今回は普段私が個人的に取り入れている練習を紹介していきます。
以前紹介した「練習時間の確保」などと合わせて普段の練習の参考にしてみてください。
練習で意識する点や時間配分ステップアップのための制限事例などを紹介していきます。最初の練習は『平行アップ』(流水ver)です。
基本的な練習構成
『平行アップ』とはアップゲートがほぼ同じハイラインの位置に張られているセットのことを言います。
ハイラインというのはゲートを吊るすためのワイヤーや紐のことをいいます。図のように一本のハイラインに2本のゲートを吊り下げて全く同じ高さに張ることもあれば地形やエディーの関係で2本を近い位置に張って吊る場合もあります。
いずれにしろほぼ平行な位置にあるエディーに同じようなアップゲートを張るセットを「平行アップ」と呼びます。多くの場合平行アップの課題(セッターの意図)はフェリーグライドです。さらに深く掘ると「フェリーグライド+リーン切替」や「ストッパーをかわしたフェリーグライド」「ウェーブを使ったフェリーグライド」などバリエーションは豊富です。
ここでは「フェリーグライド+リーン切替」をメインに練習方法やコースづくりについて解説していきます。
①コースデザイン
練習用のコースデザインは非常にシンプルで下の平行アップイメージ図を作るだけです。
可能であれば2本ポールが理想ですが玉紐だと重量に耐えられず下がってくるという場合は片側1本ずつでも可能です。
川の幅などによって制限はありますが1往復競技スピードで漕いで20秒前後であれば練習が組みやすいです。
静水で同じようなセットを張って「8の字」という練習も存在しますがゲートの張り方は一緒でも8の字とは全くテイストが異なります。静水8の字はそれはそれで良さがあるのですが、この練習はあくまでも流水で行う練習ですので勘違いしないようにしてください。
みんな大好き「御岳カップ」を行う御岳渓谷であれば何ヶ所かこのセットが組める場所があります。杣の小橋・コンセプト前・歯っ欠け・縦チン下などが比較的張りやすいです。ただ、歯っ欠けは練習するにしては水圧が高すぎるのと複数艇で停滞できないので最初は杣の小橋かコンセプト前がオススメです。
②セット数・本数
このブログでよく出てくるインターバルトレーニングを軸にそれを川で行う事が前提のメニューです。そのため考え方としては他のインターバルトレーニングと同じで大体10本1setで1本が90秒から120秒ほどです。1往復20秒のセットなので5往復で100秒ほどでそこそこ良いセットが組めます。このような短い周回コースを何往復もしていると「今何本目だっけ・・・?」となるのですがそれも含めて練習です。
セット数はチームによって普段の練習や他にやりたい練習があると思うので特段これ以上やった方が良いというものはありません。ただ、最低でも1set10本以上から組まないと効果は薄いです。
③アレンジ
この練習の欠点は同じ練習ばかりで飽きやすいという点です。川に出たのにひたすらグルグル同じところを回るだけ(練習ってそんなもんと言えばそれまでですが…)で時間を増やそうと思うと周回数を増やすだけというのが飽きやすいポイントかと思います。
そこで必要となるのがコースのバリエーションですが何種類かあります。
- 周回数は増やさず最後の1往復後にストリームインしてゴール地点を変更する
- ゴール後(スタート地点を下流に持っていくでも可)漕ぎのぼる区間を設ける
- 最後のゲートだけ2周回る
などアレンジ方法はいくらでもあります。川での練習なのでストリームインして下のエディーまで行って漕ぎ上がるというのが最も一般的です。ただし地形的になかなか難しい場所もあるのでその場所に合わせたアレンジが必要です。
意識するポイント
ここからはこの練習中に意識していくポイントを解説します。練習の意味や目的となる部分なので練習中も意識する事が重要です。
①タイムの減衰 (客観的指標)
インターバルトレーニングを行う上でタイムの変動幅は最も重要な項目です。タイムを取らないなんていうのは論外ですが、何本目からタイムが悪くなり始めたのかも非常に重要な指標となります。
インターバルトレーニングにしろ普段の練習にしろ基本的にはレースで勝つためにやることなので特段指定がない限りはレース想定の出力と気持ちで臨みます。そうなると理想は1本目or2本目でベストタイムです。3本目以降は通常レースに存在しないのでそこでベストタイムが出ているということは事前アップの仕方が良くないかレースと同じようにコースを攻略してやろうという意識が足りずコースに慣れてきたからタイムが良くなり始めるということになります。最悪なのは10本目にベストタイムが来るパターンで「今まで9本手を抜いていた。」か「インターバルの休憩が長すぎる。」ということになり練習の質が全体通して低いということになります。
②連続する再現性 (主観的指標+客観的指標)
セット数・本数の項目でも少し触れましたが平行アップのように連続する同じセットをやっていると「今何往復目…?」といった具合に集中力が続かなくなってきます。そして5往復をベースに考えるとだいたい3往復目あたりで単純なフェリーグライドをミスしたりします。踏み切りの1パドルが合わずにバウが振られてしまったりエディーでの内側バウのキャッチタイミングがずれて大きく膨らんだりとどこかしらでミスが出てきます。同じことを繰り返せば繰り返すほどマンネリ化してきてどうでもいいところで集中力が切れてミスしてしまうものです。
これを5本なら5本ビシッと同じ品質でこなせる集中力を養うというのも非常に重要です。
スラロームレースで1本目が終わって2本目に修正案をいろいろ考えたけど違うところでミスしてしまったという経験のある方はこれが原因かもしれません。当然本数をこなすと疲労感も蓄積するので集中は切れやすくなってしまいがちです。疲労蓄積による集中力低下は避けられないのでその低下をいかに少なく抑えられるかの練習にもなります。
また、動画を撮ったりしていると左右どちらのタイミングでミスするのかやボートがどのような状態になったときのリカバリーが苦手なのか傾向もわかったりします。
5往復を10本1setしっかりとタイムも出しながら技術的ミスなく決められるようにならなければまだまだ安定した技術ではないということになります。
③リーン切り替え (主観的指標+客観的指標)
この練習における技術的なポイントとしてはなんといってもリーンの切り替えです。とはいえ初めのうちはリーンしなくてもひっくり返らないような緩やかな流れで練習して慣れてきたら多少リーンを使った方が早く動ける流れで練習するのがオススメです。
ポイントはニュートラルポジションも上手く使ってあげることです。リーンというと「傾ける」と思っている方もいますが、流れに対してボートの様々な面を合わせて漕がずともボートを動かすというのがリーン本来の目的です。フェリーグライドが連続する平行アップにおいてはリーンの切り替えをどこで行うかによってボートの挙動が全く変わります。
上の図を使って簡単に解説します。まずStart位置ではニュートラルです。 Startから①の踏み切りに向かうあたりで2時アングル2時ベクトルで右リーンをしバウが落とされるのを防ぎます。 その後最も流れの強い②付近ではしっかりとリーンをしながら徐々にバウが流れに押されて3時の方向へと回されながら進んでいきます。 ②で最も強い流れは超えて進む力も得ているので③に向かう手前では徐々にニュートラルに戻っていきます。 ③→④では再度エディーに入るので左リーンをしながら左バウの選手が踏み切り→キャッチの動作に入ります。 ④のエディー内では左リーンからニュートラルに戻します。カヌーであればここで少し右リーンをかけてスターンカットを入れたりできますがラフトではニュートラルで良いでしょう。場合によってカービングターンをするのであれば③からそのまま⑤まで左リーンキープでも大丈夫でしょう。ただし⑤の位置ではニュートラルに戻っているのが理想です。
長々と書いてしまいましたが[ニュートラル→右リーン→ニュートラル→左リーン→ニュートラル→これの逆・・・]を連続的に滑らかにできるようになれば上手くいきます。
リーンはかけ始めるタイミングももちろん重要ですが終わるタイミングや終わり方も重要です。
制限項目
ここではコースアレンジに加えてこの平行アップ練習でできる制限やアレンジについて紹介します。平行アップのみならず他の練習にも使える制限もあったりするので参考にしてみてください。
①パドル数制限
このような練習で必ず出てくるのがパドル数による制限です。
インターバル練習ではとにかくタイムを求めるのでガンガン漕ぎますがそのあとのダウンがてら何パドルで往復できるか(タイムも測った上で)チャレンジをしてみたりするのも面白いでしょう。
動画を撮っていたりすると1本目は何パドル2本目は何パドルといった具合でパドル数もカウントできます。そうすると2回目以降同じ練習をするときはどれくらい漕いでいれば漕ぎすぎ・漕がなすぎという指標が出るのでタイムと合わせて数えてみるのもありです。練習時のやり方としては1分半程のコースなのでパドルカウントを1・2・1・2のテンポだけとるコールではなく、1・2・3・4…と少し伸ばしてコールするカウントアップ方式でやるとやりやすいでしょう。
②リーン制限
あまり水圧の強い場所では行えませんが御岳であれば杣の小橋やコンセプト前でリーンを制限した練習もできます。アングルとベクトルさえ合っていればラフトなら軽い逆リーンでも攻略できる場所です。逆リーンではありませんが実際に練習するときのやり方として全体通してニュートラルキープという練習もあります。
対岸にフェリーグライドしてアップゲートしている際の内傾リーンをどこで辞めるかの制限を設けるのもリーンの制限になります。エディーインからアウトまで内径リーンを辞めずそのままカービングで一連の動作で出るということもできるのでリーンの制限も意識的に行うと良い練習になります。
③技術制限
パドル数制限やリーン制限よりも調整が簡単でやりやすいのが技術制限です。「技術」と大きな括りで捉えるとリーンやパドル数減少も技術なのでここでは「パドルワーク」「漕ぎ方」と捉えてください。
簡単なところでいうと「アップゲート時の外側二人スイープ禁止」や「フェリーグライド時の下流側二人スイープ禁止」「フェリーグライド時上流側スターンラダー禁止」などの禁止制限があります。それ以外にも「アップゲート内側バウはバックスイープ→立ち上げ指定」や「エディーエントリー時2時10時指定」といった禁止ではなくここで必ずこのやり方で攻略してくださいという技術を指定した制限もあります。
指定は裏を返せば「禁止」に見えるかもしれませんが少々異なります。例えば「アップゲート内側バウはバックスイープ→立ち上げ指定」は捉え方によっては「アップゲート内側バウはキャッチ禁止」となります。しかし、キャッチ禁止ということは送りパドルからのスライスで待ってフォワードも可能ですし、ラインをキツめにして身体で避けてその後ただフォワードもありということになります。そうではなく「必ずその場でその技術を使って通過してください。それ以外のことをしたら条件不履行による失敗とみなします。」というのが指定です。意外と必ずここでコレをやらなければならないとなると前後の調整が難しく失敗する人も出てきます。
まずは「スイープ禁止」などの簡単な禁止制限から初めてみることをオススメします。
まとめ
今回は実際に私もスラローム艇などで行っていた平行アップの練習について簡単に紹介しました。
静水の8の字とはテイストが違うので一緒にしないように注意してください。シンプルな連続左右アップですが攻略スピードを上げようと思うとなかなか奥が深い練習の一つでありながらシンプルが故に制限項目もたくさん取れる練習です。
ゲートも玉紐一本とポール2本で完成する超絶シンプル構造なので作りやすいですしオススメです。
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