レースラフティングの大会に行くとだいたい夜はみんなでお酒を飲んでどうしようもない話をするのですが、そんなどうでもいい話の中でも少し気に掛かる話題が時折出てきます。それが「川下り(パドリング)の楽しみ方」についてです。
今回は技術的な話などではなく少し概念的な話になります。しかし、学生ラフティングを卒業すると「引退」や「卒業」してしまう人の多いレースラフティングにおいては非常に重要な問題で核心に迫ることかなと個人的には思いますので取り上げさせてもらいました。
そもそもの話題は・・・
これは長良川wwfの夜にコテージで現役の子達と飲んでいて話題になったことです。
現役の子が話の流れから「今まで降ってきた川の中でどこが一番好きですか?」と振ってきました。そんな時私が答える川は決まっています。
「長野県安曇野の万水川」
です。ラフティングでいうと「安曇野カップ」「前川」「ニジマスカップ」と言った方がわかりやすいかもしれません。安曇野の竜門淵公園の少し上流です。
私も現役の頃からさまざまなハイウォーターを降ってきましたしもちろんハイウォーターやレースで行く川も楽しいとは思いますが1位はダントツで万水川です。
行ったことがある方は分かるかと思いますがハイウォーターとは対極にある「せせらぎ」です。
なんでそんな川が好きなのか
レースラフティングというと激しい川でスラロームをしたり飲み込まれたらフリップするような激しい瀬をかわしながらDRをしたりします。もちろんその競技自体は面白いですし技術を要求されるので奥が深いです。
しかし、万水川はそんなところがほとんどありません。
スタートは運動公園横のスペースに車を停めて周りには住宅街も見えるような場所からボートを出します。川幅も4m程しかなく護岸工事されているので「え!?こんな場所から降っていいの?」という日常の中に生まれるワクワク感があります。そしていざスタートするとサーと流れておりほとんど漕がなくても操船しているだけでゆっくりと進みます。そこから徐々に森の中の様な雰囲気になり非日常感へと変わり、そのうち大王わさび農園の風情ある水車が出てきて立ち寄ることもできます。そして最後に森を抜けると犀川に合流し急に視界が開け後ろを見るとアルプスが見えます。とにかく緩やかなので怖い場所や危ない場所はなく初心者でも川下りが体験ができるレベルです。それなのに景色の変化があって飽きることなく楽しませてくれる最高の川です。
そんな話をしたら・・・
そんな川だよということを説明したら「川を景色とかで考えたことなかったです」と言われました。現役の子達からしたら如何に上手くなるか、如何にレースで勝てるかが重要であり川はそのためのフィールドでしかないのでした。もちろんその考えも間違っていませんし競技ベースでやると究極的にはそうなるでしょう。しかし、現役なのでラフティング自体初めてまだ4年未満でその考えもいかがなものかと少し心配になってしまいました。
内在する問題
何が問題かというとレースで勝つことが目的になってしまうと大学卒業やチーム解体と同時に目的を見失う可能性があるのです。卒業したりそれまで練習していたチームを解体するとまた1から練習し直さなければなりません。もちろん個人が身につけた技術が無になるということはありませんがチームスポーツであるレースラフティング競技においては個人の能力だけでは限界があります。さらに社会人になるとそれぞれに仕事や家庭ができてなかなか集まることもできず結果も振るわなくなります。そうなると「表彰台に立つ」や「(チームとして)上手くなる」という目標が達成できなくなってしまいそのうちつまらなくなってしまいます。
私が在籍していた頃の探検部界隈でも現役で頑張るのは3年生まででやる気がある人は4年でリバベンオフィシャルをやってそれ以外の4年はリバベンも出ず長良川wwfなどに出て引退試合という人が非常に多かったです。
勝つことが目的になってしまうと勝てなくなると察した瞬間引退してしまうのです。
そのため卒業後も残っているOBの数も各世代数人ずつしかいません。私の代に至っては自分しか残っていないレベルで少ないです。
現役の子を見ていると
よく弘前大学探検部さんと一緒に移動したり練習したりしますが特に最近は競技志向が強い様に感じています。もちろん他大学の探検部さんも同様で楽しいだけの川下りをした事あるのか?というレベルで練習だけしている印象です。
大体どこの探検部さんも似たような感じですが1年生で入学するといきなりリバベンは出られないので川をやっている先輩たちが暇になる(リバベン練習がなくなる)6月くらいまで放置され7月くらいに体験川下りをして夏休みはに1・2本ツーリングの計画が出るけど技術的・金銭的に折り合いがつかず見送って、秋の御岳カップに向けていきなり練習から入り訳も分からずレースに出されるというサイクルをしていました。川下りの本当の楽しさを知らないままいきなりレースに向けた練習をさせられると楽しいも何もなく「部活」になってしまいます。そのため15年前と比べて確実に学生チームの技術レベルは上がっていますがその分卒業と同時に辞める人も多くなっている印象です。
色々な川の楽しみ方
「レースで勝つ」も「景色を楽しむ」も両方立派なモチベーションです。しかしながらそれを一つに絞る必要はないと思います。
万水川の場合であれば長野の安曇野なので信州そばなど美味しいところがたくさんあります。降っている最中に見える大王わさび農園でお土産のワサビを買うのも楽しみの一つです。また、今回も例として出ている長良川は鮎が有名です。鮎の内蔵などを塩漬けにした「うるか」という有名な珍味もあります。高速で少し移動すると合掌造りの白川郷もあります。みんなが行きたがる吉野川もほんの少し移動すると祖谷の奇橋「かずら橋」という超がつく程有名な観光スポットがあります。
川や漕ぎにいったついでに地域を観光するのも一つの楽しみ方です。
東京奥多摩で長くガイドをしていましたが、初めて体験される方などは白丸湖にSUPで浮いて横になって空を見ているだけで「気持ち良い」という方もたくさんいらっしゃいます。
都会を離れてのんびりとした贅沢な時間を過ごすというのもパドリングの楽しみの一つです。
最後に
川やパドリングの楽しみ方は多種多様です。
ボートもカヌー・カヤック・SUP・パックラフト・・・などさまざまあります。パドルワークに関しては通じるところがありラフティングの技術が活かせたりする艇種もたくさんあります。
社会人になると学生のアルバイトと比べると経済的には多少余裕ができるのでSUPを買ったりパックラフトを始めたりとできるようになります。それを卒業と同時に「引退」というのは小説のプロローグだけ読んでやめてしまうようなものです。
モチベーションは人それぞれで良いのですが「競技」「表彰台」といったレース志向なモチベーション以外にも「景色」「観光」「親水」などの純粋にフィールドを楽しむモチベーションも持ち合わせなければ長くは続けていけないような気がします。
競技志向ももちろん良いのですがぜひ一度「ただただ楽しいだけのパドリング」を味わってみてください。やめられなくなるはずです!逆にこれが根底にあれば多少キツイ練習でも乗り越えられる様になります。
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