レースラフティングに対する考察④「ダッキー練習の有用性」

ラフティングの大会では必ずと言っていいほど存在する「ダッキー部門」です。

多くの大会でカテゴリーとして存在します。

「ダッキー」は俗称で正式には「インフレータブル(空気膨張式)カヤック」と呼びます。

よく「インフレ部門」なんて呼ばれたりもします。

レースラフティングをしている人なら一回は乗った事があると思います。

今回はそんなダッキーで「どんな練習をすればいいのか」「どうすれば4人乗りや6人乗りに活かせるのか」などダッキーの活用方法について解説していきます。

ソロとタンデムの違い

大体の大会はタンデム(二人乗り)でカテゴリーを作っています。「チームスポーツ」や「安全面」などと言った理由が考えられます(すいません勝手な想像です…)。

技術的に考察すると確かに二人乗りでなければならない理由があります。安全面に近いのかもしれませんがそれについて解説していきます。

理由①「ボートが大きすぎる」

多くのチームが使っているダッキーはAIRE:リンクスⅡやトムキャット:ストライクⅡなどと言ったタンデム艇です。そもそもソロ艇を所持しているというチームの方が少ないかと思います。レスキューの観点からも人が乗れるタンデム艇の方が推奨されます。しかし、タンデム艇は通常1人で漕ぐとかなり浮きます。二人乗り用に作られているので当然といえば当然です。浮きすぎるため片側で漕ぐと曲がりやすくなってしまい、ハイウォーターの川ではコントロールが難しくなります。船が大きすぎる(重すぎる)ため「フォワードは効かない、だけど船が跳ねるからラダーは効く」なんて状態になりかねません。

理由②「相互レスキューができない」

これは完全に「安全面」です。万が一前のチームがフリップして流されていた場合ソロだとレスキューのハードルが格段に上がります。「いやいや1人でも助けられるよ!」という方もいるかと思いますが、本当にそのレスキューはリスク管理できていますか?ハイウォーターでガンガン流れる川でフリップリスクの高いダッキーを安全にコントロールしながら人に近づき、引き上げるだけの技術がある人は少ないと思います。理由①で解説したようにボートの特性上ソロ+ハイウォーターだとかなり操作性が落ちます。2人だと1人がコントロールしてるすきに人を助ける事ができます。何よりどちらかがコントロールとレスキューに専念できるため安全性が上がります。

以上のような理由から大会は二人乗りが多いのかなと勝手に想像しています(笑)。

余談ですがラフティングツアーもワンボートの時は、もう1艇出すか、ガイド2人乗りでいきます。万が一お客さんが危険な場所で落ちた際に2人乗っていれば1人がコントロールしながらもう1人が動けます。安全面への配慮ですね。

ソロダッキーで練習する

「散々2人の方がいいって言っておいてなんだよ!」って思われるかもしれませんが、練習で静水や通常の川であればソロダッキーはすごくいい練習ができます。静水・流水それぞれ意識する点や練習方法などを解説していきます。実際にカヤックなどで指導する際にも使っていた実践的な技術です。

○静水練習

まず、静水では1人で直進する練習です。多くの人が経験した事があると思います。「そんなの簡単じゃん」と思うかもしれませんが、ちょっとした条件を追加するだけで格段にハードルが上がります。

例1)『フォワード・フォワード・フォワード・ラダー』の4テンポで必ず漕ぐ

もちろんJストロークなどは禁止です。ポイントはいかに一度のラダーで減速させずにフォワード3パドル分の慣性を残すかです。フォワードが強すぎるとラダーで戻す際にテンポがずれてしまい、ラダーが強いと大きく減速しフォワードが重くなってしまいます。いかに一定のリズムで漕ぎ続けられるかです。

例2)『Jストロークの加減で滑らかにコーナーを曲がる』

勘違いしている人がたまにいますが「Jストローク」と「Jラダー」は違います。Jの軌道で漕いで後ろで止めるとそれは「Jラダー」です。あくまでストロークなので漕ぎ続けなければいけません。ポイントは手首を捻り出すポイントを早めたり遅めたりしながら緩やかにボートを曲げていくという事です。岸沿いや橋脚などを目印にしながら曲がっていきます。

静水の練習を有意義なものにするには「とにかく漕ぐ」「時間漕ぐ」「セットを組む」というのももちろんいいですが、「条件をつける」が一番効果的な気がします。「あの木まで30パドルで行こう」と決めてタイムを取りながら漕ぎます。そして30パドルができたら「同じタイムで25パドルで行ってみよう」と条件をキツくします。こうする事によっていかに1パドルで船を進めるかを考えるようになります。ダッキーに限らずラフトでも使える練習です。

○流水練習

流水練習はバリエーションがかなり豊富です。そんな中でも今回はダッキーでやるのにオススメなメニューを紹介します。

それは『Sターン』です。

Sターンはエディに入って回しすぎる事なく立ち上がり、反対側に飛び出していかなければなりません。シングルブレードでSターンをしようとすると必ず得意なサイドと不得意なサイドが出ます。やればわかりますが右漕ぎの選手は右岸エントリー左岸アウト、左漕ぎの選手は左岸エントリー右岸アウトが苦手です。理由はシンプルできっかけから立ち上がりまでが自分のクロスサイドになるからです。

この練習をすることのメリットは、ラフトボートに乗った際「自分のできない事がわかる」ということです。クロスパドルを入れるということは「本当は逆に人がいればやってほしい」ということです。ラフトだとクロスで反対を漕ぐなんてことはまずありません(0ではありません)。「クロスが欲しいポイント」というのをみんなが理解することで「自分の役割」「ポジションの役割」というものが見えてきます。

ソロで練習するポイントは「相方がいれば…」「逆漕ぎがいてくれれば…」という不便さを感じる事にあると思います。「ここで反対がいてくれればもっと違うラインがあるな!」「反対が漕いでくれればこのコントロールパドルいらないな」と言ったことを考えながら漕ぐと有意義に過ごせると思います。

タンデムダッキーで練習する

1人で乗って不便さを感じたらいよいよ二人乗りです!笑

二人乗りの特徴は2つです。

1つ目は「トップスピードが速い」です。タンデムダッキーのトップスピードはR4・R6のラフトよりも速いです。もちろんスラロームC-1ではついていけません。K−1ならなんとか同じくらいと言ったところでしょうか…(実際TEAM TEIKEIとやっていた時で静水だとダッキータンデム>R6>ソロダッキー>R4>C-1といった感じでした)。

2つ目は「速い分滑りやすい」です。トップスピードが速い分コントロールが難しく簡単に船がスライドします。この「滑り」すらも推進力に変える技術がありますが一朝一夕では不可能です(学生の頃元TEIKEIの池田さんが後ろに乗った時体感しましたがエグいくらい進みます笑)。

○静水練習

タンデムの特徴として「速い分滑りやすい」と紹介しましたが。これを解消する練習があります。「岸や護岸沿いを一定の間隔で漕ぐ」です。静水練習と言うと河口や湖・ダムなどが多いかと思います。岸沿い2mくらいをキープしたままトップスピードをキープしてみてください。できれば周りで見ていてくれる人がいれば理想です。どのようなタイミングで離れたり近づいたりするのかを研究してみましょう。ラダーなのかスイープなのかペアによって様々ですが原因を探ってみてください。この考察はラフトにも活かせるはずです。

○流水練習

タンデムの場合はトップスピード練習がメインです。オススメは少し複雑な「スプリント区間をラダー無しで降る」です。1〜2分前後のスプリントコースを想定し「スタンラダー無しで」スプリントします。

ここでのポイントは「バウラダーは有り」です!もちろん無理矢理なドローなどはダメですが、きっかけ程度はOKです。ダッキーは左右で乗るので前が入れたバウラダーの慣性を後ろで止めようとするとスタンラダーになります。これをなくすのが目的です。後ろに乗る人はどうしても慣性をコントロールしたくなりますが、前が入れた慣性を止めるのは前の役目です。送りパドルなどでじっと待ちしっかり前のストロークで立ち上げましょう。

よくラフトの反省会で「ここでラダーの入れ合い(右と左で)しちゃってるねー」なんて話を聞きます。心の中では「自分の役目も理解しないで勝手に人がつけた慣性止めにいくなよ(笑)」と思って聞いています。タンデムダッキーで練習をするとここの部分への理解が深まると思います。

まとめ

ダッキーで練習する際にはソロでもタンデムでも「いかにラフトを想定するか」で変わってきます。ラフトを想定した大ぶりなラインや、ストローク制限などを設けるともっといい練習ができると思います。また、1人で乗る際などはリーンも意識するといいかと思います。通常ラフトボートではあまり感じませんが、静水でもリーンによって曲がっていきます(以前左右バランスで解説しました)。ダッキーだとソロで中心に座るのと、少しよって漕ぐのとでも変わってきます。その違いというのを感じられるとラフトにも活かせると思います。

補足(回想録)

以前長良川WWFにダッキーで出た時の話です。K -2で出ました。合わせた練習は1度もしていません笑(運営さんごめんなさい…。でも相方はカヤックをやっていた女の子です)。総合はH2Hとスラロームを落として2位でした(K -2のスラロームってパドルが邪魔で難しいって初めて知りました笑笑)。

しかし、ダウンリバーは2位のチームを5分近く離して1位でした。40分前半のコース設定で5分離しました。私が後ろに乗っていましたが実は一度もラダーを入れていません。ずーと「エディー突っ切るよー!右強く!右強く!OK!まっすぐー!」と言った具合で40分ずーっと喋っていました笑。これによってフォワードの強弱のみで(ダブルブレードですが)長良を降り切りました。

周りからするとうるさいと思うかもしれませんが実は私がダウンリバー中しゃべり続けるのには理由があります。大きく分けると3つあります。

  • ①しゃべらないと伝わらない!コミュニケーションをとる!
  • ②緊張緩和!しゃべる事によって「なんか楽しい!」と思える!
  • ③酸素補給!夢中になると息を止めがち!しゃべって息を吸う!

この3つを意識しています。

①=基本余計な話はしません。「ここもう少し右!」や「わざと滑らせるけど漕いで!」など必要なことを喋ります。

②=うまく行ったり前の船をテイクオーバーした時に「いいよ!このままキープ!」や「今の右漕ぎ助かる!」など必要に応じて相方を激励しながら漕げてる!という感覚を作ります。

③=無心で漕ぐと無呼吸になりがちです。わざと「ここで10パドル合わせよう!せーの・・・」で呼吸を入れながら漕ぎこみます。意識的に酸素を取り入れるためのテクニックです。

チームや人によって合う合わないはあると思います。ただコミュニケーションは必要なことです。ぜひいつもよりも喋りながら降ってみてください。それだけでうまくいくかもしれません。

コメント

  1. 國原宏起 より:

    いつも拝見させてもらっています❗️
    現に僕も大学生でラフティング、レースラフティング(時々カヤック)しており、大会にも参加しています。大澤さんのように教科書やテキストあまりないレースラフティング競技において「言語化」してもらえる事は非常にありがたく、楽しく、学びとして読ませてもらっています。これからも色々な沢山の記事、楽しみにしております❗️頑張ってください❗️何かの機会に川で会えたら嬉しいです。

    • kentaroosawa より:

      コメントありがとうございます。
      技術には一定のベースがあっても、どうしても流行り廃りがあります。
      今自分がまとめている技術ももしかしたら5年後には過去のものになる可能性もあります。
      マルッと鵜呑みにせず「もっといい方法があるんじゃないか」と新しい技術を模索してみてください。
      その参考になれば嬉しいです!
      川でお会いできれば光栄です!!