基本的なパドリング①『スライス』からだいぶ空きましたが今回は第二弾ということで『スターンラダー』について簡単に解説していこきます。
ラフティングにおいては後ろ2人が主に使う技術です。バウの2人が同じことをしようとしてもボートの乗る位置と回転軸の関係上スターンラダー自体は不可能です。←バックスイープのようにして無理やり回すことは可能です。
プライ
混同されがちですが似たような技術に『プライ』というものがあります。私の認識の中では『プライ』≠『スターンラダー』です。プライを紹介している雑誌や技術本も見たことがありますが確かに別物でした。ただ、誤認しやすい内容というか書き方なのは確かです。下記URLサイトに方向転換の技術がまとめられているので興味のある人は読んでみてください(http://canoeing.life.coocan.jp/sub8.htm)
プライとはボートのスターンを外に押し出すことによりスターン側を外にスライドさせて方向転換を図る技術です。
そのためプライを使うと上図のようにバウあたりを軸にして(回転軸という人も回転軸少し前という人もいる)スターンが大外に膨らむように舵が効きます。
プライはこれはこれで使い道があります。ガイドをしていて岩を避けるときなんかにはよく使います。個人的な感覚でいうと『バウ軸の回転』です。
プライも重要な技術なのですがスターンラダーと混同していると技術の幅が狭まってしまうので明確に分けておいた方がいいでしょう。
スターンラダー
そもそもラダーとは舵という意味です。そのためスターンラダーとはスターン(ボートの後端)でラダー(舵)を取るということです。
イメージしやすいのはサーフィンのフィンではないでしょうか。後ろにフィンが一枚あることによりそこに流れを受けて曲がったり直進したりします。フィンも舵を担うパーツの一つです。
スターンラダーの特徴は推進力を元にボートを曲げるということです。プライは外に開くように自分でストロークして方向転換しますが、スターンラダーは推進力によって得られる前からの流れを使って方向転換します。
ボートが前に進んでいると上図青矢印のように前から流れがきているような状態になります。静水でボートが直進している時や流水でも流れよりも早く動いている時は相対的にこのような状態になります。
スターンラダーは前から流れてきた流れをパドルに反射させることによりその力の向きを転換して方向を変える技術です。自力で外に漕ぐプライと比べ推進力を転換するのがラダーです。水流をパドルに反射させることにより漕いでいないのに漕いでいるような力の流れを生み出す技術です。逆に言えばボートが進んでいない状態(前からの水流がない状態)でのスターンラダーは不可能です。
スターンラダーで減速はしない
ラフティング界には鉄板理論『ラダーはブレーキ』というものがあります。しかしこれは下手くそが言い出した言い訳理論です。スプリント艇に乗ってみて身をもってラダー≠ブレーキなんだということを確信しました。スプリント艇のスターンには本物のラダーがついています。スプリント艇はバランスが悪い上に直進性能に全振りなのでものすごくまわりにくいです。パドルワークだけではなかなか曲がらない割にはボート自体に長さがあるので一度回転慣性がついてしまうと修正がかなりシビアになります。そこで両足をおくフットレストのセンターにピンがついておりそれを左右に動かすことによりスターンのラダーを操作できるようになっています。ラダー自体は常に水中にあり1mmでも動かすとシビアに反応するようになっています。それにより進行方向を操作したり回航したりします。
スターンラダー=ブレーキだと言う人はスプリント艇は常にブレーキをかけながら漕いでいるといっているようなものです。スプリント艇に乗っていますが別にラダーを操作してもブレーキ感(減速感)はありません。もちろん回航しようと思って全開でラダーを切ると急激に船が回るのでそれによる水の抵抗はあります。しかし。ラダーを切ることによるラダーへの抵抗はほとんどありません。余談ですがカヌースプリント5000mのワールドカップクラスの選手にもなると回航時もラダー操作の抵抗を利用してイン側強めのストロークで一定のスピードをキープしたまま回ってくる選手もいるほどです。
ラフティングの場合はラダー操作により1人が漕がなくなるのでそれによる相対的な抵抗の増加はあるでしょう。しかし、ラダーによる抵抗は起きないはずです。ラダーによって減速するという人は単純に技術不足です。ラダーではなくスターンでブレーキをかけることにより強制的にボートを回している場合がほとんどです。
スターンラダーの練習
スターンラダーの感覚を掴むのに有効な練習としてガイドポジションに乗ってみるというものがあります。コマーシャルラフトのガイドさんは必ずボートのスターンよりに座っています。あれはスターンよりが1番舵(ラダー)が効くからです。やり方としては流れのない場所で自分はガイドポジションに座って前の人たちにひたすら漕いでもらいます。この時自分も一緒になって漕いではいけません。ガイドポジションになった人はラダー操作に集中です。スターン寄りのポジションでパドルを後ろに流すように水につけておいてゆっくりとパドルを左右に振る練習をしてみるといいでしょう。意識するポイントは一気に曲げるのではなくいつラダーをしているのかわからないくらいジワジワと繊細に曲げていくということです。一気に曲げようとするとボートが急に旋回し水圧による抵抗が生まれてしまいます。
また、一歩進んだ練習のバリエーションとして漕いでくれる人のバランスを変えるという方法があります。当然左右均等に漕いでくれた方がラダー操作はしやすいです。そこであえて右2人左1人で漕いでもらったり左2人だけで漕いだりと左右のフォワードバランスを崩して練習したりもできます。この場合でもしっかりとパドルを水につけてバウの向きや抵抗が来る方向を予測できれば減速することなくまっすぐ進んだり旋回したりできます。
テイケイの練習生候補で平塚に通っていた時もこの練習を一度させていただきました。お題はスターンに座ってパドルを後ろに入れてひたすら船をまっすぐにしろというものでした。そこで教わったのは「パドルを水に入れておけば自分の感覚よりも早くパドルが反応するからひたすら後ろに流しておいてパドルにくるブレを止めろ。」というものでした。全くこの通りでラダーの時にしろ送りパドルの時にしろ水にパドルを入れておけばパドルが先に反応してくれます。その反応(言葉では表しにくいですが、前で漕いだ人の微妙なパワーバランスによる振動)を感じて抑え込んだりうまく回転慣性に使ったりすることができます。
NGなスターンラダー
スプリント艇のラダーのようにボートに固定されて専用の器具としてラダーを担うものとは違いラフティングの場合は人が扱うパドルで行うのでどうしても繊細になります。入れる角度が悪かったり力のかけ方が荒いだけですぐにブレーキとなってしまいます。繊細な技術なのでシチュエーションによっては有効だったりするので全てがそうとは言い切れませんがこういう入れ方をするとほぼほぼブレーキングになるというNGなやり方があるので紹介します。
一気に効かせる
前項までにも書いていますがラダーを一気に効かせるとボートの回転に対して水の抵抗が生まれるのでどうしても減速しがちです。また、一気に効かせようとする時というのは「曲がった!(曲がってしまった!)」と感じた時がほとんどで力を入れてラダーをうちます。そうするとラダーというよりはプライやブレーキのようになりどうしても減速しやすくなります。レースシーンにおいて1番多いのはこれではないでしょうか?隣の人がラダーを入れたが自分の感覚とは違ったり曲がりすぎたと感じて緊急的にクイッと戻すというのを双方に行って減速する場面が多い気がします。あくまでもラダーとは舵なので大きなラインを描く際に必要なので入れるものであり細かなブレを修正するものではありません。
回転軸とパワーポイントの意識
ラダーはプライとは違う曲がり方をするとは書きましたがどうしてもボートを曲げる技術なので回転軸の意識は必要です。個人的な感覚ではプライはバウ寄りに重心をおいて自分のいるスターン側を外に弾くようなイメージでスターンラダーは曲げたい方向に回転軸ごとボート全体を捻っていくといった感覚でしょうか(分かりにくくてすいません)。ラダーはターンというよりもボート全体を水の流れで運ぶといったイメージが強いです。
また、どうしてもキャッチやバウラダー・バックスイープ・プライといった回転に関する技術は慣性の関係上最初の一瞬に力がかかってあとは惰性(送りパドルに近い)のような感覚で次のパワーポイントまで流すものが多い中、スターンラダーだけはジワジワと効かせるのでパワーポイントを広めにモテなければいけません。そこが難しい点ではないでしょうか。
一瞬で曲げようとしたり回転軸を意識できていないと思ったように曲がらなかったり結局はブレーキによる強制的な方向転換になってしまいます。
のけぞった姿勢でのスターンラダー
前述したようにガイドが1番後ろに座るのはラダーがしやすいからで、後ろに行けば行くほどラダーは効きやすくなります。だからと言ってレースシーンで後ろにいる人が体を後傾させて後ろでラダーをするのは少々違います。
より後ろでラダーをしようとして体が後ろにのけぞってしまうと重心が後ろに下がります。前で漕いでいるとそれだけで場合によってはブレーキに感じることもあります。また、のけぞると姿勢を維持するためにパドルに体重を乗せがちになり一気に効かせるラダーになります。さらには のけぞっているので次にフォワードに行こうとした際に身体を起こしてさらに前に取りにいくという動作が入るので一拍遅れがちです。のけぞる(後傾する)という動作はやりがちですがあまりいいことはありません。
より後方で効くラダーを入れようとする場合は後傾するのではなく身体をひらくしかありません。身体をひらくというのはなかなか理解できないかもしれませんが、骨盤を回転させそこから連動する背骨や肩を外にひらくといった感じです。ここでは詳しく解説しきれないので詳しく知りたい方は個人レッスンを申し込んでください(笑)。
ひらく感覚云々以前に後傾する(のけぞる)というのはあまりいい影響をボートに与えないのでやらない方がいいでしょう。
まとめ
レースラフティングのシーンで後ろのラダー入れ合いはよく話題に上がります。ラダーを入れると減速するから極力入れるなという意見が多いですが、個人的には必要ならバンバン入れていいと思っています。「必要なら」というのが重要でまっすぐを作れないから後ろの2人が入れあうのはラダーではなく嫌がらせです。瀬の出口の中速コーナーやクイックに続く連続コーナーなどはラダーが必要不可欠です。4人or6人で乗るラフトボートの場合フォワードのパワーコントロールのみで回転させ慣性コントロールまでするというのはかなり難しいです。
まずは一度、前2人漕ぎ・後ろ1人ボート上で見学・後ろ1人スターンでラダーという具合で少し長めの瀬にエントリーからアウトまでやってみてお互いの癖を確認した上でスターンラダーの感覚を掴んでみるといいかもしれません。そこでお互いの癖が見えてくるかもしれません。スターンラダーの練習にもなる上にお互いの癖を知るいい機会かもしれません。
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