今回のテーマは学生の頃なかなか教えてくれる人がいなくて悩んだ課題の一つでした。
もちろんカヌーをはじめて解決しましたが、いまだに学生ラフターたちを指導すると同じ勘違いをしている人が多く見受けられます。
「スライス」と「バウラダー」を使い分けられるだけでも戦略の幅がグッと広がりますので興味のある人はぜひ最後まで読んでみてください!
※カヌースラロームに精通している人が読むと「実践的じゃない」と感じるところもあると思います。しかし、ここではあくまでも「基礎理論」というものを解説していきます。
よくある勘違い
「スライス」と「バウラダー」は確かに似ています。
何チームかで練習していた際「スライスってどうやる?できる?やって見せて」と他のボートの後輩に聞いてみたところ「できますよ!」と自信満々に言ってしっかりバウラダーしてくれました!笑笑
構え方やパドルの起点はほとんど一緒です。しかしこの二つは似ているようで全く違います。
「スライス」の意味
「スライス」は名前の通り水を「スライス(切る)」する技術です。パドルを垂直に立ててブレードのエッジで水を切ります。
ポイントはパドルに抵抗がかからない状態で水に入れておくということです。フォワードであればパドルのパワーフェイスに抵抗がかかり、バックストロークはバックフェイスに抵抗がかかります。その他にもラダーであれスカーリングであれパドルのどこかしらに抵抗がかかります。むしろ抵抗がかかるから船に影響を与えることができます。
ではなぜ抵抗がかからない状態で水に入れておくのでしょう?「何もしないなら水からパドルを抜いているじゃダメなの?」とよく聞かれます。
水からパドルを抜くのはダメではありませんが決して良くありません。理由は「反応が遅れるから」です。
流水においてボートは流れや風など様々な影響を受けます。その際パドルが抜けていると「①ボートの反応に気づく→②どうするか考える→③パドルをいれる→④水をつかむ→⑤対処する」といったようにボートが予想外の動きをした場合対処までの行程が増えます。また、状況によってボイルなどにハマったりするとうまく水をつかめず対処できないという事にもなりかねません。
しかし、スライス状態でパドルを水に入れておくとボートの反応に自分が気付くよりも早くパドルが反応します。いきなり船が動くので変な感覚でパドルに抵抗がきます。その際にパドルを握ってブレないよう押さえてあげるだけで微妙なズレなら修正していけます。
実際に「スライス」する場面は?
フォワードするわけでもなく何をするでもなく「抵抗なしで水に入れているだけ」と聞くともどかしくなってしまいますよね?笑
では実際どういう場面でスライスを使うのか解説していきます。
スライスの主な用途は「待ち」です。
もっと噛み砕くと「タイミングを取る」技術です。
- ・漕ぎたいけど慣性があって漕げば曲がりそう…
- ・ウェーブに合わせるのに1パドル漕ぐと合わせられなくなりそう…
- ・ストリームインでエディーライン踏み切る一打がなかなか合わせられない…
- ・奥めのアップゲートで漕ぐわけにもいかないけど何かしないと周りとタイミングが…
などなどタイミングを合わせるのに苦労したことはありませんか?全て「スライスを入れて待つ」で解決できます!(もちろんスライス以外にもタイミングを合わせる方法はあるのでそこは好みです)
スライスのまま水にパドルを入れて待ち、タイミングがきたらそのままフォワードストロークに切り替える。すでに水にパドルが入っているのでストロークまでスムーズに行けて非常にタイミングがとりやすくなります。
バウラダー
では次に「バウラダー」について解説していきます。
「バウラダー」は名前の通りバウ側でやるラダーです。通常「ラダー」と呼ばれる後ろにパドルを流してやるのは「スターンラダー」と呼びます。ダッキー練習について解説した際「Jストローク」と「Jラダー」は違うと解説しましたが、「Jラダー」も後ろでやるのでスターンラダーの一種という事になります。
補足になりますが「スターンラダー」は減速(ブレーキ)すると思っている人が多いのですが、それは大きな間違いです。確かに漕がないので加速はしません。厳密には水の抵抗により一定のペースで減速はします。しかし、ラダーそのものでは減速しません。減速するのは「ラダー」ではなく無理矢理「ブレーキング」させて方向転換をさせているからです。
「バウラダー」というとスライスの状態から前に向かってパドルを開く⤴︎こんな感じの軌道をイメージしている人が多いのではないでしょうか?笑
間違いではありませんし、実際にパドリングの本なんかではこう紹介されたりもしています。しかし、私は教えるときは「前に向かって開く」ではなく「スカーリングの前に行くやつ」といっていました!笑(スカーリングがわからない方はyoutubeで検索してください…)
一度本に書いてあるものを見ましたが「そんなにパドル開いたら手首壊れるわ!笑」というぐらいの軌道でした。わかりやすく書いてはあるのですが鵜呑みにすると間違った漕ぎ方が身につきそうな本もありました。
「バウラダー」の特徴は「クイックにバウの向きを変える」「そのままフォワードが打てる」というところにあります。
「スターンラダー」は減速させないためにジワジワ効かせるのに対して「バウラダー」はクイックに効かせます。また、バウ側にパドルが移動するのでそのままフォワードに移行できます。さらにバウラダーを極めるとラダーで加速できます!(←かなり難しいです)
しかし、バウラダーには欠点もあります。クイックにパドルを動かすので船体が思いラフトボートだと効きが悪い場合があります。また、名前の通り「バウ」で使う技術なので後ろに座る2人は基本使話ないです
まとめ
よく勘違いされる「スライス」と「バウラダー」について解説してきました。
スライス
- ・間をとったり、1パドル待ったりする時に使う
- ・抵抗なしの状態で水に入れておく
- ・場合によってはフォワードでもバウラダーでもそのまま移行できる
バウラダー
- ・バウで行うラダー
- ・クイックに方向転換ができる
- ・重い船だと効きづらい事もある
簡単にまとめるとこういった感じでしょうか。
レースだとどうしてもガツガツ漕ぎたくなりがちですが、ゲートにアプローチしたり岩ギリギリを通ったりする場合などはタイミングをとったり一拍漕がないといった事も大事です。漕ぎすぎてエディーの奥まで突っ込んでしまったり、慣性を悪い方向に変えてしまうチームをたくさん見てきました。
ホールやシュートを突破する際などは「スライスでタイミングを合わせてフォワード」というのがセオリーとしてあるのですがそれは主旨が変わってくるのでここでは解説しません。
最後に、「あえて漕がない」という時間も大切です。スライスとバウラダーの使い分けと同時に「漕がなくても進む」ということへもぜひ目を向けてみてください。
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