ラフティングの基本⑥【流水練習の応用】

ラフティングの基本ということで流水練習の導入編流水練習編と2回にわたって解説してきました。

ここまでの練習内容は一つ一つの技術に着目した基礎的な練習でしたが応用編では少し長くしたコンビネーションの練習を紹介します。

練習でも実践を意識したコースを

これまで様々なチームの練習を見てきましたが、ほとんどが単発の練習です。フェリーグライドならフェリーグライドだけ、ストリームインならひたすらストリームインといった練習です。ゲートを使った練習でも2本しかゲートが用意できなければその区間だけといった具合です。

その区間でもしっかりと漕ぎ切ればまだいいですが少しでも失敗するとそこで終了してスタートに戻るというチームがいます。失敗した際に諦めてしまうのは実にもったいない行為です。そこで続けていかにリカバリーに持っていけるかというチャンスを失っているということになります。実戦では失敗したからといってタイマーはストップしませんしゲート審査は続きます。そして後になってから「あそこで失敗して流したからね…」というかっこ悪すぎる言い訳をするチームの実に多いこと(←筆者心当たりあり笑)。

失敗するのは正直仕方ありません。相手が水なだけにどうしても予想がつかない部分もあります。しかしそれは全員平等です。予想外の動きがあったとしてもそれに順応する能力が必要なのです。普段の練習からそのような練習を積んでいれば焦ることなく対応できるはずです。

私のスラロームの師匠小田さん(みたけカヌー教室)もよくいっていましたが一本一本レースのつもりでいかなければいけません。失敗してやめると「お前はナショナルチームやオリンピックがかかったレースでも同じように手放すのか?もしかしたら他のやつも失敗するんだぞ。最後まで絶対止めるな!」といっていました。

練習で本番を意識できていなければ本番で力は出ません。小学校や中学校などの部活で散々使われてきた言い回しですがまさにその通りです。練習がその程度なら本番もその程度です。たかだか数十秒の練習コースと思わず全力で臨みましょう。

簡単なコースセット

これまで紹介してきたのは全て単発のものでした。リーンならリーンを深める練習、ストリームインなら同じセットで幅を出す練習などでしたが応用では簡単なコースを作ってコンビネーションを練習します。

例えばリバベンまで一緒に練習していた弘前大学を例に出すと図のような平行アップの練習コースをやっていました。

片道25秒から30秒ほどのかなり川幅のある平行アップです。落とされもせず漕ぎ上りもせず最速で平行アップするのが課題です。しかしこれでは単にフェリーグライドの練習にしかなりません。最初はこれくらい簡単な練習でも十分です。

しかし、これにちょっとしたお題を足すことで急にコンビネーションの練習になり応用編になります。

先程のお題に「行って戻ってきたら手前の流れにストリームイン。5パドル漕いだら戻ってきてスタート地点まで漕ぎのぼり」というお題を加えるだけでコースタイムも伸びますしペース配分やコンビネーションが変わります。

それまでただ戻って来れば良かっただけのものがストリームイン、ストリームアウトまで加味するので考えることが増えます。図にすると非常に単純ですし、言葉でも「終わったらそのままストリームインして戻ってくる」だけですがやると非常に繋がります。このように少しずつコースを伸ばしたりお題を増やしていくのが応用です。このストリームインも手前に入るのか本流に乗るのかで戻ってくるまでのタイムや難易度が調整できます。

お題やゲートは多すぎてもダメ

スラロームでコースに本番さながらのゲート(25ゲートなど)をセットして練習するのを「フルラン」と言います。実際カヌースラローム競技の決勝ともなると1本1採用なので全員が全力できます。フルランはそれを仮定した練習で本気でやると体力的には2本保つかどうかです。私の師匠小田さんも「人工コースで3本もフルランしたらあなたぶっ倒れるよ?!笑」と言っていました。本番を仮定した状態でその距離を漕ぐということは身体にもかなりの負荷がかかるし競技コース(特に人工コース)では流れが強いので真剣にやれば体力がもたないということです。実際レース1本約2分でもキツイのにそれを仮定して3本もできるわけありません。できるとしたらあらかじめ本数を決めて手を抜くしかありません。

練習を積んでいく段階で「フルラン」は最後の仕上げ状態であり、基礎的な練習ができていない人(チーム)がやるような練習ではありません。

通常の練習では5ゲートから10ゲートほど(ラフティングの場合は本数の加減が変わります)でコースタイム1分前後のセットを組んで出力する練習をしたりします。

低速・中速・高速

特にラフティングチームに多い傾向がありますが、ゲートを使った練習というとゲート間が詰まって連続したゲートをやりがちです。「テクニカルなコース」を仮定しているのかもしれませんが、そのようなゲートがあるのは国内レースだと御岳カップくらいで最大ゲート数8本のリバベンではほとんどありません。長良川wwfも例年12ゲートほどで3段の瀬自体がそこそこのロングコースなのでそこまでゲートは詰めてきません。

ゲートが詰まると加速レーンが短くなるのでトップスピードが下がります。このレーンをいかに高速で漕げるかは大事な能力の一つですが、そもそもみんなそこまで加速しきれないのでそんなに重要ではありません。このようなゲートが詰まっているセクションは低速セクションとしていかにミスなく抜けていけるかがキーになります。

この逆でゲート間が大きく空いてスピードが乗るセクションが高速セクションです。御岳でいうと小橋跡からタテ沈下くらいまでです。地形的にもゲートが設置できずゲート間がひらきます。ここではいかに最高速度でいられるかが重要になります。トップスピードのキープ能力が求められます。ラフトでは低速セクションよりも高速セクションの方が多いように感じます。

1番難しいのが中速セクションです。低速セクションほどゲートは詰まっていないが高速セクションほど加速レーンが取れない歯痒いセットでこれが1番多いです。全体的にスピードが遅いわけではないがギリギリトップスピードが出るか出ないかという距離で次のゲートが来るというもので、加速能力と艇の姿勢コントロールが要求される難しいセットです。

多くのチームがゲート練習となると低速セクションの練習をします。しかし、ゲートをクリアしながら短距離で加速する練習というのをしないので立ち上がりの意識が抜けたチームが多いです。中・高速セクションというのはスピードが出る分ボートコントロールが難しくなります。アップゲートの際に下流に向かって漕ぎすぎてエディーを破ってしまっい下流に落とされたチームを見たことはないでしょうか?それは完全に漕ぎすぎ・スピードコントロール能力不足によるものです。この中・高速域をいかにうまく漕いでいけるかがレースラフティングのシーンでは重要になってきます。最も簡単なのは練習用のゲート間を広げて高速セクションを生み出すというものですが、そこからもう一捻り加えて高速セクションからいきなり低速セクションに切り替えたりと緩急のあるアレンジを加えられるとなおいい練習になるでしょう。

まとめ:練習の幅

今回は流水練習の応用ということで基本的な練習にアレンジを加えて少し進んだ練習にする方法や意味について解説しました。

練習には「これをやれば最強になれる!」という練習プログラムはありません。いかに自分たちに足りないところを補って弱点を減らしていくかが重要です。

それぞれのチームにそれぞれ足りないところがあるかと思います。それを考え工夫していくのが醍醐味です。今回はあえて練習の紹介は最小限に抑えました。それぞれ工夫して面白い練習を作ってみてください。それでも行き詰まった時はコーチなどに見てもらうというのも一つの手かと思います。

普段練習する場所で普段練習するのと同じゲートだと飽きてしまいますし、何よりタイムが早くなったとしてもそれは単にコースになれただけです。練習メニューは少しずつ変更・アップグレードしていくことにより幅が出ます。そしてそれをうまく組み合わせることにより自分たちの弱点を補えるオリジナルのいい練習が生まれるはずです。

補足:不愉快なゲート

御岳時代にタマゾンカップでゲートセットをした際、出場した常連さんに「このゲートセット不愉快だ!笑」と言われたことがあります。もちろん半分はジョークです。何が不愉快かというと、ダウンゲートからアップゲートまでのエントリーがタイトな場所が多くラインが詰まってしまい気持ちよくターンができない上に、アップゲートもエディーラインに被るかどうかのいやらしい位置に置いてありスターンカットが決めにくいということでした。それを狙ったセットだったので「ありがとうございまーす!笑」という感じでした。このようにレース本番で「なんかうまくいかないセットだな・・・」「気持ちよく回らない」「漕ぎのぼり多くないか?」と思ったことはありませんか?その違和感がチームの弱点です。以前にも書いたかもしれませんが、ついついやり易いセットばかり練習したくなります。できることを極めるのもいいですが、まずは全体的にクリアできるように基礎を固めていく必要があります。

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