
前回に引き続き私がコーチングするならこのようなレース戦略でいくということで今回はスラローム『SL』について紹介します。前回と同じくあくまでもそこまで練習していないチームや寄せ集めチームが最良の結果を出すための戦略です。しっかりと練習しているチームは自分たちの信じる道を歩んだ方が結果が出るのでそのまま突き進んでください。
何とかリバベン前までに『SP』『SL』『DR』の記事を完成させるのが最近の目標です(笑)。書きたいことが多すぎて話がまとまらず公開前に頓挫する記事が多いのです・・・。『H2H』に関しては戦略云々よりも相手ありきの競技なので自分たちで考えるのも楽しみなのかなと思うので戦略について紹介するようなことは致しません。
リバベンの『SL』
正直いうとリバベンのSLはスラロームというよりも「高負荷スプリント」に近いと思っています。
私もオフィシャル経験者なので内部事情はよく知っていますが、リバベンではゲートは多くても8ゲートほどです。これは古くて重い木製ゲートを使うためという機材的な理由と、増水期のみなかみはかなり川幅が広がるためアンカーとしてワイヤーを使用するため学生オフィシャルだけでは限界があるという技術面二つの事情があります。
さらに37回大会以降SLはAKIKO区間になりましたが河川占有許可やアンカー(ゲートを吊るための支点)の関係上あまりバリエーションはありません。そんな中でも近年は多彩なバリエーションを提供できている方だなとオフィシャルの努力に感動しております。
話はそれましたがリバベンのゲート事情としては左右の公平性を保つためにも大体左右アップゲートは1:1となります。時折誘導アップがあるからという理由で偏ることもありますが張れる位置も限られていますし大体1:1です。その上Sターンなど特殊なことをしようとするとH2Hとゲートが共有できなくなってしまうので競技運営の観点からもシンプルなアップが多くなります。
そうなると必然的にダウンゲートはスタガーゲートの振りの深さと誘導ゲートの匙加減になってしまいます。ダイナミックな川でパワーのあるセクションを使って8ゲートほどなので、御岳カップのようなボートを回して走らせるというテクニカルなセットというよりはガンガン出力してとにかく全通を目指すというかなりダイナミックスラロームなセットになります。
この前提条件のもとレースを組み立てていきます。
レース戦略
ここからはSP同様具体的な戦略について考えていきます。
①スタートからゲート区間まで
親水公園下からスタートした場合でもゲート区間まではかなりあります。いつぞやの大会ではスプリントのスタートから発艇して光電管だけ新水公園下ということもありました。そうなるとSPのように最高速度を作ろうとすると加速レーンが長すぎて今度こそ疲れてしまいます。
SLの光電管上で重要なのは
⑴1番から2番に向かいやすい位置取り
⑵コントロールが効く最低限のスピードです
⑴1番から2番に向かいやすい位置取り
言わずもがな1番から2番がダウンゲート続きであれば1番の上にいる段階で直線で2番を狙える位置につけるのは鉄則です。極端なセットでない限りある程度の漕力があれば新水公園下は大きく左岸に抜けて位置取りはできるはずです。

図の右側の位置からスタートした方が楽そうなのは明らかです。
特にAKIKO区間は最初のシュートがキツすぎてコントロールを失いがちなのでしっかりとポジションを取れなければなりません。
⑵コントロールが効く最低限のスピード
重要なのは⑵です。⑴に集中するあまり艇速が足りずシュートに入るや否やコントロールを失うチームが非常に多いです。
ボートは流速よりも少しでも早く動いていないとコントロールが効かず翻弄されてしまいます。位置調整のために上流向き(フェリーアングル)でゆっくり移動していたりするといきなり本流に乗った際に置いていかれてしまい同時にコントロールが効かなくなります。
さらにみなかみは流速が尋常じゃなく速いので下流側に向かう力が強すぎて3時・9時方向といった横向きに進む力をつけるにはかなり漕がなければなりません。上下運動のあるウェーブ区間に侵入する前にある程度加速しておくことが重要です。
最悪なのは位置を調整している間に何となくでウェーブの吸い込みに乗ってしまうことです。最初のポジション調整は良くてもウェーブ内で加速させることはかなり困難なのでそのまままっすぐ流されてしまいます。

この図のようになっているチームをよく見ませんか?そうです我々です!笑
フェリーグライドで位置は調整するのですが加速レーンが足りず波に連れていかれてしまうのです。

結局のところ波に連れていかれる前に横向きである程度加速しておく時間が必要なのです。そうでなければ一番強い本流部分を横切れなくなってしまうのです。特に中央部分(本流のど真ん中)は下流に向かう力がかなり強くなるのでしっかりとボートが進んだ状態でないとウェーブによる上下運動も相まって全くコントロールが効かなくなります。
②中腹のアップゲート
AKIKO区間は一時期AKIKO DXと呼ばれるくらいまで凶悪化し、ゼベックサイズでも真っ直ぐ突っ込むと引きずり戻されて縦フリするくらいのストッパーになりました(やりかけました・・・)。しかし近年では素直なスタンディングウェーブになり両サイドにちょうど良いエディーを形成するようになりました。
この区間では正直フェリーのアングルさえキープできればアップゲートを落とすということもないですし、最悪やり直しも効くし何とでもなる区間かなと思います。
もちろん上を目指すなら漕がなければなりませんが、セットによっては右岸の壁に吸い寄せられることもあるので出力調整やラインはセット次第になってしまいます。
③出力のタイミング
SLはONとOFFを明確に使い分けなければいけない競技です。SPよりも降下タイムが伸びるので当然全区間全力疾走は不可能です。それでもダイナミックスラロームなリバベンにおいてはテクニックよりもパワーに依存するため漕がなければ順位は落ちてしまいます。
ということはアクセルをONにするタイミングとOFFにするタイミングが必要になります。
SLのテクニックの一つなのですがゲートに合わせるためアップゲートのエントリが始まるタイミングでわざと回転数を抑えたりします。何度か解説していますが「踏み切り」はタイミングが命です。そこに合わせるためには手段は問わないのです。細かく漕いで合わせる選手もいれば漕がないで合わせる選手もいます。しかし、ラフティングの場合はボートも大きく直進の慣性も大きいので細かく漕いで合わせてもその間のパドリングはほとんどボートに伝わりません。そこで漕がないでタイミングを合わせる技術を使って休憩区間を挟むのです。全く漕がないわけではなくペースを落として息を整えながら丁寧にエントリーするのです。そこまでにしっかりと加速ができていればアップゲートの手前でペースを落としても問題ありません。そしてしっかりとゲート下に入ったら再度出力を始めます。丁寧に入って力強く出るを意識して漕ぐのが重要です。
④全体のピッチ
一概にこのピッチがオススメというのはありませんが、ゲート間の巡航では目安75BPMくらいが理想ではないでしょうか。スプリント同様70BPMとなると競技としては少し遅いかなという感じです。
当然漕げるのであればもっと回しても良いですが問題はアップゲート下です。アップゲート下は「漕がないと・・・!!」という意識が先行しすぎて引けていないのにピッチだけあげてしまい、ただただパドルを抜き差ししているチームが非常に多いです。そんな時は1パドルだけ思いっきり前に刺してピッチ無視でゆっくりでもいいから後ろまで引き切ると前に進むことがあります。引けないとしても抜かずにパドルを入れたままにして引こうとし続けるだけでもボートは進もうとしてくれます。
SLの場合にはあまりこのピッチというのはありませんがポイントはアップゲートで抜かないことというのだけはお伝えしておきます。
⑤レースづくり
ラインづくりはそのチームのコンセプトやスタイルを表現します。いつぞやの御岳カップで弘大のレジェンドH君と弘大のチームから余った新1年生二人を連れて教育艇をやりましたが他のチームが全てバウから通そうとするセットで要所要所で切り返しやフェリーアングルを使いながら現役艇には勝利しました。H君も納得の上で「カッコ悪くてもいいからこのメンバーでのベストを尽くして結果を出す!」というある意味デモランに近いコンセプトのレースを組みました。
自分たちの性能に合わせたベストを作るのがレースです。
ラインや通り方はそのチームであーでもないこーでもないと言いながら相談するのがレースの醍醐味なのでここで細かい組み立て方を解説することはしませんが、個人的にはあまり細かくレースの予定調和を作るのは好きではありません。
カヌースラロームの場合は個人競技なので色々と考えたり練習でもどのゲートをどういった通り方で何パドル漕いでというのを決めたりもしますが、ラフティングでそこまでやってしまうと崩れた時にリカバリーができなくなることが多いです。
そのためOB寄せ集めチームでは頭から行くのか切り返すのか、どこで出力をするのか、ゲートに対するキッカケは誰なのかというレースの「アウトライン(大枠)」だけ決めてあとは個人のベストを尽くすという方がやりやすいですし結果が出る印象があります。教育艇の場合も似たような感じで私が先輩で後輩達を乗せるならどうしてもそのポジションでやって欲しいキッカケ(ストリームインのキャッチやフェリーグライドのアングルキープ)などのレース概要を伝えてそれ以外はペースを作って前漕ぎのみをしてもらいます。どうしても色々覚えると前でも後ろでも操船したくなるのですが、みなかみのパワーの前で新人の操船は残念ながらタイミングも合わず効かないことの方が多いです。
2本1採用の罠
SLはレースの性質上「2本1採用」です。言わずもがな2本やって良いタイムを採用する方式です。そのため多くのチームが1本目は置きに行きます。そして1本目で成功したら2本目は攻め、1本目で万が一失敗したら安定で取りに行くという相談をするのですが、経験上この相談をして成功したことはありません!笑
オススメは「1本しかないつもりで全力!」です。
スラロームのフルランは本来1日に何本もできるものではありません。それくらい負荷が高いのです。日程的にスプリント後の1度全開を出し切った状態でSL2本というのはいくらトレーニングをしていても体力が保つわけ無いのです。
「2本できるし失敗しても修正すれば良い!スラロームは修正力だから!!」とタカを括っていると失敗します。体力のある1本目に全力をぶつけた方が成功率が高いのです。さらに2本目というのは1本目の上手くいったポイント、修正したいポイントのイメージを引きずります。「1本目でここは上手くできたから2本目も同じようにやらないと」というプレッシャー、「ここで流されて失敗したけど次はどうなる・・・?」というトラウマなどが自分達をメンタル的にも苦しめます。体力も残っていてクリアなイメージでいける1本目の方が結果は出しやすいのです。
実際御岳カップなどでも2本やったけど結局1本目が採用されたという経験がある人も多いのでは無いでしょうか?しっかりと練習して積み上げたチームは2本目で修正できるかもしれませんが、寄り合いOBや新人艇で2本目に修正はなかなか難しいというのが現実です。
2本1採用制で求められる能力は「修正力」ではなく1本目から全開でいける「勇気」なのかもしれません。
レース方式の補足
話は少し逸れますがレース方式には何種類かあります。
一般的なのはこれまで紹介してきた「2本1採用」ですが、これ以外も知っておいて損はありません。
①1本1採用
カヌーの決勝などで採用されている方式です。
カヌースラロームでは国際大会レベルになると予選と決勝はセットを変えなければなりません。国内大会では予選と決勝が同じセットで行われていることもありますが厳密には変えなければいけないのです。
当然決勝は全員1本です。この1本に全てをかけて漕ぎます。
漕力、流れを読む力、考えたラインをトレースする力、不意に変わる流れに瞬時に反応する力など総合力が求められる方式です。
決勝の出走順は予選の順位の遅い順というのが一般的です。後続の選手は先に出た選手の漕ぎを見て戦略を修正できます。ここで予選の順位も絡んで予選で手を抜きすぎると痛い目を見るという抑止力にもなります。
1本しか無いという緊張感と全力をぶつけるという気持ちが混ざり合う「総合力」のレースが生まれるのが1本1採用です。
②2本2採用
現役の選手などは馴染みのない方式かもしれません。2本漕いで2本のタイムの合算が最も早いチームが勝ちという方式です。
実は第2回御岳カップあたりで採用されたことのある方式です。
個人的には非常に画期的な方式でレースラフティングには最適な方式だと思っています。
1本目というのは川やセットを見たイメージだけでレースを組み立て表現する能力が問われます。言ってしまえば経験が技術を支えます。そして2本目は2本やる体力とチーム練習をしてきた意思疎通が修正力を支えます。
2本できると流れを読むのが下手で1本目ボロボロでも普段練習してるから2本目で追い上げるということが可能になってしまうのです。大会運営競技担当の価値観にはなるのですが、2本1採用方式は1本目からしっかりと流れに合わせて結果を出したチームは都合の良いダシにされて終わりというなんともあと味の悪い終わり方をすることも多い方式です。
それを解決するのが2本2採用です!1本目を落としすぎると2本目での追い上げが難しくなります。逆に2本やる体力がないチームでは2本目で落ちてしまいます。さらに川の技術で大事な同じ場所で同じことが何回もできる「再現性」を問うレースにもなり個人的には2本2採用はかなり画期的なレースだと思っています。
経験豊富なOBチームと、まだまだ若いけど体力はあってしっかり練習してきた現役チームのどちらに対してもそれぞれフェアな土俵で闘わせてくれる方式だと思っています。
最後に
スラロームは技術を問われる競技かと思いきや、リバベンでは普通に体力を問われます!笑
戦略という戦略はあってないようなものです。強いていうなら流されそうになった時に瞬時にフェリーアングルに切り替えて耐えられるリカバリー力と、スペースのない場所から加速させる瞬発力です。加速は体力だろ!と思うかもしれませんが、小スペースで最大の加速は実はパワーではなくテクニックです。
小スペース加速などといった技術を極める練習はぜひ自分達で探してみてください!
(ヒントはボートの使い方と脚の踏み方です!!)

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