パドル選び『構造と材質』

日本国内におけるレースシーンの現状としてほとんどの選手がGala sport(以下:ガラ)のパドルを使っています。カヌースラロームも国内ではボート並びにパドルのシェアNo1でしょう。確かにボートに関してはカイピフィンという近年のフィン一体型ボートのニーズにしっかりと応えた乗りやすいボートがあります。しかし、それと同時にパドルまでガラを使う選手が非常に多いです。ラフティングに至っては90%以上の選手がガラなんじゃないかというくらいガラが信仰されています。その大きな要因としては安定供給できるというのがあるのでしょう。国内メーカーのZOKENさんが輸入していて工場をやっているので自社で組み立てや塗装までして出してくれるので余程在庫がないかマニアックなものを注文しない限り比較的早く年中いつでも買えるというのが大きいのでしょう。その反面ガラ生産工程に大きな問題を抱えておりパドル自体の強度に影響が出ています。余談ですが一時期修理の仕事もしていましたがガラは他のメーカーよりも壊れやすく壊れると大きくいきます。

もちろんガラだけではなくアジアの新興メーカーも似たような問題を抱えたりしています。今回はそんなパドルの構造や材質について解説していきます。パドルが損傷した際には樹脂と生地を用意し自身で修復することもできるので参考にしてみてください。

galasport TE

基本構造

現在レースシーン使われているパドルはほぼカーボン(炭素繊維)パドルです。物によってはカーボンとケブラー(アラミド繊維)を組み合わせて編んだ物を使用している場合もあります。そこにエポキシ樹脂をなじませてオートクレープといって焼いたりして作ります。(ちなみにカーボンは炭素だから燃えると思っている人もいますが精製温度が1000℃を超えており安定しているので基本燃えません)

①構造

パドル構造 断面

ガラのC-1パドルのようなコア材を使うパドルは上の図の様な構造になっています。これに樹脂を馴染ませて真空パックの様なものに入れ空気を抜いて固めます。

パドル構造 面

コアは全面に入っているわけではなく外周5mmほどには入っていません。外周は単純にカーボン同士を張り合わせただけの構造になっていることが多いです。

パドルを太陽などに透かしてみるとコアが入っている部分といない部分とでなんとなく境目が見えます。

②材質

よく「カーボンパドル」と呼ばれますが必ずしも全てがカーボンというわけではありません。実際にはケブラーやグラスファイバーなどさまざまな繊維が使われている場合があります。表面に見えていなくても切断してみたら中にケブラーが使われていたりというのはよくあります。よくケブラーが入ると柔らかくなってしなりやすいと言われますが、工場の人に聞いたところ硬さは基本的には樹脂の硬さなので同じ樹脂を使っていれば基本的には変わらないはずとのことです。ただ、単位面積あたりの重さや厚さは生地によって微妙に変わるのでそれにより樹脂を吸う量が変わったり厚さに変化が出て違うように感じるのかもしれないとのことでした。

樹脂で固める前のカーボンシート

パドルの先端に入っているチップもメーカーごとに微妙に異なります。今現在は分かりませんがガラのメタルチップにはジュラルミンが使われていました。確かに強度は出るのですが耐食性に劣り海に近い汽水域ではチップが錆びやすく剥離の原因となります。アルミチップというメーカーが多いのですがこちらは耐食性はあるものの強度がジュラルミンほど高くないと一長一短あります。

jantex先端のアルミチップ

現在ではあまりみませんがダブルダッチの一部のパドルには「ケブラーチップ」が使用されているものもあります。ケブラーは繊維なのでアルミやジュラルミンに比べて耐摩耗能力が低く使っていると徐々に削れていってしまうのですがその分金属のように折れ曲がることもなく樹脂の馴染みが良いので剥離も起きづらく削り取れるのでメンテナンス性も高いという特徴があります。チップの材質というのはパドルを選ぶ際の一つのポイントになるのかなと個人的には思います。

特徴的な構造

基本的にはガラのシングルブレードのようなパドル構造が基本となります。

時折少し変わった構造のパドルもあるので紹介していきます。

①組み立て時の挿入方向が逆

ここまで紹介してきたガラや多くのメーカーのC-1パドルと構造が大きく異なるものといえばシャフト側をブレード側に挿入するタイプのパドルでしょう。

シャフト接合部イメージ図

多くのパドルは図の左側のようにシャフトに対してブレード側の軸が挿入されます。しかし、パドルによってはシャフトがブレードの受け口に挿入されるタイプのものがあります。どちらもしっかりと固定さえできれば強度に問題はありません。

右のタイプはどちらかというとシャフトが大径になるものか、ブレード面積が大きくなるものに多い印象があります。シャフトが大径になるということはブレードの軸(図のピンク)も同時に太くしなくてはならず軸ばかり太くするとパドルの上部が膨らんでしまうのでブレード側に受け口を作るという場合があります。面積が大きなパドルも似たような感じで細い軸から一気に面積を広げると負荷が集中して壊れやすくなってしまうのでシャフトよりも太いところからゆったりと立ち上げることにより負荷を分散させているのでしょう。

OPION SUPパドル ブレードoutシャフトin

②ブレードシャフト一体成形

ガラでは「MCQ」と書かれているシャフトとブレードに継ぎ目がなく一体成形されているものがあります。

一体成形の良さはなんといっても軽さです。ブレードに入れる軸や接着剤の分が軽くなるので確実に軽くなります。さらに漕ぎ味も継ぎ目がない分滑らかになります。レース中は気にならないレベルですが練習でスカーリングなどをして繊細な動作を入れると一体成形の方が圧倒的に滑らかに動きます。

デメリットは壊れたら修復が大変という点です。

パドル構造 面

先ほど出てきたこちらの図で解説すると、ブレードが壊れてコアまで水が入った場合分離型であれば軸の部分(図のピンク)が栓の代わりになって浸水は止まりブレードの修理だけで済みます。これが一体成形だと軸がないのでそのまま中空になっているシャフト側まで浸水します。こうなると中に水を残して修理はできないので(できるけど修理不全になりやすい)なんとかして水を抜いて乾燥させるという作業が必要になります。シャフト側にクラックが入った時なども同様で万が一水が入るとブレードの内部まで水が入るので弱いパドルはすぐに剥離してしまいます。

軽いけど万が一壊れた際のメンテナンス性が悪いのが一体成形の特徴です。

③コア材なし

レース用で使う人はあまりみませんがそもそもコアが廃いていないパドルもあります。厳密には軸の部分を延長してそこにコアを入れているといった方が正確でしょう。

マーシャスがかつて販売していたセミカーボンやグラスパドル・ダブルダッチのスピナー・オピオンパドルなどがこのタイプです。メーカーのHPを見るとラフティング用として販売されているのはこちらの場合が多く、コアを使ったものはスラローム用として販売されています。

コアが入らない代わりにバックフェイス側に背筋のようなものがついているものが多く、スライスの際に水を引っ掛けてしまう感覚があります。ラフティングのバウ側のように基本はガンガン漕ぐだけというスタイルの場合は向いているかもしれません。実際にかつてのラフティングワールドカップでヨーロッパ代表の女子チームが全員ダブルダッチのスピナーカーボンで揃えて出てきていたこともあります。

ダブルダッチスピナーグラス コア材無し&チップ無し

④硬さ選び可能

材質のところで少し触れましたが樹脂の種類や厚さによってパドル本体の硬さが変わります。

硬すぎると肘や手首の関節に負担がかかってしまうので女子選手やジュニア選手・小柄な選手などは意図的にsoftパドルを使うことも多いです。スプリントのパドルを生産しているjantexやBracaでは硬さや面積サイズの指定は一般的ですがgalaは3Mのサイズ指定や直径指定だけで硬さの選択はできません。

硬さの調整でカーボンの巻き数を増やしてしまうとシャフトの直径やブレードの形状に影響が出てきてしまうので樹脂による調整をしていると考えられます。

ラフティングではレアな構造

パドルスポーツはラフティング以外にもカヌー・カヤック・SUP・サーフスキー・ポロなど様々あります。パドルもそれぞれのフィールドや競技に合わせた進化を遂げています。

ここでは他の競技でも使われていてラフティングでも活用できそうなものを数点紹介します。

①ブレードエッジガード

一時期シークトルース(現在のスター商事)さんから発売されていた「ブレードエッジガード」というSUPのブレード先端に取り付けて摩耗を防ぐゴムパッキンのようなものがありました。これはゴムパッキンなのであくまで後付けでテープや接着剤で固定するものです。しかし、カヌーポロでは相手選手がいるコンタクトスポーツとなるためパドルが当たると非常に危険です。そのためパドル周辺に鋭利な場所がないようにするためと、衝突した際にカーボンが損傷してトゲが出ないようにあらかじめケブラーテープでブレードエッジガードが付けられています。

galasport ポロ用ダブルブレード

上の画像のパドルはZOKENさんによるブレードエッジガード施工なので壊れやすいシャフトとブレードの繋ぎ目まで強化してくれています。

当然重くなる&スライスのキレが悪くなるのでスラロームやラフティング用のパドルにはついていません。しかし、修理工場などでお願いすれば有料にはなりますがやってくれます。古いパドルや団体装備などで損耗が激しいものはエッジガードをつけてみるというのも一つの方法です。

②生地追加

ブレード側ではなくシャフト側や繋ぎ目の部分に施すオプションの一つにカーボン生地一層追加というのがあります。ガラはZOKENさんが仕入れた在庫でやっているのでできない可能性が高いですが、受注生産のメーカーでは相談次第でシャフトの下半分を一層追加で巻いたりできます。当然強度が上がりしなりづらくなります。強度が上がる反面デメリットとしては費用がかかるのと単純に重量が上がります。

③アジャスター

以前「パドルの長さ調整」という記事で少しだけ紹介したパドルの長さを調整できるアジャスターもラフティングパドルではあまり馴染みがないはずです。そもそもC-1パドルにアジャスターを積んだものが少ないので馴染みが薄いのでしょう。

スプーンパドルのアジャスター

ダブルブレードの場合長さの調整ももちろんなのですが角度の調整もになっています。また、ダブルブレードは200cmを超える選手も多く持ち運びの不便さからも半分にしてその都度組み立てる方が便利なのです。

リバー用であまり見ないのは構造上捻れねじれの力に弱くやりすぎるとシャフトのオス側が削れてしまったりアジャスターがおかしくなってしまいます。そのためスライスやバウラダー・キャッチなどグリップをひねる動作の多いリバー用には不向きといえます。

もちろん精度の高いアジャスターも存在しますし、長さ調整で模索している人に貸したりTグリップ交換などのメンテナンス性は非常に良いです。

まとめ

今回はパドルの構造と材質というちょっとマニアックな部分について解説しました。マニアックではあるもののパドラーにとってパドルは自分の手と変わらないものになるので少しでも知っておいて損はないはずです。

今度はこの記事をベースによくある損傷事例や対処・対策についても解説していきたいと思います。

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