攻略:御岳渓谷『三ツ岩』

これまでもラフティングの技術については何度も解説してきました。しかし、これまで解説してきたのはあくまでも汎用的な技術であり、場所によっては応用が必要なこともあります。基本があれば全ては応用でなんとかなるはずなのですが、川の構造が複雑過ぎてどう応用して良いのかわからなくなってしまうポイントもたくさんあります。

そこでスポットに合わせて応用の仕方や川への合わせ方について解説していきたいと思います。

ここで紹介する方法はあくまでも基本技術の応用の一例であり『正解』ではないのでチーム毎にさらに調整する必要はあります。その中でも「これは外せない。」「これをやったらほぼ確実に失敗する。」という共通のポイントもありますのでぜひ最後まで読んでいただければと思います。

攻略する場所:『三ツ岩』

スポット攻略第一回目の舞台は御岳渓谷『三ツ岩』です。

かつては御岳カップでも三ツ岩を使ったコースがありました。2014年4月にはラフティング世界大会選考レースを御岳で開催したこともあり、その際のスタートも三ツ岩上流の大橋下からでした。

大橋下プール:2014選考会当時

御岳カップにおいても近年では三ツ岩下のゲンコツ岩左岸から発艇して忍者岩上流までのセットが増えてきました。

あくまでも推測ですが三ツ岩を使わない理由は、

  • フリップするチームが多い。→安全性の問題
  • ボート回送が長く、道が狭くて危ない。→インフラの問題
  • ゲートを張るアンカーが少なく、セットが限られる。→地形的な問題①
  • 上流プールが狭くカヌーがいると待機場所がなくなる。→地形的な問題②
  • 一度エントリーすると一気に流され、やり直し不可な瀬が多い。→ラフトの漕行能力の問題
  • フィニッシュラインの設定が難しく競技区間の設定が難しい。→コースデザインの問題①
  • クロスレースをやるには狭い・危ない・見づらいの3拍子がそろう。→コースデザインの問題②

などといったことが考えられます。

こういった理由により近年では御岳カップでも競技区間を変更しているのでしょう。

しかしながら上流でウォーミングアップしたりした後にはどうしても降らないといけないのが三ツ岩セクションです。

また、2023年には春先にみなかみで起きた事故の影響により47回リバベンが御岳へ変更となり、スラロームが三ツ岩スタートでした。話を聞くところによると当時学生だった選手たちはその前までコロナによる自粛もあり三ツ岩にゲートが張られた姿を見るのは初めてだったようです。そのせいもあるのでしょうが多くのチームが勢いだけで飛び込んでいきフリップしないだけのかなり危ういレースをしていたのを覚えています。

近年ではクリスマスカップもクランク下に場所を移してしまったので三ツ岩を通るレースはほぼなくなってしまいました。それでも現在においてもリエゾン(競技区間のために流して降るエリア)で通ることはありますし、降下技術の応用が詰まっているのが三ツ岩です。

瀬の構造

三ツ岩写真:2015年当時
三ツ岩写真:2017年当時

写真は大橋から撮ったものです。2017時点ではまだ御岳小橋が写っていますが、翌年10月の台風で小橋が無くなります。

三ツ岩は名前の通り3つの岩が並んでいます。上流から順に1番・2番・3番岩です。

三ツ岩イメージ図

筆者がラフティングを始めた当時は①番岩の左岸の狭い水路がメインルートでした。しかし、ある時台風により上流のます釣り場に入れている砂利が大量に流入し左岸の水路を塞いでしまいました。それから①②の間を通ろうとなりました。②③の間は当時から通ることはできましたが、浅い上に隠れ岩があり引っ掛かるため通常の降下で通る人はいません。あとで解説しますが失敗した時のリカバリールートが②③です。③の右岸は図には記していませんが大岩上流のエディーを作る岩があり通行不可です(写真の方を見てもらえればわかりやすいかもしれません)。③右岸は台風などで増水した時のスペシャルルートです。

近年では砂が溜まっては削れてを繰り返しており左岸を通れる時と通れない時があります。どちらにせよ浅くて水流不足で艇速も出ず楽しくないので個人的には通れたとしてもあまり使いません。

攻略方法

先ほどの図に少し細かいディテールを追加したものが次の図です。

三ツ岩イメージ図水流追加

競技をやるにしても普通に降るにしても現在ではおそらく①②の間が最も一般的でしょう。

そしてその難易度を格段に上げているのが①よりもさらに上流にある隠れ岩と右岸のザラ瀬です。

この二つにより右岸から勢いをつけて①②に進入できず、②の岩に直線的にぶつかっていくようなルートになってしまうのです。この後の解説にも繋がるので言っておくと、決して①②の間を行くから難しい訳ではなく、隠れ岩等によりエントリーラインに制約を受けるから難しくなっているという点です。

余談になりますが、このセクションにおけるコマーシャルラフトの場合は圧倒的に右ガイドが有利です。自分のフォワードが左慣性を生み出す上に直後のバックスイープも効きますし、ハイサイド側に座っているので緊急時も動きやすいです。左ガイドの場合は手前までの慣性作り、フォワードのタイミング、抜けた後の処理まで全てがシビアになります。初心者を乗せるなら右に上手い人が乗ったほうが楽なはずです。

①よくある失敗

まずはよくやりがちな失敗について解説していきます。

ここで紹介することをやったらまず成功することはありません。実際これをやって目の前で消えていったガイドやレーサーをたくさん見てきました・・・。

ⅰ,隠れ岩に引っ掛ける

最も多いのが手前の隠れ岩に引っ掛けるです。

よくある失敗:隠れ岩に当たる

手前の隠れ岩に引っ掛けると大体の場合はボートの右サイドが乗り上げます。そうすると左サイドが先に流されて微妙に右アングルがつきます。そこに右側からくる流れが当たるので②の岩に吸い寄せられる軌道を描きます。ここで正常に戻そうとすると流れに乗せられてスターンを振っている間に真横で②が来てフリップします。

ポイントは「隠れ岩に乗ったのにそのまま突き進もうとする。」と言う点です。隠れ岩に乗った時点で事前の計画が破綻しているのでリカバリーをしなければなりません(無理やりにでも力技で行けるチームは別です)。

隠れ岩に乗った際のリカバリーは下図のような動きになります。

隠れ岩:リカバリー

隠れ岩に乗ると一瞬だけ岩を軸にして右に向けた回転慣性が生まれます。「乗った・・・!」と感じた瞬間元に戻そうとするのではなく、その慣性を消さずに右に回転をかけて振り抜きます。そうすると①②に入る軌道から外れるので②③に抜けて引っかかりながらも安全に降りられます。ちなみにですが慣れてくると隠れ岩に引っかかった際に岩を軸に回してしまい①②を同様の抜け方で通過できるようになります(下図)。

隠れ岩:リカバリー(応用)

実際筆者がガイド時お客さんを座らせた状態のリカバリーでもやったことがあるので4人がフルで漕げるのであれば余裕かと思います。

ⅱ,艇速が足りない&インから狙いすぎる

少し経験がある人だとⅰで紹介した隠れ岩をしっかりと警戒します。しかし、隠れ岩を警戒するあまり①の岩よりとなるコーナーのインから狙い過ぎてしまうのです。

よくある失敗:インから狙い過ぎる

事前のラインが①にかかるくらい左岸に寄ってしまった場合、フォワードをすると岩に突っ込んでしまうので「待つ」しかなくなります。待っていると①の岩に当たったクッションウェーブが砕けて右岸に向かう流れが生まれます。これに乗ると①②の間には入らず実は③の右岸に行く流れに乗ります。この時点で①の岩が邪魔で漕げていないのでボートは「待ち」というよりもただ漂っているだけになります。①を抜けてようやく漕げると思った時には既に遅く、ほぼゼロスピードからなので立ち上がりきらず②に張り付いてフリップします。

実はゲートセットによってはこのラインを使うこともあり、手前でガンガン出力して①のクッションに向かってパドル1枚分だけ残して左前のスライスで切り込んでいくハイレベルなものになります。隠れ岩が怖いからといって逃げる際に使うラインではないのです。

超応用:アップゲート

ギリギリパドル1枚分だけ残して①の裏のエディーに噛ませていくとカービングターンの軌道に入ります。そこでバウは①のエディーに残しスターンだけ本流に乗るようにすると一気にスターンが流れてアップゲートができるのです。過去にこのセットも何度かありましたがかなり難しいです。大体本流に連れて行かれるので多くのチームが漕ぎ上りになります。

いずれにせよ艇速がある状態で狙っていくラインであり「待ち」で使うラインではありません。

ここでのリカバリーもⅰ同様で、漕ぎ始めても間に合わないと感じたら即座に諦めて②③の間を通った方が安全です。ただ、レースにおいてメンバー全員が共通して諦めるという選択肢はなかなか取りづらいと思うのでやはり事前のライン作りが重要となります。

ⅲ,①の岩に接触する

三ツ岩攻略:理想の形イメージ

おそらく多くの人がイメージする三ツ岩攻略の理想形は上図のようなラインではないでしょうか。右の隠れ岩に接近せず直線的に抜けていけるど真ん中のラインが理想かと思います。しかし実際に水上に出るとそう上手くもいきません。

YouTubeにいくらでも三ツ岩周辺の動画はありますが、ぜひ一度動画などで客観視してみてください。ちなみにこちらの方の動画では1分前後がツ岩セクションです。

実際水上に出ると①と②の岩が視界を塞ぐので思ったよりも直線的には見えず①②の隙間をクランクしていくようなイメージに見えてきます。

その際最も多いミスが「左に寄せ過ぎて①に接触する」です。

レースメインの方は接触はしないものという認識もあり、接触時のボートレスポンスを考慮しないという方も多いかと思います(実際筆者もガイドを始めるまではそもそも当たらないのが前提と思っていました)。また、擦る程度なら大丈夫だろうとたかを括っていると痛い目を見ます。

よくある失敗:岩に接触

共通の認識として②岩に横でいくとフリップするというのがあるので無意識にも左岸に早く抜けたくなります。そこで事前に左アングルを作って漕いでいくと上図のように①の側面に接触してしまうことがあります。動画のようなカヤックであれば余裕かもしれませんがラフトの場合は①②を通る横幅も結構ギリギリなのでよりシビアになります。

岩に当たるということはゴムボートなので壊れない代わりに反発する力をガッツリともらいます。スピードが乗っていればいる程、質量があればある程大きな反発をもらいます。「ぶつかる」まで行かなくとも「こする」程度でも十分に進行方向を変えるだけの力が発生します。

左岸に抜けようという意識が先行し過ぎたことにより岩に当たると上図のような軌道で②にぶつかってフリップします。

ガイドが三ツ岩でフリップする原因もおそらく半分くらいはコレでしょう・・・。

②攻略方法

ここまで解説してきた失敗の逆をやれば成功するというとそれまでなのですがそれだと雑すぎるので簡単に意識するポイントなどを解説していきます。

ⅰ,隠れ岩側から狙う

一つは右に出ている隠れ岩を目印に狙っていく方法です。

三ツ岩写真

写真だと三ツ岩の右岸上流に白波があり見切れていますがさらに上流にも白波があります。

そこをギリギリいくのではなく、右のスターンが当たるか当たらないかくらいで流していくイメージです。

三ツ岩攻略としては少し大きめのコーナーを描く形になります。

大きめの弧を描くので助走区間が長くなり勢いをつけて入れるというメリットがあります。

ただ、この方法は個人的にはあまりオススメできません。右のスターンを隠れ岩によせるという意識を持ってしまうと、本来左に抜けていきたいのに右に寄せるという矛盾が発生して右漕ぎのタイミングがズレたり、もっと右に寄せたいといういらない意識・動作が入ることがあります。結果的にスターンがその辺を通り最終的には左に抜けられればOKというだけなのに「そこを通せないとフリップしてしまう」という謎の強迫観念に駆られる選手もいます。

ⅱ,①の岩に寄せていく

オススメの攻略法は失敗例ⅲで示したラインに近いものです。

直線的に①②の間の出口を見ると①から流れるクッションウェーブで右によせられます。それも考慮しエントリーが始まるポイントでは「このままいけば岩に当たる」というギリギリの左アングルで行きます。ただしボートは流れに乗って進んでいるので微妙に滑っている状態となります。

攻略法:エントリー

そして岩が近づいてきてからがポイントです。

このラインで行く際の最大のポイントであり集中しなければならないのが『絶対①にぶつけない!』ということです。ぶつけると失敗例ⅲが発生します。

「それができないから大変なんじゃん」と思うかもしれませんが、正直そこを意識する以外にやることはありません。極端な話をするとエントリーと抜けが多少雑でラインを欠いていてもある程度この方法に沿ってエントリーしてさえいればぶつけない限りなんとでもなるレベルです。

尊敬する先輩ガイドにどのように攻略しているのか尋ねたところ「①の岩にぶつけない。それしかない。左に多少推進力さえ入っていればぶつけないだけで後は勝手に抜ける。」と教わって、自分でも手前でお客さんに3パドルくらい漕いでもらって後はしゃがんでいる状態でも普通に抜けていきました。

ポイントは1つ『絶対①にぶつけない!』という意識です。

①岩は進行方向側にあるので隠れ岩を使う方法よりも意識しやすく、意識の乖離も起こりません。

攻略法:集中ポイント

個人的にはガイド時①岩にどこまで寄せられるのか実験して一人で遊んでいました。もちろん慣性やアングルはちゃんと調整して万が一当ててもリカバリーはできるようにしていました。

まとめ

三ツ岩の一番・二番の間を攻略しようとする際に必要なのは左岸へ向かう少しの推進力と『絶対に①岩にぶつけない』という意識だけです。

様々なチームのスカウティングを立ち聞きしていると「②岩のクッションにあてて・・・」や「隠れ岩を過ぎて①に差し掛かったらスイープで・・・」など色々考えているようですが、複雑にすればするほど意識が散漫になります。特にラフトは複数人でコントロールするので全員の意識がある程度同じ方向に向かないと上手く動きません。よくアップゲートの練習でアウトスターンの選手がポールに接触しないかラダーを入れながら振り返っているような姿を見ませんか?その際他の3人は漕いで出口に向かって意識を向けているのに一人だけ後ろに意識が入っています。本来出口に向けて一緒に漕げば推進力でスターンの端まで抜けるはずなのに意識が散漫になり後ろを確認したことによってパドルが止まり逆に接触するということが起こります。

視界の端に入るから見ているのとわざわざ振り返って確認するのでは違います。

三ツ岩もそういった側面があり、目印が多過ぎて色々なところに意識を向けたくなるのでついついみんんなで違うところを見てしまいがちです。「ここ1点に集中!」という共通のポイントを持つことにより思いの外簡単にクリアできてしまうものです。

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