このブログでは何度かレースラフティングのガバガバルールについて触れてきました。
発展途上の競技なのでしょうがない面もあるのですが毎年のように世界大会を開催して毎年のように問題になったり揉めたりしているのに解決しようとしないということはIRFには何かしらの意図があるのでしょう。
そこで今回取り上げるのが『レスキュー問題』です。厳密にルールにレスキューはどうしなさいという旨は書かれていませんのでおそらくお得意の「レースディレクターにお任せします(丸投げ)!」なのでしょう。しかし、他のルールから矛盾がないように推察すると大問題な箇所がありそれが『レスキュー問題』です。
今回はIRF公式ルールの『レスキュー問題』について解説します。
リバベンや長良川wwfなどDR競技もある大会ではキャプテンミーティングで確認しないと最悪の場合人命に関わる重要なところです。
問題となるルール
そもそも何が問題かというとIRFのHPにある公式ルール19ページの冒頭「General rule for competition」の
「1.A raft must be upright and all Team Members must be in the raft when crossing the finish line. Penalty for infringement: 50 seconds.」
この部分です。
直訳すると
「ゴールラインを通過する際、ラフトは起き上がった状態で、チームメンバー全員がラフト内に乗っていなければなりません。違反に対するペナルティ: 50 秒。」
となります。
これのどこが問題かというと「違反に対するペナルティー:50秒」です。
フィニッシュラインを切る際に人が乗っていなくてもフィニッシュと認められてペナルティーで済んでしまうのです。これが「誰か一人でも落艇しクルー誰かしらの頭部がフィニッシュラインを通過した時点で失格(DNF)とする。」であれば今回のルール解釈に対しては問題ないのです。
また、セーフティーの項目にもフリップリカバリーや再乗艇の項目があるのでレースラフティングにおいてはリスタートが認められているということになります。
ということは…
『ゴールラインを切ろうが選手が◯んでいようが対象のチームから意思表示があるまでレスキューはしてはいけない。』
ということになります。
レスキュー=失格
基本的には「レスキューが入る=失格(DNF)」です。
ペナルティー50秒と定められている以上選手が自ら棄権しない限りゴールを目指すことは可能です。
なんならフリップして全員がボートから離れて最初の選手と最後の選手のフィニッシュライン通過が10分以上空いてコース内に散乱物があってもゴールは認められペナルティー50秒です。
フリップしても競技が続くということはそういうことになります。
それをレースディレクターが「現場のレスキュースタッフの判断に委ねる。」という形にしてしまうと今度はレスキュースタッフに選手を失格にする権利を与える・審判と同じ権利を与えるということになってしまい気に入らないチームは失格で応援しているチームは手を出さず指示出して助けたりと別のルールも整備しなければなってしまいます。一人だけ落艇して偶然レスキュー艇に流れ着きサイドロープに触れた時点でレスキュー艇を使ったということになり失格ということもできるのです。こうなってしまうとレスキュー艇のお世話になっておきながら「自分たちはまだやれた!」「リカバリーするつもりだった!」「勝手に助けたレスキュー艇が悪い!」といってプロテストを受けたらどうするつもりなのでしょうか?
大原則は『レスキュー=失格』なのでどこでDNFの判定を下すのか明記しない限り公正・公平なレースにはなりませんし、ケガ人が出ていてもレスキューは棒立ちという可能性もあります。
このルールによるリスク
ここまで散々解説してきましたが、このルールがある限りレスキュー艇やスポッターは選手から意思表示があるまで基本的には動けません。
当然それによる最大のリスクは事故が起きているにもかかわらず助けないというものです。溺水によって意思表示できない場合でも同チームのクルーがそれに気づかず「まだやれます!」というとどうしようもないのです。現実ではレスキューも常識の範囲で自身の判断で動きますがそのような揉め事になる可能性も少なからずあります。
これは事故が起きた最悪のケースですが、このルールによる弊害は他のところでも起きます。
例えば [スラロームの競技中にフリップしてパドルやペットボトルなど様々なものがバラバラに流れていたとします。ボートはアップゲートがあるエディーなどに捕まってポールを揺らしながら漂っています。選手は全員陸に上がってリスタートを試みようとしていますがパドルも別のエディーに流れていたりサンダルが脱げてしまい岩場を歩くのが困難な選手もいてリカバリーは難航しているようです。]
このような場合はどうでしょうか?
他の選手たちは「はやく失格にしてコース片付けろよ!」と思うでしょうがルール上ボートも選手もコース内にとどまっているのでレースを継続する権利はあります。目の前に流れてきたとしてもスポッターやレスキュー艇も選手に継続の意思があるので手出し出来ず見守るしかない状態となってしまいます。
現実的にはフリップした際は近場で見ている選手やレスキューが助けて試合を継続させてくれることもあります。しかし、本来は失格の案件ですしフリップでコースをクローズにするということは円滑な運営の妨げにもなります。
他の競技の場合
他のパドルスポーツの場合はどうなっているかも解説しておきます。
①カヌースラローム
カヌースラロームではひっくり返っただけでロールで起き上がれば試合継続可能、ひっくり返ってボートから抜けて泳いだ場合その時点で失格=レスキュー対象です。
スラロームの場合レースにもよりますが2分間隔でどんどん発艇してくるので泳いでいちいち水抜きしてなんていう時間は取れません。そのため泳いだ瞬間失格です。
②カヌースプリント
カヌースプリントでは「転覆の際、選手が外的援助なしに艇に乗り込むことができなければ、その競技種目を失格とする。」とあるので水上で沖乗りできれば失格にはなりません。ちなみにスプリントは漕行レーンが指定されている(1000m競技まで)ので陸まで泳いで再乗艇ではなくバランス能力皆無の艇に水上で乗らなければならない上に勝つことはないので転覆の場合は大体みんな諦めて立ち泳ぎでレスキュー艇を待ちます。
このルールが適用されるのは「island to island」という超長距離レースなどもスプリントルールで行うことがあるためです。レースによっては20km以上漕ぐこともあり、そういった競技では艇同士の接触やちょっとした気の緩みから落艇することもよくあるのでPFDを装着していたり沖乗りの練習をしていたりします。
③ワイルドウォーター
ワイルドウォーターカヌーが最もラフティングに近いかもしれません。ワイルドウォーターには「スプリント」と「クラシック」があり、スプリントは200m ー600mの競技なのですが、クラシックは「60分以下で漕げる…」となっており海外ではラフトのDRよりはるかに長いコース設定もあります。
クラシック競技の特性上、全コースを審判・レスキュー艇でカバーすることができないので再乗艇後のリスタートが認められています。そのためレスキューに対する意思表示をしなければレスキューをしないというスタイルです。ただし、それでは危険なのでコース内に数箇所審判が立っていて不正がないかと同時に安全かどうかも見ています。また、安全主任や安全員という仕事がありその人たちの判断に委ねられています。また、選手間でのレスキューが義務付けられておりレスキューしなかった場合は永久失格という追放と変わらない処分が下されることもあります。もちろんレスキューされた側の選手は外部からの援助を受けたということになり失格です。援助した選手は抗議により正当性が認められればサイレースなどの処置も本部判断により可能です。
まとめ
レースラフティングの場合4種目レースになると色々な競技特性を持ってくるので本来であればそれぞれに失格や脱艇の規定を細かく設けるべきなのかもしれません。
完璧なルールというものはもちろんこの世にありませんが、レースラフティングの国際ルールはあまりにもガバガバすぎて読んでいて笑えてくるものもあります。
これから競技に取り組もうという方や、世界大会目指して先行レースに出ようという方は国際ルールを一度読んでみてください。
否定だけして個人の意見を言わないのはずるいと思うので筆者個人の意見を載せておきます。
◯ゴール規定(全競技共通):誰か一人でも落水してのゴールは認めない。一人だけ落水し、その選手がフィニッシュラインを通過、もしくはボートの一部がフィニッシュラインを通過した場合その時点でDNFとする。(クルーが完璧に揃ったゴール以外は失格)
◯スラローム/スプリント/H2H 競技:コース長・発艇間隔の短さから同時に二人以上落艇した場合はその場で失格とする(DNF)。一人のみ落艇の場合は再スタート可能。ただし二人ともサイドロープを掴んでおり速やかなリカバリーが認められる場合はその限りではない。3人以上同時の落艇は失格。
◯DR:フリップリカバリーによる再スタートは原則可能。他チームのフリップ発見時はチーム間でのレスキュー義務。その際レスキューされたチームは失格とし、レスキュー活動による失格判定に対する抗議は認めない。概ねレスキューに入る基準はクルー全員がボートから離れてしまい、ボート単独で流されている場合は競技続行不可の判断。ボートに一人以上取り付いてパドルを保持しており競技続行の意思がある場合は並走によるバックアップ体制をとる。流されているクルーに意思確認をし意思表示ができない(溺水による意識低下等)が認められる場合は競技続行不可によるレスキュー活動を開始(その後の失格判定に対するプロテストは認めない)。
といったところでしょうか?もちろんこれだけでは不十分ですし抜けはありますが、現行のルールに比べればマシかと思います。
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