ダウンリバールール

 近年ラフティングのレースシーンにおいて「一斉発艇」や「複数艇同時発艇」の方式が増えてきました。『クロスレース(参考動画)』のようにそもそもぶつかり合うことが目的となっている競技であれば何艇同時発艇でも構いませんし、選手側もそれを楽しみに行っているので全然いいでしょう。

しかし、そもそもぶつかり合うことを前提としていないのに同時発艇させることによりぶつかりあいになってしまう競技があります。タイトルにもありますが『ダウンリバー』です。全くもって守られていないルールですが、ダウンリバー競技においてH2Hのような行為をするのは本来禁止です。

今回はこの守られていないルールについて少し解説します。プロテストをもらってから「知りませんでした。」は通用しません。IRFの競技規則に載っています。

ダウンリバー競技

規定を見ていくと現在は国際大会でも4〜8艇同時発艇までは認められているようです。ただ、川の安全やできるだけ公平になるように、公平にできない場合はリザルト順に選択権が云々といったことが英語で書かれています。

問題はそこではなくペナルティー規定です。

ペナルティー規定の一言目に「ダウンリバーにおける意図的なブロッキング行為は禁止。」と書かれています。このことからもダウンリバーはバチバチやり合う競技ではないという本来の競技性の意図が読み取れます。

さらに読み進めると、「ブロッキングしたチームは+10秒のペナルティー」「ブロッキングを受けたチームは−10秒の措置」ということが書かれています。細かくパドル対パドル・パドル対選手・ラフト対・・・・といったことは書かれていますが基本的に妨害行為は禁止です。

ここでポイントになるのは同じ発艇組みだからやり合ってもOKということではないということです。その昔1艇ずつ1分間隔でスタートしていた時代を知っている人は追いつかれたらコースオープンというルールを知っている人がたまにいますが、現在の同時発艇方式しか知らない選手はここの認識がズレている選手が多いように感じます。同じ組みだろうが後続の組みだろうが基本的に妨害行為はNGです。

現実問題

しかし、いくら禁止とはいえ常に全コースを審判が見ているわけではないのでそれがなかなか証明できないというのが現実です。また、意図的なブロックなのかスタックしてスライドしただけなのかわからないといった相手側の事情が入ってくるのでこのプロテストを通すのはなかなか難しいところがあります。御岳のように全般的に狭い川や瀬の中ではいくら通してコースオープンしたくても避けられないという場面もあります。追い越せるポイントもわきまえず抜きにかかって妨害されましたというのも理不尽です。

実際この件で日本レースラフティング協会に問い合わせたところ「確かにルールではそうなっているが、ダウンリバーのプロテストはほとんど通らないのが現実。」ということでした。つまるところ「大会運営者、レースディレクターによる。」ということでした。

対抗手段

ダウンリバー競技をより公平に行うためにはやはりGoProなどのアクションカムを積んで証拠映像を残していくというのが最善の手段でしょう。日本レースラフティング協会さんも「基本的にプロテストは映像ありきなので証拠がないとまずできない。」ということでした。しかし、この方法はお金がかかるという欠点があります。また、水没させたり水滴で重要なところが映らないといったトラブルもつきものです。これはテクニック・マナーの類ですが「カメラで撮っているから大丈夫。」ではなく、追いついたら「左から抜きまーす!」「追いついたんで前でます!」といったように声かけやボート間でのコミュニケーションも必要です。声をかけたにもかかわらず意図的なブロック行為をされた場合はその声そのものが映像に残ったりするのでより信憑性が増します。

また、別の方法で『キャプテンミーティングで確認する。』という方法もあります。キャプテンミーティングは各チームのキャプテンと運営側の競技責任者が話す場です。ここで次の競技規定についてしっかり確認しておくことも重要です。キャプテンミーティングや代表者会議は公式な場なのでここで議題にあげて知りませんでしたは許されません。ここで関係者全員に今一度「妨害行為は禁止ですよね。」という意識を植え付けるのも重要です。

最後は・・・

どんな対抗手段を取ろうがGoProを積もうが妨害してくるチームは必ずいます。勝ちたい一心でやってくるチームは存在するのです。「見えなければ問題ない。」「バレなければ問題ない。」「言われたら岩に乗り上げてとか、波に押されてとか言い訳はできる。」と考えるチームは必ずいます。そんな意識がなくても同時発艇はそれまでのリザルトが近いチームと組まされるのでどうしても抜かせたくないという思いが働いてしまうのでしょう。

ここまでいってしまうともはや対抗手段がありません。最後は選手の「フェアプレー精神」に委ねるしかないのです。そこで「そっちがその気なら!」とやり合ってしまうとそのチームと同類です。

フェアプレー精神に反するということは極論するとドーピングをするのと変わりません。大会までに成分が抜けて検査で出なければいいんだろという考え方と同じです。ちなみにカヌー競技でもそうですが、ナショナルや国体レベルの選手でアンチドーピングに引っかかると想像を遥かに超える罰則があります。大会の記録なしどころではなく出場停止○年、出場資格停止、出場資格剥奪は当たり前ですが、悪質なものになると協会からの除名処分なども存在します。

見られなければラフプレーをしてもいいという考え方は競技そのものの品格を穢すということです。

ここまで読んでくださったみなさんはそれを肝に銘じてプレーしてください!

備考

それではなぜそんなやり合いたくなる同時発艇をするのかです。

ここからは勝手な推測(リバベンオフィシャル経験からも)ですが、ほぼほぼ運営の都合でしょう。

前述したようにその昔は1艇ずつのこともありました。しかし、これでは競技時間が長くなってしまいます。40チームを1分間隔で発艇させたとして40分かかります。さらにダウンリバー自体がおおよそ40分の競技なので最後のチームは80分近く競技時間があることになってしまいます。また、複数艇でいってもらったほうが万が一途中でどこかのチームがフリップやトラブルに見舞われた際に「どこまでは後ろにいた。」という証言がもらえたりと安全面的にはいいことがあります。

あまり昔話をしてもしょうがありませんが、私がレースを始めた当時はそれまでのSL・SP・H2Hのリザルトが低い順に1艇1分間隔発艇でした。これは完全に運営の都合です。初めに遅いチームが出て、最後に早いチームだと競技時間が全体で短くなるのです。当然毎年のように選手側から「遅いチームが前にいて邪魔!」という声が上がりました。そこでIRFの規定にも現在では「速いチーム(グループ)から・・・」と書かれるようになりました。選手から声をあげていきそこに正当な理由と競技性を上げる真意があればルールは変わります。

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