スターンラダーで減速する理由

このブログでも何度も取り上げてきている「スターンラダーによる減速」について今回は深掘りしていこうかと思います。

なぜ減速するのか、させない方法はあるのかなど順をおって解説していきます。

結論から

以前の記事でも解説したことがありますが、スターンラダーを入れるという事象そのものだけを考えると厳密には減速します

しかし、技術を磨いていけば減速幅を最小限に抑えたりその後の立ち上がりまで含めると加速に転じることもできます

スターンラダーで減速してしまう3つの要因

スターンラダーによる減速の要因は大きく3つに分類されます。まずは順番に減速要因について考察していきましょう。

①パドリングによるブレーキング

大体の人がそもそも「ラダー」というものを理解できていません。

「ラダー」とは元の意味は「かじ」です。船についているラダーというものはほとんどがスターン(後方)についていて操作すると左右に動いて船舶の進路を変更します。

スプリントカヤックのスターンラダー

画像はスプリントカヤックについているスターンラダーです。10cmほどのかなり小さなものです。K4(4人乗り)のものでも20cmあるかどうかといったところです。

スプリントカヤックのフットプレス
フットプレス内の棒

スプリントカヤックの場合は足元に棒が出ていてそれを左右に切るとラダーが動いて進路を変えられるという仕組みです。かなりシンプルな作りではありますがほとんどの船舶が似たような原理です。スプリントカヤックはシングル艇で全長520cm以内重さ12kg以上と定められています。レースラフティングで使用するグモテックスコロラドよりも1m近く長いため回頭性能でいうとコロラドよりもはるかに悪いです。そんなボートでも10cmのラダーで動かせてしまうのです。

レースラフティングのスターンラダーも理想としてはスプリントカヤックのラダーのような動きをしたいはずです。

しかし、多くの人が「スターンラダー」と「バックスイープ」「バックストローク」を混同しており「スターンラダーのようなバックスイープ」をしていたり単に「バックストローク」で無理やり減速させて曲げたりしています。

ちなみにDRレースにおいてスターン側はバウ側に比べて圧倒的に楽でコントロールしている感があるので気持ちいいのかもしれませんがバウに乗る身からするとほとんどはこのスターンラダーができておらず減速ラダーなので立ち上がりでバウ側に負担がかかってきます。今まで一緒にレースに出てきてここの違いを明確にできていたのは某社会人チームの◯太郎君くらいでした笑。彼のラダーは前で漕いでいても減速感が少なく立ち上がりにも参加してくるのでDRをしていても非常に楽でした。

スターンラダーがバックストロークやバックスイープになってしまう原因はいくつか考えられます。

原因1:体重を後ろに乗せてしまう

スターンラダーは後方に行けばいくほど聞きやすくなります。以前ガイドが一番後ろに乗っているのはラダーが効きやすいからと解説しましたがその通りで、後ろの方が回転軸から離れるためトルクの考え方から小さな力でもボートを曲げられます。そのため後ろにのけぞってラダーを入れる人がいるのですがこれをやられるとボート全体の重心が後方に移動してしまいねじれが発生し減速します。さらにパドルに体重がのりやすくなってしまいバックストロークに近いパドリングの時はより強いブレーキングが発生してしまいます。

原因2:パドルの角度合わせ

スプリントカヤックのスターンラダー

スプリントカヤックのスターンラダーはボートから垂直に水面下へ出ています。

垂直に出ているためラダーが動くと図のイメージのような水流が発生しボートを動かせるのです。

これが折れ曲がっていると上方への力や下方への力が発生させてしまいボートに抵抗を与えてしまいます。

ラフティングの場合スプリントカヤックのラダーと違い人の手で入れるパドルが斜めに入るためしっかりと水平方向に開くというのが実は難しいのです。掘り上げがちになってしまい効きづらくそのため体重をかけて無理やり回そうとする選手が多いのだと思われます。

原因3:キャッチ不良

スターンラダーを入れるのはパドルのバックフェイスです。Jストロークを後ろで止めるのをスターンラダーだと勘違いしている人がいますがそれはあくまでもJストロークの延長線でありスターンラダーではありません。

右側のJストロークは一度掴んだ水を最後まで同じ面で使っているのに対して、左側のスターンラダーは最後の方で使用面を切り替えるという作業が入るため一度バックフェイスでキャッチをし直す必要があります。

これではJストローク・JストロークからのJラダーの方が有効じゃないか!と思われるかもしれませんが決してそんなことはありません。Jにはデメリットも多いのです。まず、手首への負担が半端じゃありません。熟練の選手でも不意に水圧がかかったり岩にヒットすると手首を負傷するリスクがあります。さらにストロークの延長でフィニッシュポジション付近でのコントロールになるためパドルが立っており水圧でボートの下にパドルが潜り込みやすくグリップ側の手を離せない選手は落艇や怪我のリスクがあります。さらにさらにスターンラダーに比べコントロールポジションが前よりになるため繊細なコントロールが効かずどちらかというとボートを支点にパドルを押し出して曲げるというイメージに近くなります。

対してスターンラダーはしっかり後ろでコントロールできる反面キャッチが疎かになるとこれまたバックストロークになりがちというデメリットがあります。個人的な感覚ですがスターンラダーの際に面が切り替わったらすぐにコントロールを効かせようとせず、一瞬間を置いてパドルを水に馴染なじませる時間(バックフェイスでのキャッチ)が必要だと思っています。

②慣性スライドによる減速

実はこの「慣性スライドによる減速」が一番タチが悪く難しい課題です。

水に浮いているボートを方向転換しようとスターンラダーをすると必ず発生するのが「慣性スライド」です。これをいかにコントロールし立ち上がりに繋げていくかが速さの鍵になります。

ここではまず慣性スライドによる減速の原理について簡単に解説していきます。

左右は全く同じ図です。スターンラダーというキッカケを入れるとボートは赤矢印で示したような慣性スライドの軌道に入ります。慣性スライドしながら方向を変えていくと右の図のように水流が外側から当たっている状態になります。これはボートの向きが慣性スライドしている方向に対して垂直に近ければ近いほど面も大きくなるため抵抗が大きくなります。

それなら「カービングターンで常に水面にボートを張り付けながら曲がればいいのでは?」と思うかもしれませんがそれは現実的ではありません。主題がズレるので詳しくは書きませんが図のようなシチュエーションではカービングターンを使うと内側に切れ込むようなラインになってしまい本流を外したりエディーに捕まる可能性があります。また、ギリギリでクイックに90度回そうとするのも同様で慣性スライドを無くすと一度急ブレーキで止まってまた立ち上げとなるので実践的ではありませんし余計に疲れます。

慣性スライドはレースラフティングとは切っても切り離せないものでこれをいかに使いこなすかが重要になります。

③立ち上り不良による自然減速

一つ前の慣性スライドに関連して減速してしまうもう一つの要因が立ち上がり不良です。

一つ前の項でも使用したこちらの図ですがここで慣性スライドが終わって進み始める部分を「立ち上がり」と呼びます。回転し慣性スライドすることにより減速してしまったボートのスピードを回復させる行為です。方法は大きく分けて二つあります。

前二人は一定のペースで出力(フォワードパドル)し続けるとして『右後ろのラダーコントロールによる立ち上がり』か『左後ろのスイープによる立ち上がり』です。

どちらも慣性スライドから立ち上がるタイミングに合わせます。

ここで多くのチームは『右後ろのラダーコントロール』を選択します。チームテイケイが一時期取り組んでいた「外中そとなかコントロール」の影響を引き継いだものと思われます。外側の真ん中の人がで滑っていくボートを止めるというものです。これを外で止めると実は慣性方向の関係でボートがどんどん減速します。テイケイの外中コントロールはあくまでもR6で前後が漕いで真ん中が止めるというものなのでできていたのですがR4の場合左二人が普通に漕いで右後ろで止めてしまうと減速こそしないものの加速に転じることはないでしょう。これの解説はこの後の章でやります。

スターンラダーの減速から加速に転じるポイント

「スターンラダーは減速する」について「パドリング」「慣性」「立ち上がり」の3つの要因について解説してきましたが、ここからはいよいよそれを加速に転じさせるテクニックや減速幅を抑えるテクニックについて紹介していきます。

パドリング

スターンラダーは読んで字の如くスターン(ボートのうしろ)でラダー(舵)を入れます。

細かいポイントはたくさんあるものの大きなポイントは「いっきに効かせようとしない!」です。スターンラダーはパドルのバックフェイスで行うためフォワードで水から抜かないで行う場合でも必ずキャッチのし直しが入ります。そこを無視して曲げたい一心で力を込めてしまうとスターンラダーではなくバックパドルやバックスイープになってしまいます。

個人的な感覚としては一瞬バックフェイスを水に馴染ませるような感じでキャッチにしっかりと時間をかけるのがポイントです。ということは一気に「グイッ」と回すのには向かないということです。

慣性×立ち上がり

今回の記事で一番重要なところです(笑)。

立ち上がり不良による自然減速でも解説しましたが、ボートが横向きになるにつれて進行方向に対する水の抵抗が大きくなり減速していきます。当然このまま何もしないとボートは停止します。

そこで図のようにボートの回転慣性に合わせたカウンターパドルを入れます。左回転慣性の場合は左後ろによるスイープパドルになります。これにより回転慣性を直進方向であるボートのベクトルへと転換します。ここの力加減はケースバイケースで経験が物をいう部分が大きいですが、スイープが強いと押し返してしまいますし弱いとさらに回ってイン側に入って来てしまうので調整が必要です。あくまでもフォワードで立ち上げるというよりスイープで回転慣性を転換して最後に余裕があったら加速に転じさせるという感覚に近いです。

これはフェリーグライドの際にも同じことが言えます。水色矢印の回転慣性が水流に変化するだけなのでカウンターパドルを当ててあげるとうまいことフェリーグライドできます。速さを求めるならスイープよりも強烈なフォワードだ!という脳筋チームもいるかと思いますが理論上それは可能でも現実的には人智を超えたパワーが必要になるのでほぼ不可能でしょう。カヌーであればもちろん可能なのですがそれでうちはやっているというラフティングチームはおそらくフェリーグライドの直前に12時方向への慣性をつけて抵抗しているのでしょう。そうでなければボートの質量に対してのフォワードパワーが足りないはずです。これでは流れの力を使っているのではなくパワーと小手先のテクニックで無理やり押し通しているだけなので意味がありません(ここが前項の解です)。

このように水流や回転慣性による力を相反する力で打ち消して直進させることを「立ち上がり」と呼びます。

また、これはあくまで個人的にではありますがフォワードの出力で慣性スライド状態から直進状態にすることも「立ち上げる」と呼んでいます。

立ち上げイメージ

通常は慣性スライド状態だと水の抵抗を横から受けます。それを出力(立ち上げ)によって直進方向に転換するということです。この図の場合は当然回転の内側になる右側が強く漕がなければなりません。しかし、ほぼ直線ドリフトのような状態からだとただ出力するだけでも立ち上がりになります。スイープなどのテクニックによって慣性を加速に転じさせるというよりはアクセルを踏んで無理やりグリップさせていくような感じにはなりますが気持ちスライドしているかなといった場合には有効です。これのポイントは後ろがしっかり漕ぐという点です。R4の場合バウマン2人はボート重心を引っ張る立場のため初速は強くても加速域が得意ではありません。そこでしっかりと後ろの二人が合わせて漕いで後ろからボートを押し出していける必要があります。後ろ二人が「調整が・・・」といってサボっているとフロントだけ空回りしている雪道のFF車のようになります(雪国ネタです)。しっかり4輪がグリップして加速していければ十分に加速していけます。

まとめ

スターンラダーを入れると確かに横からの水圧で減速します。しかし、その分直進慣性が回転慣性に変わっているだけなのでうまく転換してあげられれば加速で立ち上げていくことは可能です。その際かかっている横からの水圧ごと利用して直進慣性を作ってあげるとより加速します。

難しいのはレースの場合スターン二人ができる人の場合相談なしだと二人が同時に動いてしまい余計な入れ合いになってしまうということです。これはコミュニケーションや事前の取り決めで解決できます。個人的にはコーナーでスターンラダーを入れた場合は入れた本人(回転慣性の内側)が最後まで責任を持って立ち上げまで行えば早くなると思っています。そこはチーム次第ですがとにかくコミュニケーションをとって今の慣性処理をどうするかを指示すればできる技法です。

結果的にはスターンラダーで減速するとか言っている人は加速に転じさせる技術のない下手クソだということです。厳密には一時的には減速するかもしれないが慣性の使い方次第では加速に転じさせることができる技術なわけです。

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