今回はよくあるミスを検証していきます。
カヌー・カヤックだけではなくラフティングでもよくあるミスです。失敗したのなら「なぜそうななったのか」というのをぜひ一度検証してみてください。
今回はこの失敗の検証をしていきます。
前提条件の確認
動画の検証以前に前提条件の確認を行います。
- Vウォッシュ(バックウォッシュ)の右岸岩裏のアップゲートを取ろうとしている。
- 右漕ぎである。
確認するのは以上です。「ふざけてんのか!」と言われそうですがそうではありません。重要です。C-1にとってどっちのゲートへどっち漕ぎで狙っているのかはとても重要です。
C-1である以上フォアサイドとクロスサイドが生まれます。これ抜きに語ることはできません。
エントリーのミス
まずはエントリーから解説していきます。
通常Vウォッシュの頂点は狙いません。なぜかというと複合流になってバランスが取れないからです。またバックウォッシュの幅が広くなりがちでその分減速してしまうので使いません。そのためVのバックウォッシュのどちらかに狙いを定めて突っ切ります。今回の場合は右アップなので右側のバックウォッシュに狙いを定めて勢いをつけて突っ込むのが理想でしょう。しかし、この動画ではほとんど勢いを感じません。現に沈したときにはスターンがバックウォッシュの一番強いところに残っています。
バックウォッシュを越えてエディーラインに引っかかって沈したのではなくバックウォッシュに負けてバランスを崩し沈しています。エントリーからスピードがなくバックウォッシュを突破する力がなかっとというのが一つの原因でしょう。
パドリングのミス
それではなぜ突破するスピードがなかったのでしょうか?
スペースがあれば上流からガンガン漕いで勢いをつけて突っ切ることも可能ですが、そうでない場合もあります。スラローム競技や自然的要因による制約がある時もあります。そんなときに重要になるのが「タイミング」です。どのタイミングでどこをパドリングするのかというのは非常に重要な要素となります。
今回の動画ではそのタイミングを合わせた重要な一打がないどころか逆張りで漕いでしまっています。
Vウォッシュ(バックウォッシュ)というのは別名ストッパーと呼ばれホールのように波が巻き返しておりどんな角度であれ艇が当たると減速します。ストッパーを突っ切る方法は2つあります。①そもそもストッパーに突っ込まないラインを作る。②加速しながら勢いをつけて突っ切るです。スラロームであそこにゲートがある以上②を選択するしかありません。
それではどうやるのかですがここからが重要です。おそらくラフターの多くは「波の頭(トップ)を押さえろ!」と言われたことがあるかと思います。私もそう教わりました。それによりストッパーの上にパドルをさしにいこうとする人が現れます。残念ながら間違いです。通常パドリングに正解や間違いはないのですがそれは間違いです。トップにパドルをさすのはウェーブの越え方でありストッパーは別です。ストッパー・バックウォッシュというのはホワイトウォーターと呼ばれ一定比率空気を含んでいるのでそこにパドルを入れたところで掴むものは空気です。また、サイズにもよりますがストッパーの頂点にパドルが届いている時点でボートはストッパーにあたり減速してしまっており、加速しながら突っ切るというコンセプトはなくなり何もしないとひっくり返るからハイサイドしているだけの人になってしまいます。それではどこでパドリングするのかというと手前のクリアウォーターのところです。バックウォッシュ手前で吸い込まれていくようなクリアウォーターがありますがこれをフェイスと言います。このフェイスをパドリングしながらボートがストッパーに突っ込むのが理想です。ポイントは「パドリングしながら突っ込む」です。突っ込む手前で漕ぎ終わってもダメですし、突っ込んでから漕いでいては手遅れです。漕いで加速しながらストッパーに入るが原則です。そして漕ぎ切ったら素早く前に切り替えしてバックウォッシュの先のクリアウォーター(アウトフロー部分)にまた次の一打を入れるまでできれば上出来です。
それでは動画ではどうなっていたでしょうか?スターンラダーを入れています・・・。ボートは短ければ短いほど回転性が向上し、直進性が失われます。ただでさえ突破力のないボートなのでやはりここはファワードしていたかったですね。静水であればスターンラダーからフォワード・キャッチで良い感じのアップゲートラインかもしれませんが、流水で手前にストッパーがあるとそこに合わせる方が重要になってきます。できるようになってくるとストッパーによる減速まで計算に入れた上でラインを作って、いかに楽して入るかなどを考えたりします。
左右での有利不利
最初の前提条件で確認しましたがC-1である以上左右が生まれそれによる得意不得意が出ます(近年はスイッチパドルといって持ち替えることで左右の有利不利をなくす選手が多くなってきました)。
今回の動画では右漕ぎ・右アップなので本来は狙いやすい条件が揃っています。多くの人が自分の漕ぎ側が回転慣性のインサイドになった方がコントロールしやすいはずです。
フェリーグライドやストリームインも同じでやはり得意側不得意側が出やすいのがC-1です。ボートや漕ぎに慣れてくるとクロスサイドでも同じように動けたり身体の捻りを使いこなせるようになりますがそれでも得意不得意は生まれます。
しかし、一見得意側のアップに見えますが今回はストッパーが入ることによってそれが崩れています。右漕ぎで右のストッパーを使うということは抵抗を受ける方向は左から上流向きとなり自分のパドルも上流にあることになってしまいます。体重をかけてバランスを保てるハイサイドがクロスサイドなので緊急時にはやられやすい体勢になってしまいます。どんなに漕ぎを磨いてクロス側に慣れてもどうしてもパドルがないクロス側への抵抗は難しいのが現実です。漕ごうとしてもクロスに入れ替える一瞬が命取りで沈してしまいます。W杯やオリンピックでトップ選手もちょくちょくこれで沈します。
これまで説明してきたようにどうしても得意不得意が出てくるC-1ではそこまで考慮して漕ぎやラインを組み立てていく必要があります。
※余談ですがジャパンカップレベルでも右有利・左有利なゲートセットと偏りが出ます。自然河川で完璧に公平にするというのは不可能でしょう。そんな中でもできるだけ公平にセットし且つそれぞれにしっかりと意味のあるゲートセットを作るのがセッターの腕の見せ所でしょう。思い切り偏ったセットを作る人はア◯セッターということになります。
くずれた後の処理
バランスが崩れるとどうしても無意識にブレイスを入れたくなります。おそらくここでも崩れた後ローブレイスを入れてバランスを取ろうとしています。私も無意識でやってしまうこともありますが、あまりオススメはできません。理由は単純で肩の負担が大きいからです。井田川や人工コースのような流れの強い川でストッパーなどにハマってしまった際も多くの人がバランスを取ろうとブレイスを入れます。しかし、それで肩を痛めたり亜脱臼したりという話をよく聞きます。御岳のような川でも自然の川で水圧は十分にあるので痛める可能性は十分にあります。
それではどうすれば良いのかというとスイープです。えっ!?と思われるかもしれませんがスイープです(笑)。カヤックに乗ったことがある人はロールを思い出してください。人によって呼び方は違いますがエスキモーロールと言って教えるのはほとんどの場合がスイープロールです。私がいたコンセプトではスイープだとフィニッシュで頭が後ろになって次に繋げにくいという理由でCtoCでしたが、通常はスイープの方が上がりやすいのでそっちで教えます。スイープロールは水面を大きくスイープすることによってパドルの浮力を保ちその間にボートを起こすというものです。これがバランス確保にも応用できます。フォワードやスイープをすることでパドルを軸にでき立て直すことができます。ファワードでも良いのですがストローク幅が長いのと遠くを漕いだ方がバランスが取れるという理由からスイープが推奨されています。
まとめ
今回はストッパーのクリアについて解説しました。
文字だけでわかりにくかったとは思いますが次でまた試してみてください。
ポイントをまとめると次の5つです。
- エントリー角度は決めておこう。
- Vウォッシュの右か左を決めて勢いよく突っ切る。
- バックウォッシュ(ホワイトウォーター)は漕がない。
- パドリングのタイミングが重要。
- 静水と違って流れを使うことを考える。
寒い季節に体を張って泳がないようにがんばりましょう。
今回例にあげた動画では泳いでしまって明らかに失敗だなとわかりますが、みんながやりがちなミスの一つです。運よく泳いでいないだけで泳いでもおかしくないような漕ぎをしている人はたくさんいます。
追加:ステップアップ
ストッパーのクリアについて解説しましたが、これには続きがあります。
ここからは一歩踏み込んだ話となるので人によって解釈や考えが変わってきます。鵜呑みにせずご自身で取捨選択してください。私はスラロームの師匠にそう教わったし自分で試して正しいと思ったというだけです。
これまでの章でストッパーは手前のクリアウォーター(フェイス)を引きながら突破と書きましたが、そこに「リーン」を加えます。リーンというのは本来フリップさせないための技術ではなくボートを傾けることによりエッジングさせたり普段使わないボート側面を使ったり水を受け流すための技術です。
ストッパー突入の際任意の方向にリーンさせることによりボートをエッジングさせ回転慣性を固定させてしまいます。今回の動画の条件だと右漕ぎ右アップなので私なら右リーンを効かせながらエディーに入りキャッチのタイミングに合わせてフラットに戻します。スラ艇でやるニュートラルターン(スターンカット・ピボットともいう)の応用です。インフレボートなのでスターンは入りませんが流れは受けられるはずです。
大型のラフトボートだとそこまでリーンは効きませんがダッキーや個人艇だと顕著に現れます。①どの方向に②どの程度③どのタイミングで④いつ辞めるのかが重要になってきます。それは条件や個人の技能によるところが大きいので一概には言えません。それぞれが研究してみてください。
注意点:あくまでストッパーのクリアができるようになった後のステップアップです。いきなりやろうとしてもやること多すぎてわけわからん状態になるのでやめてください。
過去記事も読み返して「伝わりにくいな」と感じたところなどはちょくちょく修正入れてます。気が向いたら読み返してみてくれると嬉しいです。
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