長良川WWFに続いて秋の御岳カップも終わり2024年シーズンも残すところ東京パドリングゲームスのみとなりました。いよいよまた冬がやってきてしまいます。関東以南のチームは気合さえ入れれば冬でも漕げるかもしれませんが雪国はなかなか冬季間に漕ぐことはできません。寒いというよりも積雪により川までの道がなくなってしまいます。
そんな冬季間は屋内トレーニングやウィンタースポーツなどパドリングから離れて過ごしたり、壊れたギア類のリペアに時間を使ったりします。シーズン中応急処置に応急処置を重ねたようなボートで営業していたりするのでそれを丁寧に治したりします。
近年レースラフティングで使用される事が多いグモテックス/コロラドは他のラフトボートに比べても比較的安価(近年かなり値上がりしていますが…)で壊れたら買い替える方が早いというボートだったのでリペアの技術も引き継がれず失われていっているような気がします。
そこで今回は簡単なボートリペアについて大まかに解説していきます。
!!注意!!リペア方法はボートの損傷状態や経年劣化の具合・破損箇所などによって都度変わります。あくまでも一例や一般論です。修理した際の責任は負いかねます。
修理不可能な損傷
事前にお伝えしておくとバーストにおいてパーツ交換や業者規模での工具を用いないと修理不可能なものが何点かありますのでそれを先に解説します。
①接着面の剥離(損傷)
コロラドでいうとアウトチューブ上部の白と色付き(画像では緑色)の生地の境目です。この継ぎ目がスターンの端まで延びていますがこの接着面が剥がれた場合は修理不可です。ボート製造を手掛けるBEEさんも接着面の剥離はリペアしてもまた剥がれるリスクがあって保証できないから無理というくらいです。
特にコロラドのスターンは生地同士を餃子の耳のように貼り合わせているのでより修理ができなくなります。
ただ貼りあわせただけでは上の図のように接着面の一点にのみ負荷がかかってしまいすぐに剥がれてしまいます。
そこで製造工程で接着面に図のような当て布をする事により負荷を分散させて剥がれないようにしているのです。
これは製造工程で入れる物であり自分たちで修理の時に入れるのはほぼ不可能です。
また、通常の重ねただけの接合部も接着剤などが残ってしまい修理が難しくなります。そのため接合部から剥がれた場合はほぼ諦めるしかない状況という事になります。
②フロア内の隔壁剥離
ほとんどのラフトボートが上の画像のようのボコボコとしたフロアチューブになっています。AIRE Super Pumaも空気が入るインナーチューブはこのような形状をしていますし、コロラドもサイズは違えど同様の形状をしています。
このボコボコ感はチューブの中に一定間隔で赤線のような隔壁が入っているのです。
図は隔壁を真横から見たイメージです。空気が通れるように丸い穴が一定間隔で空いています。この隔壁が経年劣化などにより破れてしまう事があります。一箇所が破れると破れた衝撃で周囲の隔壁にも負荷がかかり連鎖的に壊れます。圧によっては連鎖的に一列全部いくということもあります。
断面で見ると上の図のようなイメージです。外から見ても不自然に一部が盛り上がったようになります。基本的には経年劣化で起きる損傷です。
こちらの損傷は外傷ではなく内部損傷なので手の施し用がありません。AIREのようにフロアだけ取り替えられれば良いのですが、一体型のボートは諦める以外ありません。
③バルブ・オーバープレッシャーバルブの不具合
バルブ類も壊れると交換以外リペアが効きません。バルブは逆流防止弁の様な構造になっておりバネやパッキンなどが入っており小石を噛んだり微妙なズレで空気が漏れたりとなかなか繊細なパーツです。あまり気にしない人も多いのですがバルブの穴に水を溜めておくのも良くありません。レースの際にキャップを閉めないのも最悪で穴の中に水が溜まると内部に侵入はしないものの徐々にパッキンが水を吸って膨張します。逆流防止弁のパッキンが水を吸って膨張してしまい内部構造に引っ掛かって空気が漏れるというバルブも見た事があります。そうなってしまうと乾燥させてもパッキンがグズグズになってしまい空気もれします。
幸いバルブは2,000円前後で購入できて手順さえしっかりと踏めば素人でも交換できますが、ダメになったバルブ自体の修理は基本的には不可能です。
よくある損傷とリペア方法
それではここからはよくあるラフトボートの損傷とその対処方法について解説していきます。あくまでも個人的に聞いた話や実践している内容でありメーカーとしては推奨していないものもあるかもしれませんのでご注意ください。
①擦り切れ・裂け・穴
前述したボートの接合部や継ぎ目は不可能ですが面部分の穴や岩に擦って裂けてしまったであればリペア可能です。もちろん大きさによっては不可能ですが30cmくらいまでならリペアできます。
岩に擦って裂けたといった場合やピンホール(小石などが噛んでできた極小の穴)なども減速やることは一緒なのですが、鉄筋などが刺さって穴が空いてしまったりAIREのインナーのように空気圧で一箇所に穴が空いてしまったりした場合は修理工程で注意が必要です。
空気圧によるオーバープレッシャーでバーストした場合は一点に負荷がかかって外側にゴムが伸びてちぎれるように穴が開きます。鉄筋などによる外部からの衝撃の場合はこれが内側に入ります。
よくこの伸びてクタクタになった部分を綺麗に織り込んで接着しようとする人がいるのですがそれでは接着面に凹凸ができてまた負荷がかかり剥がれてしまいます。そのためこのクタクタになった部分はハサミなどで切り取ってキレイな穴にします。裂けてしまった場合も同様で損傷箇所にあるほつれや余分な糸などは切り取っていきます。
また、以前リペアした箇所が再度壊れたという場合には周辺の接着剤等もキレイに取り除いてください。古い接着剤が残っているとキレイに張り付きません。
損傷箇所をキレイにできたらまずは内側からシーリングテープ等で穴を塞ぎます。図のオレンジ色①です。内側から穴を塞いでおかないとリペア用の生地に接着剤をつけて押し当てた際に接着剤が内側に入ってしまい最悪チューブの内側の別の箇所と接着してしまい大変な事になります。この目張りも極力テープと生地の間にシワが無いように貼れればベストです。この内側からの目張りが一番難しいまであります…笑。
内側から目張りできたら少し大きめに切った生地を上から接着剤で圧着します。ここでのポイントは記事は角なく丸く切ったほうが良いです。◻︎に切ってしまうと角の部分に負荷がかかり擦れたりした際に剥がれやすくなってしまいます(損傷箇所やボートの種類によって例外はあります)。◯で切ると角がなくなるのできちんと貼れさえすればなかなか剥がれづらくなります。
②Dリング接着部の剥がれ
コロラドにはDリングはついていませんが近いものでアウターの紐を取り付けるベースの様なものがあります。ボートを持ち上げる際などに頭の上に乗せたりひっくり返してかぶったりせずに紐を引っ張って運搬しているとこちらも経年劣化で剥がれる事があります。これだけであれば空気が漏れることもありませんし性能に問題はないのですが、しっかりとくっついていないとセルフレスキューやフリップリカバリーの際に剥がれて非常に危険です。
剥がれたベース部分をゴリラテープなどでベタベタに貼っているチームも見受けられますが耐久性もなければ見た目も悪いです。
こちらの修理方法も穴の修理などと同様で残っている接着剤をキレイに落としてよく乾燥させ張り合わせるというのが主となります。
③バルブキャップ周辺のエアーもれ
最初にバルブキャップは修理できないと書きましたが、それはあくまでもバルブキャップそのものの機構が壊れたり不具合が起きた場合には自力ではいじれないというだけで、バルブキャップ周辺のエアー漏れに関しては修理できます。
色々とエアー漏れの実例を見てきましたが「バルブ周辺のエアー漏れ」が一番多い気がします。損傷しているわけではないのでゆっくりと空気が抜けていく事が多く1時間〜2時間は耐えられるため練習やレースでも途中で空気を注ぎ足したり最初からエアー漏れする前提で多めに空気を入れて使ったりしているチームが非常に多いです。
しかし、これも放置しておくと後々面倒臭い事になります。
通常のバルブイメージは上の図のような感じだと思います。
しかし実際はもっと隙間に色々なパーツが入っています。
メーカーやバルブ形状にもよりますが大体パッキンやOリングはついています。また、AIREのバルブは表面に少し厚塗りになった接着剤がついておりOリングと接着する事により機密性を高めているものもあります。
さらにAIREの場合インナーチューブとアウターチューブを止めるアンカーの役割もバルブが担っているのでバルブ周辺は不具合が起きやすいです。
「AIREのラフトはないから大丈夫!」と思っていてもダッキーのリンクス2やスーパーリンクスはAIRE製ですしトムキャットやストライクもAIREと同じ製法でパーツも共有なので意外と色々なところにあります。
一番多いエアー漏れの原因は使用によるズレでバルブ位置が動いてしまい隙間から抜けるというものです。また、接着剤も経年劣化するのでボロボロになって機密性が下がりエアー漏れするといった事例もあります。
修理方法としては一度バルブを外し再度接着剤などを塗り直して張り合わせるという方法です。
この時もバルブ周辺についた接着剤カスはキレイに取り除きましょう。
リペアに使える道具とテクニック
ここまでやり方や大まかな流れを解説しましたがここからは実際修理で使う道具やちょっとしたテクニックにつて解説していきます。
①接着剤
ラフトの修理となるとボンドG17信者が時折現れるのですが個人的にはあまりおオススメしません。もちろんG17がベターな場合もあるのですが生地と生地をつけるのであればあまり良くありません。
オススメは「PVC用」と書かれているものです。
GLIDER PVC用 (Amazon)
コロラドにはありませんがボートによっては購入時にリペアキットがついてきます。それに入っている接着剤と同じか近い成分のものが理想です。こちらのGLIDERはよくSUPなどを買うとついてくるものとほとんど同じです。
実際に使って匂いを嗅ぐとわかるのですがシンナーが入っています。プラモデル糊にも入っているプラスチックの接着に用いられるものです。
②接着剤のカス落とし
リペアを重ねたボートや古いバルブの周辺にはボロボロになった接着剤がこびり付いて残っている事があります。その上から再度接着剤をつけても接着剤×接着剤になってしまいうまくつきません。そのカスを落とさなければならないのですがその際にはホームセンターなどにも売っている「アセトン」が便利です。危険物なので少量販売しかしていませんがそんなに大量には必要ありません。雑巾やペーパーに染み込ませて擦ってやると溶けて落ちやすくなります。吸い込みすぎないように注意しましょう。
アセトンが用意できない場合寒冷地の方は「灯油」でもいけます。アセトンは石油精製の溶剤なので灯油にも同じ様な効果があります。こちらも引火や吸い込みには注意しましょう。
③サンディング(傷出し)
パドルを修理するときなどは樹脂や接着剤をつける面にサンディングを施して接着剤が浸透しやすくします。パドルの場合は丁寧に光っている部分がなくなるまでサンディングをしなければならないのですがラフトボートやSUPなど生地の場合サンディングすると生地そのものが弱ってしまうのでサンディングしてはいけません。これはボートメーカーの方に言われたことなのでほぼ確実な情報かと思います。
④ゴムメーカーで圧着
AIREのインナーに使われている生地は端の部分を熱で溶かして圧着しています。
国内にもそのような機材を持っているメーカーはたくさんあるので近場の工場を探して直接問い合わせてみてもいいかもしれません。
実際にその方法で弘前大学探検部さんは1艇復活させていました(何年か前の話です)。
まとめ
自分たちでリペアを行なっている方にとっては今回の記事は当たり前のような内容でした。
ラフトボートはゴム製品なのでFRPほどではありませんが修理ができます。大切にリペアしながら使えばコロラドも10年近く使えます。
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