます。上手いチームは「次左に回すよー」や「出口岩気をつけて」など的確な指示を冷静に出します。
ゲート審判初心者であれば際どい判定の際には「通った!通った!!」と言われれば揺らぐことはありますが熟練の審判には通用しませんし「そんな際どい位置なのね・・・」 と逆効果になることすらあります。審判とのやりとりに関して余談ですが、通過か不通過かいちいち審判のジャッジサインを見るのもあまり印象は良くありません。もちろんチラッと見るくらいは良いですが「通りましたよね?」アピールをしたりラフトの場合ゲートを揺らして侵入した難しい判定でどんなジャッジが出るか凝視されたりすると審判も人なので厳しい判定をつけたくなることもあります。あくまでも選手は競技に集中するというのが一番良いでしょう。
3:通過の際には顎を引く
実際どうしても頭だけ通らなければならない時はゲートポールを見ながら顎を引くのが最も不通過を取られにくいです。
上の図ではどちらも厳密には通過判定ですが、右側の方がより確実に通っているように見えます。静止画であればいいのですが実際の競技ではゲートを通るのは一瞬です。その際に審判に見やすいようにアピールするのも技術の一つです。のけ反らずゲートポールを内側から見れるということは確実に通過していなければできないことなので十分なアピールになります。
頭部が垂直に近ければ近いほど確実ですし外からも見やすくなるので判定としては通過になりやすくなります。可能であればゲートポールの端を胸の前で躱すようにするとより確実に入っているというアピールになります。
まとめ
結局のところ『首通し』の判定は審判によりますしゲートの揺れ方やタイミングによっては不通過判定になりやすいです。自分達は通れたと思っていても審判から見ると顎先が通っていなかったりというのがかなりあります。
個人的には首通しはやらなくて済むならやらない方が良いというのが意見です。それでもやる場合は不通過をつけられる覚悟でやらなければなりません。余談ですが首だけ通そうと動くとその間パドリングが疎かになる選手も非常に多いです。カヌースラロームのトップ選手なんかは首や胸の前ギリギリで避けていてもパドリングは継続しています。これが初心者だと通ることに精一杯でパドルが抜けていたりして次の立ち上がりに一拍遅れたりします。ラフティングの場合ほとんど無理やり通るのでパドリングどころかポジションからも外れていたりします。そうなるくらいであればしっかりとラインを描いて確実に通過できるように調整した方が賢明といえます。
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